61 『ペキューリアネーム』

「え、解除された? そんなあ」

「連携を断つにはサツキくんを止めるのがいいと思ったけど、手強いな」


 ツキヒはガッカリしたようにぼやき、ヒヨクは参ったという顔をするが余裕はまだ残ったままだ。

 ミナトはにこりと微笑んだ。


「へえ。なるほどね」


 ここで『司会者』クロノによる実況が入る。


「出たああああー! サツキ選手の魔法解除! あのロメオ選手の《打ち消す拳キラーバレット》と同じ効果を持つグローブがあるからこそ、サツキ選手に魔法は通じなーい!」


 会場からは「おぉ」とどよめきが起こっている。

 ヒヨクが楽しそうにしゃべりかけてきた。


「やるじゃん。キミたちの情報を調べてはいたけど、魔法が効かないのは本当だったんだね」

「まったく効かないわけではないですが」

「あ。敬語とか使わなくていいよ。ぼくたちタメなんだしさ。同じせいおうこくの出身同士でもあるし、知らない仲じゃないしね」

「一方的に知ってるだけだと思うけど? ヒヨク」


 ツキヒに言われて、ヒヨクは驚いたような顔をした。


「そうだっけ?」

「おれたちはリョウメイさんからも話聞いてるけど、サツキとミナトはおれたちのことなんにも知らないかも~」

「え?」

「リョウメイさん?」


 意外な名前に、今度はサツキとミナトが驚いた。いや、さっきのヒヨクは本気で驚いたわけでもないが、今回のサツキとミナトは心から驚いている。

 ヒヨクは苦笑いして、


「ごめんよ、急に変な名前出して。ツキヒも、試合中に相手の集中を削ぐようなこと言うなよ?」

「別に関係なくない? リョウメイさんくらい」

「余計な情報を与えるとか、なんかフェアじゃないだろ」


 とヒヨクはツキヒに言って、サツキとミナトに向き直る。


「まあ、おしゃべりはこのくらいにして、外野のことは気にせず、ぼくたちはぼくたちで力を尽くして戦おうぜ。サツキくんにミナトくん?」


 正々堂々の精神を持つヒヨクだが、サツキはそう簡単に割り切れなかった。

 彼らの口から出てきた名前、リョウメイ。

 それは、サツキにとってもミナトにとっても特殊な意味を持つ名前だった。

 まず、ミナトとリョウメイは古い友人だった。サツキも詳しくは知らないが、家柄とかいろいろで昔から交流があったらしい。ミナトに旅の行き先を示し、サツキたち士衛組と出会うきっかけを作ってくれたとのことだ。

 それに比べると、サツキとリョウメイの関係は知人の域を出ない。王都で起きたとある事件に関連して知り合い、リョウメイが助言をくれたりした。

『大陰陽師』として知られるリョウメイは、その家系でも随一の才能を持つ陰陽師で、玄内も知らない仲ではないらしい。

 オカルティックで不思議な存在感を持つリョウメイだから、サツキもつい彼のことが気になってしまう。

 晴和王国では有名なリョウメイも、ここイストリア王国ではそんなに知られていないようで、クロノはまったく知らない様子で言った。


「おおーっと! 我々の知らない場所で、共通の知人がいる様子です! これがなにか意味を持つことはないのかもしれませんが、サツキ選手とミナト選手は初耳だったのかびっくりしているぞー! だが、ここはコロッセオ! 試合に集中してくれよ!」


 明るく爽やかにそう言われて、ミナトは笑顔で返す。


「もちろん、そのつもりです」

「そうこなくちゃね。じゃあ、ぼくもそろそろ魔法使ってくよ」


 ヒヨクがウインクする。

 サツキはミナトに指示を出した。


「引き続き、ミナトはツキヒくんを頼む。相手の魔法には充分に気をつけて」

「了解。サツキもヒヨクくんを頼んだよ」

「うむ。わかった」


 ミナトが剣を構えると、ツキヒも剣を向けた。

 一方、ヒヨクの魔法がどのようなものか観察するため、サツキはヒヨクを上から下までよく見る。


 ――観察して備えつつ、《静桜練魔》で魔力を練って力を溜め、《波動》を強めて一撃に備える。それで全力を叩き込む。このプランで俺がヒヨクくんを倒し、ミナトにはツキヒくんをキッチリ処理してもらう。


 ヒヨクは苦笑を浮かべる。


「サツキくんの《波動》は怖いけど、やっぱりぼくがなんとかしないとだよね。ツキヒ、サポートは可能な範囲で」

「わかってる~」

「じゃあやるか」

「了解~」


 双方、互いに作戦を確認し合う。

 そして、クロノがそれを踏まえてアナウンスした。


「どちらの陣営も、やるべきことを確認し合ったようだ! 次の攻防で試合が決まってしまうのか、それとも激しい戦いが幕を開け、応酬が続いてゆくのか! 四人とも、存分に暴れてくれー!」

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