60 『ミステリーエフェクト』
サツキとミナトがそれぞれに相手の動きに備える。
ツキヒは刀を使うが、ヒヨクは素手で戦うと見える。だから、サツキも刀の使用はせずに構え、ミナトは刀を抜いた。
――ヒヨクさんはどう来るんだろう。戦い慣れていないって点で、柔術使いだとやりにくいが。
特定の構えは見せないヒヨク。そのせいでサツキも戦闘スタイルが読めないまま、両者は激突することになる。
まず、ヒヨクとツキヒが駆け出した。
即、サツキとミナトもそれに応じて相手陣営まで走る。
さっきと同じく、ツキヒの相手はミナトがする。そして、ヒヨクの相手はサツキが受け持つ。
「四人とも、相手に向かってダッシュだー! ミナト選手とツキヒ選手、サツキ選手とヒヨク選手がぶつかるぞー! おっとー!? ツキヒ選手、走りながらもミナト選手に仕掛けたー! シグナルが飛ぶぅー!」
クロノの実況する内容に、サツキは疑問を抱いた。
――シグナル? 信号を飛ばせるってことか? しかも、今度は投げキッスじゃない。だったら、試合前に見せてくれたあれも、条件に合わせて相手を操作する信号? 口を閉じさせたり、なんらかの行動をさせる信号が送られた……?
想像はこれくらいまでしかできない。
あとは、ミナトがうまくその魔法を避けて戦うことに期待するだけだ。
そのミナトも、警戒はしている。
――さっきサツキも言ってた。投げキッスで、投げたポイントの機能を奪うのか、口やまぶたを塞ぐような効果なのかって。
投げキッスとは違う。だが、ミナトは見逃さなかった。
――目を触ってたんだよね、ツキヒくん。だったら、今度は目に干渉かも。
ミナトは持ち前の動きのよさで大きく回り込むように走り、シグナルを避ける。といっても、どうやってシグナルが飛んでいるのかはよくわからないため、こちらへ向けられた指先の線上から離れることで回避を狙う。
「やるぅ。じゃあ……」
ツキヒはまた目を触り、今度はサツキに指を向けた。
――来た。今度は俺だ。だが、俺は目に関する魔法は効かない。受けて立つ。
魔法が飛んでくるのが見える。
サツキの《緋色ノ魔眼》は、魔力がなにか特殊な変化をして飛ばされているのを把握した。
そしてそれは、サツキの目に飛んできた。
――ん? これは……。
一つ瞬きして、サツキはうっすらとその正体をつかんだ。
――目を閉じさせる効果? なのかも。まぶたが重たくなったが、俺の瞳がキャンセルしてくれた。
徐々に詰まる相手との距離の中、ヒヨクが言った。
「やるねえ。魔法、効かないか」
「目はやっぱりダメかあ」
そう言いながら、ツキヒとミナトはもう刀と刀をぶつけ合っていた。
「すごい、素早い、ミナト選手! ツキヒ選手の魔法を避けたようです! しかも、サツキ選手に関しては魔法が効かなかったとのこと! やはりただ者じゃないぞ、サツキ選手ー! さあ、そのサツキ選手ですが、今、ヒヨク選手と組み合う形になりました! 剣と剣で戦うミナト選手とツキヒ選手も鮮やかだが、サツキ選手の空手とヒヨク選手の柔道も複雑さを見せている!」
ツキヒとミナトの剣術は、技術的にはミナトに軍配が上がるところだが、まだ決定打にはならない。
対して、サツキとヒヨクはまるで異なる戦い方をする武術同士だから、相手の攻撃を払うかっこうになって、一見すればにらみ合いのようである。
だが、ツキヒがまた口に指を当て、サツキに投げキッスを飛ばした。あのミナト相手に戦いながら、実にスマートにしてみせる。
――しまった!
すると、サツキはこれを避けられず、口が閉じてしまう。唇を開けようにも閉ざされたままだ。
――声が出ない。いや、口が開かない。
この状況、ツキヒの動きからサツキは考察した。
――そうか、わかったぞ。身体のどこかに触れてから、相手に魔力を飛ばす。そうすると、そのポイントの機能が一時的に奪われるんだ。
サツキは自身の指先で唇に触れる。
現在、手には白いグローブがはまっており、ロメオからもらった魔法道具になっている。
《
したがって、そのグローブで唇に触れたから、サツキはもう効果を打ち消すことができたのである。
「ミナト。わかったぞ、ツキヒさんの魔法が」
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