36 『ホワイトサンダーボルト』
「ヴォルフ選手とハイナー選手が仕掛ける! それを、ミナト選手とサツキ選手は刀を構えて迎え撃つぞー! ミナト選手が飛び出し、ヴォルフ選手とぶつかったー! ミナト選手の刀とヴォルフ選手の爪が乱れ合う! 激しい! 激しいぞ! サツキ選手とハイナー選手も斬り結ぶ! 剣術の腕は互角と言えるかー!? いや、サツキ選手が上だー! だが、ここでミナト選手が打たれたー! 雷がミナト選手に直撃だー! 《
激突する両陣営。
臨場感とスピード感をそのまま実況していた『司会者』クロノであったが、ミナトが雷に打たれたことで会場がざわめく。
ミナトが舞台上空を飛び回るブーメランが発生させた雷に打たれ、身体をしびれさせる。
――痛い……が、本物の雷みたいな強さはないらしい。
その隙に、ヴォルフの爪がミナトの首元へと伸びる。
だが、ミナトは次のクロノの実況が入る前には、ヴォルフの真上にいた。
「ご免」
刀を右肩に突き刺す。
「ガルアァァ!」
「いやあ、このコンマ数秒は危ういなァ」
ミナトが下がろうとするが、ヴォルフは左肩を刺されてもまだ食い下がる。
「まだだ! 引き裂いてやるァ! ガルッ!」
ヴォルフが追いかけ、ミナトも剣で応える。
「もうキレもないですね」
トドメの一撃をどこに入れようかとミナトが考えていると、
「ミナト、光だ!」
サツキの声が飛ぶ。
穏やかに微笑み、ミナトは目を閉じる。まばゆいばかりの光が反射してミナトを照らした。目を開けていたら、目がくらんで隙だらけになっていたことだろう。あとほんの少し目を閉じるのが遅れたら、ヴォルフにやられていた。
――まいったなァ。ちゃァんと、サツキが気をつけろって言ってくれてたのに、これがダブルバトルってわかってたのに、ヴォルフさんがもう弱ってるから油断してた。
ミナトは自省した。
しかし、目を閉じてしまっているから《瞬間移動》で一旦引くべきだろうに、ミナトはそうしない。サツキのおかげで目を閉じるのも判断を下すにも時間が生まれた。もちろん、剣を振る時間もある。考えるより目を閉じるより、なにをするよりもミナトにとっては剣を振ることが最速でできることなのだ。
もう、ミナトは剣を振っていた。
その頃、サツキはハイナーと斬り合っていた。
いずれ劣らぬ、息が詰まるような攻防だった。
サツキのほうが腕は上だと『司会者』クロノが言ったとき、ハイナーはそれに悔しそうな顔など表情らしいものは一切見せず剣をぐるりと回した。
「《
ハイナーはサツキをさっきまで以上に刺すように見た。
ピカァっと輝く白い光が、ハイナーの剣グロス・メッサーから放たれる。目くらましには充分過ぎるほどの光量であり、これこそがハイナーが準備していた魔法だということもわかった。
だが、サツキには通じない。
鮮烈な白い閃光に目を閉じることもなく、ハイナーを見返しながら、サツキは斬りつけてきた。
「はあああっ!」
「くぅ! なぜだ! 効いてないのか!?」
「俺は、目に作用するタイプの魔法には強いんです」
「その緋色の瞳か!」
「……」
「くはああ!」
と、ハイナーはつばぜり合いの形からサツキを押し飛ばした。
「これで終わりと思うなよ、《
また白い光が雷を反射するように輝くが、サツキの《緋色ノ魔眼》は別の変化も捉えていた。
――空気が、さらにかき混ぜられて……いや、操っている! 雷をコントロールできるのか!
それが、ハイナーの魔法のもう一つの秘密だったのだ。
サツキに向かって雷が落ちようとしているばかりか、ミナトにも雷が落ちてしまった。
「はあっ!」
バッと上に手のひらを向け、雷を打ち消す。
そこを、ハイナーが斬りかかってくる。
しかも今度はミナトに向かって、
「《
ダブルバトルならでは。
狙いは常にサツキだけじゃない。ミナトに閃光が放たれる。剣が閃光を放出する直前には魔力の変質が見えていたため、サツキは声をかけていた。
「ミナト、光だ!」
ギリギリだが、ミナトは目を閉じてくれた。
しかしヴォルフが攻撃の手を緩めてくれるはずがない。サツキはミナトのサポートに回りたい気持ちも起こったが、ぐっとこらえ、迫り来るハイナーを倒すことを優先した。
「これで決める」
「やってみろ! くはああああああ!」
「はああああああっ! 《
ぶつかり合う剣と剣。
だが、結果は一瞬だった。
サツキの剣がハイナーの剣を吹っ飛ばして、ハイナーも弾かれるように後方に向かって倒れた。剣もハイナーも、弾き飛ばされたベーゴマみたいな小気味よさである。
攻防の速さから実況を挟めずにいた『司会者』クロノだが、ここでようやく声をあげた。
「パワーがちがーう! サツキ選手の新技、《
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