37 『トリプルスラスト』
サツキとハイナーの戦いは、サツキがハイナーを気絶させた。
ミナトはというと、ヴォルフを相手にしながらハイナーがコントロールした雷にも打たれ、ハイナーの閃光も受けていた。
だが、閃光が放たれる直前、サツキが声をかけてくれたから、目を閉じることができた。
この瞬間、ヴォルフはミナトが目を閉じた隙を必ず狙う。
ヴォルフが動き出していたこともわかっていた。
ただ、ミナトは剣を振ることならどんなことよりも速くできる。目を閉じるよりも、相手の行動を読むことよりも、一つ呼吸をすることよりも速く、剣を振れる。
「《
ミナト得意の三段突きである。それを敵の上空から放つ技で、ヴォルフの右腕、右の太もも、右のふくらはぎにお見舞いした。三カ所がそれぞれ貫かれる。
「ガルルァァッ! うっぐ」
「さあ。まだやりますか?」
ヴォルフは威嚇するようにミナトをにらむ。相手は目を閉じたままだ。が、動けない。声も出なかった。
――ト、トリプルスラスト……?
つまりは、三段突きのことである。
――いつも踏み込む右足をやられた。あいつ、目を閉じてたくせに、狙ってやがった。しかも……なんて速ぇ剣だよ。あの速さの上、こんな正確に狙いやがったってのかよ。ば、バケモノか……。これで右腕が無事なら、左足で最後の一撃を狙えたが……無理だ。
左足で踏み込んで飛ぶ場合、右腕を伸ばしたほうが高い位置まで手が届く。左半身が無事なら左だけでうまく戦える可能性がある、とはならないのだ。特に、速さで最後の一撃を狙おうと考えたとき、ヴォルフは勝てないと悟った。
がくりと首をもたげたヴォルフが、
「降参だ……ッ」
とつぶやいた。
ちょうどサツキとハイナーの戦いも実況していた『司会者』クロノが、ミナトの戦いにも判定を下した。
「サツキ選手の新技、《
勝負が決まった。
まだ舞台上空を巡って雷を発生させていたブーメランを、サツキがキャッチする。魔法効果を打ち消せるグローブのおかげで、ただのブーメランをつかむのと同じなのだ。キャッチに合わせてビリビリッとさせてサツキの手に収まる。
――やっぱり、ハイナーがいなくなったら勝てねえよな。
ヴォルフがミナトに聞いた。
「ガルァ……てめえ、目を閉じていたのに、なんで斬れたんだ」
「なんとなく、ですかねえ。目を閉じる直前の位置もわかっていましたし、それほど難しいことではないでしょう」
「なるほど……」
どれほど納得したのかはわからない。だが、ヴォルフはそれきり口を閉じて、サツキがブーメランを手渡すとそれを受け取り背中に収め、片足を引きずってハイナーに歩み寄って、肩に腕を回していた。救急班もそこにやってきて二人を介助していた。
退場していくヴォルフとハイナーを確認しつつ、クロノは会場に向けて呼びかけた。
「素晴らしい試合を見せてくれたヴォルフ選手とハイナー選手が退場します。闘志溢れる試合だったぞ! みなさん、二人に拍手を!」
会場からは拍手が起こった。声援も飛んでくる。勝ったサツキとミナトにも、健闘したヴォルフとハイナーにも温かい声援が降り注いだ。
「ヴォルフ選手とハイナー選手は、この結果を受けて戦績は九勝五敗となりました。念願の十勝目にはなりませんでしたが、いつも以上に熱い試合を見せてくれた二人には、次回の試合に期待が高まりますね! さあ! そして、コロッセオ参加二日目、昨日に続いて二勝目をあげたサツキ選手とミナト選手にお話を聞いてまいりましょう!」
クロノがサツキとミナトの元にやってきて、
「見事な勝利でした。おめでとうございます」
と言って水球貝をサツキに向ける。
この水球貝は水色の丸い貝で、クロノの魔法《アリア・フォルテ》によってマイクの役割を果たす。
「ありがとうございます」
「相手の観察、魔法の推理とサツキ選手の冴えが際立っていましたね」
「いいえ。読めない部分もありました」
「というと?」
「雷のコントロールまでできるのは予想外でした」
「いえいえ、なにをおっしゃいますか! あんなに早く気づく人はそうそういませんよ。息もばっちり合っていましたし、ダブルバトルにも慣れてきたんじゃないですか?」
「目の前の戦いに夢中になって、ミナトとの連携が疎かになっていたのも課題です」
「なるほど。サツキ選手の目指す場所はやはり高いようですね! これは明日以降の試合がますます楽しみになります」
今度は、クロノがミナトに質問する。
「ミナト選手はいかがでしたか? 開幕から、やろうと思えばヴォルフ選手を倒せたんじゃないですか?」
「いやあ、やっぱりどんな魔法を使うのか見たいですから」
「今回の試合、ハイナー選手が引いて様子見、ヴォルフ選手が前線で突撃という形でしたが、相手に合わせてミナト選手が前に出ていましたね」
「サツキはやっぱり分析しないと。僕は前で戦うほうが合っています。あとは、サツキが大技を決めるための時間稼ぎもしたかったので」
「なるほど! 確かに、サツキ選手のここぞの一撃はすごいパワーを持っていますよね。しかも昨日より今日のほうが強いし、底が見えません」
「ええ。そこがサツキのおもしろいところです」
「ミナト選手、明日の試合にも期待していますね!」
「はい」
クロノが再び水球貝を握り、会場に呼びかけた。
「以上、サツキ選手とミナト選手へのインタビューでした! 退場する二人に拍手を! なお、二人は三日後に開催される『ゴールデンバディーズ杯』への参加を狙っていますが、出場条件となる必要勝利数は三つ。日数は二日しか残っていないため、参加可能な残る二試合のうちどちらかで勝てればいい。できることなら、明日勝利をもぎとって、余裕を持ちたいところだ。前日の駆け込み参加組は強豪ぞろいの魔境になってしまうからな!」
と言うと、会場が笑いと共に盛り上がった。
「そういうことだから、サツキ選手とミナト選手の応援をみんなもよろしく頼むぞー! さあ! 本日のプログラムもこれで終わりとなります。ご来場のみなさん、ありがとうございました! お気をつけて退場なさってください! 司会はこのワタシ
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