54 『デフォルトウィン』
サツキがコロッセオ内の一階席に戻ってくると。
そこには、ミナトの姿はなかった。
「おかえり、サツキくん。遅かったね」
「シンジさん。ただいま戻りました。ちょっと気になることがあって寄り道していました」
「気になること?」
「たいしたことでは」
「そっか。ミナトくんは試合の準備でついさっき出て行ったところだよ」
「そうでしたか」
シンジの横に並んで座り、試合している選手たちを眺める。
どちらもそこそこで、実力は拮抗しているようだった。これはすぐに片がつく試合ではないだろう。
「それにしても、見応えある試合だったね。サツキくんのさっきの対戦相手、ボクが見かけたって言ってた強そうな騎士だったんだよ。やっぱり強かったし心配していたんだ」
「はい。あの人は強かったです」
「でも、サツキくんはそんなあの仮面の騎士にも勝った。すごいよ、ホントに」
「いえ、仮面の騎士は軽い腕試しでの参加って感じでしたし、本気じゃなかったのかもです」
「腕試しか。うん、そんな感じだったかも。なんで本気じゃなかったのかな?」
「さあ」
と答えつつも、サツキにはわかっていた。
――俺を試すため。だからだよな。なぜなら、彼はあの人の兄だから。
あの人……それは、かつて士衛組の仲間だった人だ。
連堂家の三男、魔法の才にもっとも恵まれた幻術の使い手・
――ケイトさん、あの人のお兄さんがなぜこんなところまで、俺を試しに来たのだろう。敵愾心は感じなかった。俺や士衛組への恨みが強いとも思われない。だったらどうして……?
わかっていることのほうが少ない中で、相手の考えを読むのは至難だ。サツキは考えるのを一度やめて、シンジに微苦笑を見せた。
「でも、諦めも早かったおかげで助かりました」
「確かに、諦めは早かったね。もう終わり? って思っちゃったもん」
「それより、ミナトとシンジさんの対戦相手のほうが気になります」
「うん、そうだよね。ミナトくんは苦戦っていう苦戦をしてないし、強い相手になる可能性も高い。ボクのほうはどうかわからないけど」
「あ。試合も終わりますね」
「だね」
試合が終わった。
次はミナトの試合だ。
勝利者インタビューが終わると、ミナトが舞台に上がってくる。
「さあ、次の試合に参ります! 舞台にやってきたのは『
クロノが実況して、ミナトや観客席も対戦相手の登場を待つ。
しかし出てくる様子がない。
そこで、サツキは思い出した。
昨晩、エミが魔法道具の水晶占ってくれたことがあるのだ。
「まさか、本当に不戦勝……?」
「え?」
シンジがサツキのつぶやきを聞き返す。
「あ。いえ、友人が占ってくれたんです。売っていた魔法道具を使ってみてくれて。ミナトが不戦勝になるかもって言われたんです」
「ボク、占いとかはあんまり信じないほうがだけど、ちょっと気がかりだね。対戦相手になにかあったとしても嫌だしさ」
「はい」
サツキとシンジが話している頃、舞台ではミナトが対戦相手を待っていた。
相手選手が来ないから、クロノはミナトに話を聞いて時間を稼ぐ。
「ミナト選手、今日の調子はどうですか?」
「いやあ、いつも通りです」
「おお、それは期待してもよさそうですね!」
「あはは。期待されても、おもしろいもんは出てきませんよ」
「またまた~」
とらえどころなくのほほんと返すミナトに、会場も楽しそうに笑っている。しかしクロノも相手選手が気になって仕方ないようで、チラチラと視線を反対側の通路に向けている。
「本日の対戦相手は、
「ええ。お互いコロッセオの新人同士、いい試合ができたらうれしいです」
そのとき、スタッフのお姉さんが舞台へと駆け寄ってきた。
「すみません、クロノさん」
「どうしたの?」
「実は……」
とスタッフのお姉さんが事情を話す。
クロノは話を聞き終えると、うんとうなずいて会場全体に呼びかけた。
「お集まりのみなさん、本当に申し訳ございません。ミナト選手の対戦相手・サンティ選手なのですが、姿が見えないそうです。時間になっても舞台に上がらなかったため、棄権ということになります。ご了承ください。したがって、この試合はミナト選手の不戦勝です!」
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