46 『ワイズポテンシャル』

 サツキにはまだわからないことがあった。

 チナミの忍術の上達具合だ。

 先程チナミに聞いて理解した部分もあるが、成長がどれほどのもので、チナミ自身の感覚でどう変化したのかが判然としなかったのである。

 さっき、チナミはこう話してくれた。


「フウサイさんに習っていた《かげぶんしんじゅつ》ですが、もう少しでできるようになるかと思います。なんだかそんな気がします。動きも前に比べて良くなっているんじゃないかと期待もしていますが、レオーネさんに潜在能力の解放をしてもらえるのはまだ数日残っていますし、様子を見たいと思います」

「そうか。楽しみだな」

「はい」


 様子を見たいというのも、チナミの中で消化できていないからであろう。

 だから、チナミが自室に戻って、再び一人になった部屋で、サツキはフウサイを呼び出した。


「フウサイ」

「はっ」


 この天才忍者は、呼べばいつでも影の中から出てきてくれる。

 影の中に隠れる忍術で潜んでいるので、呼びかけにいつでも応じられるのである。


「今日もチナミの忍術を見てやってくれてありがとう」

「これもサツキ殿と士衛組のため」

「それで、チナミの具合はどうかね?」

「はっ。先程チナミ殿も申した通り、《影分身ノ術》習得はすぐでござろう。レオーネ殿による潜在能力の解放がなくとも、おそらく数日のうちには」

「ふむ。それはかなりの成長だな」

「元々、チナミ殿は忍者の適性がござった。が、《影分身ノ術》はだれもがすぐにできるようになるものでもないのでござる」

「では、忍者の動きはどのような感じだろうか」

「格段に良くなってござる。身のこなしは申し分ないところまで到達したと言えるかと」

「なるほど。あとは、《影分身ノ術》の習得ができたらいいな」

「それさえできれば、そこそこに腕の立つ忍者くらいとも渡り合えるでござろうな」

「これもフウサイの指導の賜物だ。いつもありがとう」

「もったいないお言葉。チナミ殿の素質や努力もあればこそでござる」


 謙遜するフウサイに優しく微笑み、それからサツキは言った。


「時に、フウサイ自身の成長はどうだろう。自分でわかる範囲で聞かせてくれるか?」

「御意。拙者自身の感覚では、影分身を大量に創ったとき、これまでよりも各個体を動かせるようになっているのがわかる。その程度でござる。しかし、爪の先まで神経が行き届くようになったのはかなりの変化。もどかしさがなくなり、感覚をより研ぎ澄ますことができるというものでござる」

「そうか。それはなによりだ」


 話を受けて、サツキはフウサイにまた感謝したくなった。


 ――かなりの部分で、すでにフウサイはその才能を開花させてきたんだな。天賦の才をそこまで鍛え上げる努力は想像もつかない。それほどの才と腕を持つフウサイが俺なんかについてきてくれて、どれだけ感謝しても足りないくらいだ。


 レオーネによる潜在能力の解放は、人によって引き出せる限界は異なる。つまり、レオーネが《発掘魔鎚ポテンシャルハンマー》を使える回数は人によって異なるというわけだ。

 そこへいくと、フウサイはその上限に近いと思われる。

 ただし、それは忍者としての能力や身のこなしなどの部分であり、フウサイに備えられた才能はまだ多方面に様々な芽吹きを隠している。

 特に知略分野はほとんど未開発といってよく、フウサイが才能開花の芽吹きを感じる前の段階でもあった。

 サツキの頭脳を理解する上で、是が非でも獲得すべき才。

 だが、フウサイはまだそうしたところを意識さえしていなかった。

 そうしたフウサイの内面を知らずにではあるが、サツキはぽつぽつと言った。


「たぶん、フウサイがこのあともっとも実感できる変化は知略だと思う。ミナトもそうじゃないかって気がしてる。そしてその分野の成長は、きっと色々な面でフウサイを助けてくれる。だから、ちょっと意識してもいいかもしれないぞ」

「はっ。心に留めておくでござる」

「うむ。それじゃあ、今日は少し勉強して眠るよ」

「サツキ殿。ご無理はなさらず」

「ありがとう。おやすみ」

「はっ」


 新たな発見と視野をもらい受けて、フウサイはドロンと消えた。


「さて」


 サツキは机に座り、本とノートを開いた。

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