59 『シャットマウス』
ツキヒが魔法を使ったのはわかった。
投げキッスの形で、なんらかの効果を観客に与えたのだ。
――なんだったんだ? 今のは。ヒヨクさんも魔法だって言ってた。口に指を当てて、それを向けたら、相手は口を閉じてしまった。黄色い声援も出せなくなっていた。まあ、すぐに倒れていたから本当は声を出せたのかもわからないけど、倒れた人たちの口元に魔力の影響が見えたことからも、『口を閉じさせる魔法』っぽい。また、気絶させる効果はなく、勝手に気を失っただけだとは思う。
魔力の流れや魔力の変質も、ツキヒの指先を離れたところからはもう見えなくなっている。だが、観客の口元にだけ働いたのは確認できた。つまり、そういうことだろう。
観客席からは、別の方向から「ツキヒくーん、こっちにもちょうだーい」という声が飛び交っている。
「おおぉっーと! ツキヒ選手の投げキッスに、ファンの女の子たちがバタバタ倒れていってしまったぞー! 試合前にファンサービスが過ぎるー! 今日のツキヒ選手はやる気満々なのかー!?」
クロノの言葉に、会場のツキヒファンも試合を楽しみにしているコロッセオファンもわーっと盛り上がる。
「ありがとうツキヒ選手! おかげで、会場の熱気も最高潮だ! それじゃあ、おっぱじめるぞー! 本日最終戦、最高の盛り上がりを見せてくれ! サツキ選手&ミナト選手対ヒヨク選手&ツキヒ選手の試合を始めます! レディ、ファイト!」
試合開始の合図。
しかし、両陣営動かない。
サツキはさっきのツキヒについてわかったことを述べる。
「ミナト。ツキヒさんの魔法はあの投げキッスで発動する可能性がある。口元へ投げられると、口を閉じさせられるかもしれない。投げたポイントの機能を奪うのか、口やまぶたを塞ぐような効果なのか。俺はそう予測した」
「了解。気をつけるよ」
二人の会話を聞いて、ツキヒは「おぉ」と声を漏らした。
「やるねえ。ちょっと驚いたよ」
「だな。これだけでそこまで読めるなんて、なかなかじゃないか」
正解とは言わないが、ツキヒもヒヨクもサツキの予測を否定しなかった。
――方向性は正しいのか、おおよそ当たったのか。いずれにしても、ツキヒさんの魔法への方針はこれでいい。
クロノは楽しそうにマイクを握りしめる。
「さすがはサツキ選手! 鋭い考察を見せてくれたー! どれほど正しいかはまだ言えませんが、開始直後から少しでも情報を得られたことは大きいぞー!」
サツキはヒヨクのほうを見るが、こちらはなにを仕込んでいるのか、どんな魔法を使うのか、まるでわからない。
――いつまでも相手の出方をうかがっていたって仕方ない。やるか。
ミナトを見る。ミナトもサツキを見返し、うなずいた。
「じゃあ、いくよ」
刀を手に、ミナトが駆け出す。
これを見て、ツキヒも刀を抜いた。
「それなら、こっちもやるかあ」
ツキヒの武器も刀。
業物だろう。
どんな刀なのかは不明だが、キラリと光る刀身は美しい。
「ミナト選手が飛び出したー! ツキヒ選手も飛び出す! 両者、
刀と刀がぶつかり合う。
キン、と高い金属音が響き、ミナトの刀が高速に乱舞する。ツキヒに魔法を使わせるヒマを与えず、ミナトがつばぜり合いの形に持って行くと、ツキヒを押し飛ばした。
距離が取れたところで、ツキヒが小さく息をつく。
「つっよ。剣でやり合っても、勝てる気しないんだけど。どうしよう、ヒヨク?」
「そんなあっさり負けを認めるなって。ぼくたちまだ連携すら見せてないだろ」
「一対一の剣の勝負って話。おれも、二対二なら負けるつもりないから」
「よし。じゃあ、やるか」
戻ってきたミナトに、サツキも声をかける。
「今の戦いでも、ヒヨクさんは動かない。魔法も不明だが、俺も動くぞ」
「そうだね。待ってるだけじゃ勝てない」
二組の会話を受けて、クロノが叫んだ。
「どうやら、ヒヨク選手とツキヒ選手は見せてくれるようです! 次の攻防に注目だー! そして、サツキ選手とミナト選手もなにかする気配があります。だれがどう動くのか、このあとの展開が楽しみだ! サツキ選手とミナト選手の初敗北はあるのか、それとも連勝続きのヒヨク選手とツキヒ選手に土をつけるのか。ここからは見逃せないぞー!」
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