47 『サイエンスアドア』

 翌日。

 九月七日。

 士衛組一同が食事を終え、それぞれ思い思いに午前中を過ごす中、サツキは今日もまたヒナと玄内と共に出かけた。二人と同じ弐番隊のバンジョーもいっしょだ。

 四人で浮橋教授の元へ向かった。

 ヒナが歩きながらくるっと振り返って、バンジョーに言った。


「別にバンジョーは来なくても大丈夫だったのよ? いいの? 付き合わせちゃって」

「いいに決まってんだろ。昨日、また晴和王国の料理作るって浮橋教授と約束したしな!」

「そっか。ありがとう。お父さん、きっと喜ぶよ」

「おうよ!」


 バンジョーは楽しそうにひとりごつ。


「今日はまた別の料理作るって言ったけど、どんなのが喜んでくれっかなー。手打ち蕎麦は時間かかるし、うどんとかもいいかもな。あと、天丼とか食いてえな」


 チラとサツキを見て、ヒナはサツキにもお礼を述べる。


「さ、サツキもさ、今日もありがとね」

「浮橋教授とは話したいこともたくさんあるんだ。先生もいっしょに、聞いて欲しいこともあって」

「聞いて欲しいこと?」

「まあ、着いたら話すよ」

「うん。わかった」


 うなずきつつも、ヒナはそれがなんなのか気になって仕方なかった。




 浮橋教授のいる家には、すぐに到着した。

 四人は家に上がる。


「おはよう。お父さん」

「やあ。おはよう、ヒナ。サツキくんも」


 サツキも「おはようございます」と返す。

 それから、後ろにいる玄内とバンジョーにも浮橋教授が挨拶した。


「おはようございます。本日もわざわざありがとうございます」

「おう。いいさ。サツキも話したいことがあるみたいだしよ」

「そうっすよ。オレは今日も晴和王国の料理、振る舞いますね!」

「バンジョーくん、嬉しいよ。よろしくね」

「押忍! 夕飯の分の作り置きとかもしとくんで!」


 昨日と同じようにバンジョーが料理を始めて、サツキとヒナと玄内が浮橋教授に案内されてリビングに行き腰を下ろす。

 最初は浮橋教授の研究について話した。一応、裁判への対策は済んでいるため、その確認をざっとするだけだ。

 その後、三人が話すのをヒナは横で眺めていた。


 ――本当に楽しそうなんだから。お父さんってば。


 主にサツキの世界の科学について、浮橋教授が質問している。この話題はいくらでも細分化できるほどの量があり、玄内もまだまだサツキの世界の科学のことは知らない情報も多い。


「やっぱり、飽きねえな。サツキの話は」

「ですね。ボクも楽しくて仕方ないです。サツキくんの世界の科学の話はおもしろいし興味が尽きない。正直、憧れます。いやぁ、裁判がすぐそこまで迫っているのに、別の話にこんなにワクワクしていていいんでしょうか」

「いいじゃねえか。もうやることはやったんだからよ」

「ええ。だといいんですが」


 玄内と浮橋教授がそう言って、サツキは「あの……」と口を開く。


「なんだい?」

「ちょっと気になったことがあったんです。昨日、コロッセオに行ったときのことなんですが」

「ボクに答えられることならいいんだけど、玄内先生もいるし、なんでも言ってほしい」


 ただの質問というのでもなかった。

 かといって一方的に話をすれば満足できるものでもない。

 見知ったものを観察し、サツキなりに考えて得られた推論を、二人に吟味してほしいのだ。


「どこから話せばよいのか難しいですが、最初に質問させてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る