48 『ルーツダイヴァージェンス』
「で、質問ってのはなんだ? サツキ」
玄内に促され、サツキは秘めていた質問を繰り出した。
「ドワーフや獣人、エルフなどの生物は人間とかなり近い遺伝子配列を持っているんじゃないですか?」
「なんの話かと思えば、そんなことか。まあ、そうだな。しかしそれを調べるのも難しく、おまえの世界と違って技術がまだまだ未発達だ」
「ただ、いずれにしても同じ配列も確認されているのは確かだよ」
と、二人が言った。
サツキは瞳を大きくした。
なるほど、とつぶやく。
「俺は昨日、コロッセオでドワーフを見ました。あと、獣人と戦いました。そこで、ふと思いついた可能性があったんです。結論から言うと、もしかしたら、彼らは人類の進化した姿なのではないか、ということです」
「えっ、嘘でしょ!?」
「まさか……そんなことが?」
素直に驚きを口にするヒナと浮橋教授だが、玄内だけは黙って考えている。サツキが玄内に目を向けると、
「……もしや、
と聞かれた。
察しのよい玄内にサツキはうなずきを返す。
「はい。それを結びつけて考えました」
「人類の時空大移動説だな」
「その話は、確か昨日させてもらいましたね」
浮橋教授にも話した仮説だ。当然、神龍島で共に話していたヒナはよく知っている仮説であり、父娘はどれとどれが結びつくのかと首をひねる。
「あれよね? 高度な科学文明を持つ古代人は、とある未来予測をした。気温とか環境の変化で人類が生きるのに厳しい時期がやってくる、っていう予測を。だから、その時期だけすっ飛ばして未来に移動しようと考えた。そして次元転換装置を使って、数千年以上の時を越えた。あたしたち現生人類はそうやって生き延びたっていう仮説よね」
「ほとんどの人類が時空大移動をしたのではないかと聞きましたが、それとどういった関係があるのですか?」
「俺が考えたのは、この世界の現生人類が時空大移動した場合――時空大移動をしなかった一部の旧人類は、そのままではつらく厳しい環境を生き延びることが難しくなって絶滅してしまった。その代わり、環境に適応した空想的進化を遂げた種のみが生き延びた。それが、ドワーフや獣人だった。そんな可能性もあるのではないか、という話です」
「……あ、あるかも」
「うん、ある話だ」
ヒナと浮橋教授は、ここでも当然驚くものだと思っていたが、意外にもすんなり納得した様子だった。
「今日、コロッセオの試合前にドワーフを見て思いついたんです。それをミナトに言ったら浪漫だなァって笑ってました」
サツキが苦笑を浮かべると、玄内はにやりとした。
「まあ、浪漫ではあるか」
「いや不気味ですよ」
すかさず、ヒナが呆れたように言う。これにサツキは同意した。
「俺もそう思った。なんか、怖いっていうか。自分の血を引いた子孫が想像もつかない種になっていたら、不気味だなって」
「うんうん」
とヒナがうなずいている。
浮橋教授はいろいろなことに想いを馳せているようで、
「浪漫。わかるなあ」
とつぶやいている。
「お父さんまで……」
「科学者として客観的に見ればおもしろいことかもしれないよな」
「そう、なのかもね」
ヒナとサツキが笑い合い、浮橋教授がひとりしゃべる。
「ボクは生物学は対象ではないんだけど、気にはなっていたんだ。どうして獣人は人に近いのだろうって。吸血鬼、エルフ、ドワーフ、ホビット、鬼、天狗、やまんば、小豆洗い、座敷わらし、一つ目小僧に雪女、どうしてこんなに人型で人間に似通った生物がたくさんいるのか」
「妖怪の大半は怪異的な力で人が姿を変えてしまった、と知り合いの陰陽師は言っていたが……一部ずっとその姿のまま生きているものもある。案外、サツキの想像は科学的にすっきりしていいと思うぜ」
と玄内が言った。
「先生、この世界ではそんなに妖怪も自然に存在する生物の一種って認識になっているんですか?」
「妖怪を見たことのある人間は多い。さっきのエルフやドワーフ、ホビットよりも
「ミナトも『やまんばとか吸血鬼が人間に近い姿なのも、納得しやすくて筋が通るじゃないか』って言ってて。妖怪も一緒くたにしていいのかと思ってましたが、やっぱり魔力の影響を受けて動物が魔獣化したように妖怪も動物や人間が変化した姿って考えも、思いのほかすんなり受け入れられるかもしれないんですね。この世界では」
「ああ。少なくとも、おれや士衛組の連中はそうだろう」
「あたしも、確かにソードタイガーとか魔獣化した生き物の進化と同じかもって思ったわ。さっきの人類の進化の話」
浮橋教授は腕組みして考える。
「でも、だからサツキくんは人間とその進化した姿かもしれない獣人やエルフたちの遺伝子が気になったんだね。妖怪の遺伝子まではわからないけど、実はおもしろい話もある」
これに、サツキとヒナは目を大きくした。
「聞かせてください」
「どんな話?」
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