34 『ブーメランストリート』
獣人、『
彼は開幕の合図と同時に動き出していた。
「てめえらをハントしてやるッ!」
サツキとミナトへ向かって駆け出しながら、背中のブーメランを投げようと手をかける。
「ガルァッ! 《
「おっと」
ミナトが刀を振り落とす。
ヴォルフの右肩がミナトの刀の反りの部分で叩かれ、右手で持っていたブーメランを取りこぼししまう。これを口でキャッチして、動物的な反射神経で動いてミナトから距離を取る。
「ガルッ! いつの間に動きやがった」
「それより、いつの間に、ヴォルフの上に……」
後方でまだ動いてもいなかったハイナーが驚きの声を漏らす。
ヴォルフとハイナーはまだ信じられないという顔をしているが、サツキにはミナトがなぜそこまで早く動けたのかわかっている。
――開幕直後のヴォルフさんの動きを、ミナトは《
ミナトは普段から相手の命を奪わない戦い方をするため、それさえ気にしていない様子だが、サツキにはまだうまくミナトを生かせる戦い方がわからずもどかしい。
サッと中空を舞うようにサツキの隣へと戻ってきたミナトに、《
「やはりあのブーメランが魔法を発動させる媒介のようだ。ハイナーさんはそれに合わせて魔法の発動準備をさせようとしていたが、あくまで動きを見てからだろう。挙動から、二人の魔法が合わさってなにか仕掛ける可能性は高いが、二人のスタートに時差はある」
「了解。で、僕は先にやっちゃおうか?」
「ピンポイントにブーメランの破壊ができるなら構わない。だが、俺たちは修業も兼ねてここに立っている。彼らの戦法を確認して、それでその都度対策を練って、一歩ずつ攻略してもいいと思う」
「修業ってこと忘れてた。うん、そうしよう」
対戦相手二人は、サツキとミナトの会話を聞いて苛立ちの声をあげる。
「ガルァ! あいつら舐めたこと言いやがって! このオレを止めて調子に乗ってやがるな!」
「修業とは見くびられたものだ。ヴォルフ、目に物見せてやろう」
「ったりめーだ! ガルルァッ!」
会話の切れ目に、『司会者』クロノが楽しそうに実況を挟む。
「あまりにも早かった! まさに神速だー! ミナト選手の代名詞、『
ミナトがニコリと微笑を浮かべて、
「だったね、サツキ。楽しまないと」
「うむ。そうだった。やるぞ、ミナト」
サツキの口元にも微笑が浮かぶ。
「じゃあいくよ」
「こっちはもう動き出してるってんだよッ! ガルッ!」
ヴォルフが駆け出して、ミナトが刀を振った。
「斬撃が飛んだー! 走り出したヴォルフ選手の動きが鈍る! 投げようと手をかけたブーメランには手をつけられず、しかし獣人の驚くべき反射神経で確実に避けてみせた! さすがだぞ!」
斬撃、《
それを避けたヴォルフは、ブーメランを投げるモーションを防がれるが、身体をうまく使って着地するや、またブーメランに手をかけた。
今度は投げられた。
「《
「来たーッ! 《
クロノの言葉を聞いて……、ヴォルフの視線がブーメランから完全に外れたのを見て……、まだ動き出さないハイナーを見て……、サツキはブーメランの軌道とまとっている魔力を見る。
――「ここからどう対処していく」の意味は、ヴォルフさんの視線がブーメランから外れたことがその理由の示唆になる。つまり、ブーメランの
サツキには、ブーメランについてある予想が立っていた。
――ブーメランがまとった魔力の意味は、この推論でいいはず……。そして、ハイナーさんがまだ動かない理由も、俺の《緋色ノ魔眼》でカラクリを読み解ける。
魔力を可視化したことで、ハイナーさんがただ動かないだけでないこともわかる。
――ハイナーさんは、魔力を高め、魔力を練っている。また、ハイナーさんが俺たちよりもブーメランのほうを気にしているのも、それをブーメランの魔法とかけ合わせるためだろう。だいたい、読めてきたぞ……。
分析をある程度し終えたサツキ。
一方、ミナトはブーメランの軌道を目線で追いつつ、ヴォルフの動きも視界の端で捉えた。
――ああ、ヴォルフさんちょっと安心しちゃってるなァ。魔法はこの発動一度きりで済むって言ってるようなもんだ。でも……。
ミナトがカチとつばに指をかけると、その音に反応してヴォルフがミナトを見る。野生動物が身構えるように警戒を示した。
――まだ動く気はあるみたいだねえ。ブーメランだけで仕留めるつもりもないのかな。サツキの分析がどこまでいってるかわからないけど、ヴォルフさんも動き出したし、僕が相手するか。僕がサツキの大技をお膳立てしてあげるよ。
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