63 『カウンターアタック』
ミナトが一層ツキヒを警戒して目をこらし戦っていると、ツキヒは不意に距離を取って、サツキに指先を向けた。
――今、どこか触っていたよね? 思い出せない。あんまり自然だったから。でも、どっちにしてもサツキのどこかの機能を奪った。耳が聞こえないのがもどかしいよ。サツキになにも教えられない。
ツキヒは薄い微笑でミナトを見て、
「続けよう」
と言った。
読唇術は持たないが、ミナトにもなんとなくそう言ったのはわかった。ミナトとツキヒがまた剣で戦う。
この横では、サツキが自身の変化に気づいた。
――耳が聞こえない。ツキヒくんか。
ヒヨクの攻撃をかわして、グローブで耳に触れる。耳が聞こえるようになって、ミナトとツキヒの戦いをチラと一瞥した。
――かなり自然に技を使ったようだ。ミナトからなんの注意も来ていない。……いや、本当にそうなのか?
とある可能性がよぎる。
――ミナトが、俺に注意喚起したくても、できなかったとしたら? その場合、ミナトはすでに身体のどこかの機能を止められていることになる。声か、目か、耳の可能性もある。最悪、俺から注意喚起しても届かない状況にまでなっているかもしれない。大丈夫か……? ミナト……。
サツキがミナトを心配していると、ヒヨクも考える時間を与えないようにどんどん攻撃の手を繰り出してくる。
「考えるのはあと。まずはぼくたちの決着をつけよう」
「……」
答えようとして、サツキは察した。
――声が、出ない。こっちもやられていたのか。
しかし、自分の口を触って魔法を解除しようとしたところへ、ヒヨクの手が伸びてくる。かわすには、自分の口を触っている余裕はない。
「ヒヨク選手がサツキ選手に決着をつけようと申し出ましたが、サツキ選手は答えない。なんらかの駆け引きが生じているのでしょうか。ミナト選手とツキヒ選手の攻防にも、そろそろ動きがありそうだぞー!」
一階席では、シンジが悔しそうに言った。
「まずい、ミナトが全然いつもみたいに剣を振れてない。サツキくんも、動きが鈍くなってる」
「そうだね。サツキくん、シングルバトルではもっと動きがよかったのに」
アシュリーが心配そうにサツキを見る。
「二人共、バラバラだ。意思疎通できてないっていうか、二人で戦ってることさえ忘れてるみたいな」
「うん。相手の二人は、時々アイコンタクトしてるけど、サツキくんとミナトくんは……」
「互いを見られてない。この勝負、サツキくんとミナトくんがどこかでそれに気づけないと……」
シンジの言葉を聞き、アシュリーは組んだ指をぎゅっと強く握る。
「頑張って」
サツキとミナトが苦戦しているこの試合、気持ち的にはそこまで追い詰められていなかった。
あらゆる可能性に判断が遅れているだけのサツキに、窮地に立っている自覚はない。
ミナトもやりにくさを感じつつ、耳が聞こえなくなっているハンデがあっても、剣で負けているわけじゃないから、平静を保っている。目が見えないシチュエーションでも剣で負けたことのないミナトなので、余裕さえあった。
だが、状況は二人の気持ち以上にまずい。
激しく攻撃を連続するヒヨクに、サツキは魔力を練って力を溜めてきた一撃を放つことができない。声を奪われている中、それを解除する隙もないから、一撃への集中も欠けている。
「いくよ、《
「……っ」
サツキの腕が取られ、ヒヨクがサツキを投げ飛ばした。背負い投げの要領で場外に飛ばされる。
このまま、サツキ一人で舞台に戻るのは難しい。
しかしミナトがサツキに気づいて、《瞬間移動》を使った。
即、ミナトがサツキの進行方向に現れ、空中でサツキを受け止め、舞台に戻る。
サツキは自分の口に触れ、ミナトの口と耳に触れる。
「助かったよ。ミナト」
「いやあ、やっとしゃべれる。耳も聞こえなくなっていたんだ」
これには、会場全体が驚きで湧き、クロノが楽しそうに叫ぶ。
「すごいすごいすごーい! ミナト選手、どうやったのでしょうか! サツキ選手の元へ駆けつけると、サツキ選手を地上に戻してしまったー! 空を飛んだのかもしれないが、ワタシには消えたようにも見えたぞー! そして、二人の会話から新たな情報が! なんと、ミナト選手は聴覚を奪われて、口も封じられていたようだ! ツキヒ選手はいつの間にそんなことをしてたんだ!? 恐るべしだー!」
ヒヨクが口笛を吹く。
「ひゅー。やるねえ。まさか、あれで戻ってくるとは思わなかった」
「まだ続くの~? 手強過ぎ~」
ツキヒがぼやいて、ヒヨクは笑った。
「そうじゃないとおもしろくないし、いいじゃん。ツキヒ」
「まあ、ヒヨクがいいならいいけどね~」
サツキもミナトに言った。
「さあ。ここから反撃だ」
「だね。やるか」
ぐっと伸びをして、ミナトが小さく息を吐く。
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