42 『アンノウン』
エミが水晶で占う。
内容は、ヒナの地動説の裁判がどうなるのか。
「ん~。……ふむ、ふむ」
ちょっと緊張した面持ちでヒナが見守り、
「で、どうなのよ?」
と小声で聞く。
「なんだか、ちょっとよくわからないかも」
「はあ? やっぱりその水晶壊れてるんじゃないの? 勝つか負けるか、二つに一つなんだから、難しい話じゃないでしょ」
腰に手をやってヒナが呆れたように言うが、エミは不思議そうにつぶやく。
「でも、勝つとも負けるとも出なかったんだよ。マノーラの裁判。どういうことなんだろう」
「なんか変~」
と、アキも水晶をいろんな角度から見てみる。
「変っていうか、やっぱり壊れてるからよね? それ」
「ヒナさん。聞き方を変えてみましょう。ヒナさんのお父さんは、裁判のあとどうなりますか?」
チナミがフォローをしつつうまいこと質問を修正してみる。
「オッケー! 見てみるね! ん~……ほうほう、そっか!」
「わかったの? わかったのね?」
散々水晶が壊れているとか文句を言いながらも、ヒナはエミの占い結果は気になって仕方ないものとみえる。
「すっごく忙しそう!」
「さすが、研究者だね!」
アキは喜んでいるが、ヒナは口先をとがらせ不服顔になる。
「それって、どっちかわからないじゃない。宗教裁判による負けがあっても殺されないってわかっただけでも、価値はあるかもだけどさ」
「ヒナちゃん、大丈夫だよ。勝って、取材が、忙しいかも」
「そ、そうよね?」
ナズナの希望的観測にヒナも顔を明るくさせる。
チナミはそれらを聞いてじっと考える。
――忙しい。勝敗がつかない。……もしかしたら、場合によっては逃亡とか面倒事の可能性もある、か。でも今はこんな思いつき、言うべきじゃない。
そこまで思って、チナミは言った。
「その可能性もありますが、ヒナさん、勝ち負けとは別のなにかがあって忙しくなる場合、希望的観測ばかり考えていてはダメです。用心しておきましょう」
「そ、それもそうよね。うん」
と、ヒナはやや表情を引き締め直す。
最後にルカがまとめる。
「でも、あなたが言った通り、最悪の場合でも死は免れる。それは最大の収穫だわ。エミにお礼を言っておくのね」
「わ、わかってるわよ。ルカっ」
ヒナはルカに言い返すと、改めてエミに向き直った。
「まあ、礼だけ言っておくわね。占ってくれてありがとう。おかげで肩の力も抜けたわ」
「どういたしまして。ヒナちゃん!」
ちょっとホッとしたのか表情も和らいだ様子のヒナを見て、チナミとナズナは顔を見合わせて微笑み合った。
クコも物欲しそうにヒナを見て、
「わたしもなにか占ってもらいたいですが、お聞きすることもないような気がします」
「お姉様、国を守れるかを聞くのはどうです?」
「まあ、聞くにしてもそれくらいかしら」
リラとルカがそんな意見を口にするが、クコは首を横に振った。
「それは、サツキ様や士衛組のみなさんを信じている以上、結果がわかっていることです。もっと個人的なことがいいなと思っているんですよ」
と、クコが楽しげに言う。
ルカがシニカルな微笑を浮かべ、
「なら、将来の伴侶でも聞くのかしら?」
「え? 伴侶?」
ぽかんとするクコだが、無意識にサツキを見て、柔らかく口元を緩めた。
「それも、まだ先のお話です。やっぱり、今聞くべきことはないようですね」
「そう。ええ、そうよね」
ルカは小さく笑ってうなずいた。
だが、リラはクコの些細な変化にも気づいていた。
――お姉様だけは、士衛組の女の子たちの中で、自分の気持ちに自覚がないと思っていた。今も自覚はないようだけど、意識する時は近いのかな。リラも頑張らないと。
それからもエミがいろいろなことを占って遊んだ。
こうして、アキとエミがわいわいと楽しい話をしてくれたりと、だれかの誕生日でもないのに今日も賑やかな夕食となった。
食後。
みんなが順番に風呂に入って、サツキは風呂上がりに部屋で涼むと、とある部屋に足を向けた。
部屋の前に来ると、ドアをノックする。
「サツキです」
反応を待つ。
声はすぐに返ってきた。
「どうぞ」
ドアをガチャと開けて中に入り、ドアを閉める。
室内には、二人の少年がいた。
先程の声の主はそのうちの一人、ラファエルだった。
「なにか御用ですか?」
「ちょっとお聞きしたいことがあって」
「どうぞ。あなたはボクたち『
「こっちに座ってくれ。サツキ兄ちゃんっ」
リディオがニコニコとイスを引いてくれる。そこにサツキは腰掛けて、リディオも腰を下ろした。
サツキが訪れたのは、『
またの名を、『ASTRA Intelligence Service』。
インテリジェンスサービスを略して『ISコンビ』と呼ばれる二人は、トップのヴァレンから信頼された技術と役割を持っている。
主に機密情報を管理し、世界中に五千人以上とも言われる『
『技術部』
この『部』に関してはどういった特性を持つのかサツキも判じかねるが、特殊技能を有している可能性もある。
しかし、そんな優秀な二人は、まだサツキより二つ年下の十一歳で、リラたち参番隊よりも一つ下になる。
大人びたラファエルのまとう雰囲気はサツキとも変わらない年齢に思われるが、背はやはり低いし、リディオは明るくて人懐っこいから可愛い年下の友人という感じがする。
ただ、友人と呼ぶにはまだそれほど親しくなってはいなかった。何度かおやつをいっしょに食べたりおしゃべりしただけだ。それでもリディオはサツキのことを「サツキ兄ちゃん」と呼んでくれる。一方でミナトはこの二人と遊んだりもしたらしく、ラファエルもミナトには親しみを感じているようで、
「ミナトさんはいないんですね」
「せっかくならミナト兄ちゃんと二人で遊びに来てくれたらよかったのにな!」
とリディオが言っている。
「別に、サツキさんは遊びに来たわけじゃないよ。リディオ」
「そうだったか。なんか聞きたいんだったよな? サツキ兄ちゃんっ」
「うむ。そうなんだ。二人ならなにか知っていることもあるんじゃないかと思って」
サツキはそう前置きして、さっそく切り出す。
「それで、聞きたいのは失踪者がこのあたりに出ていないかという話だ」
「なるほど。その件ですか」
やはり、ラファエルはなにか知っているらしい。
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