33 『プリックイヤー』
「みなさん、盛り上がってますかー!? ダブルバトル部門もいよいよ次がラスト! 本日の大トリはもちろんこの二人、『波動のニュースター』
舞台に上がってきたサツキとミナトに『司会者』クロノから紹介が入ると、会場はいっぱいの声援に包まれる。
「昨日から勝ち続ける二人の活躍に、早くもたくさんのファンができているようです。バトルマスターであるレオーネ選手とロメオ選手のご友人だということも、サツキ選手とミナト選手への期待を高める要因となっているかもしれません。また、そのレオーネ選手とロメオ選手のバトルマスター昇格を記念して新設された『ゴールデンバディーズ杯』は、ダブルバトル部門専門の大会となっており、開催は三日後。当然、サツキ選手とミナト選手も参加を狙っているぞ! 参加資格が三勝をあげることになるため、サツキ選手とミナト選手は参加可能な四日間のうち負けが許されるのは一度のみ。ぜひとも、今日の試合は勝ちたいところだ。おーっと、そしてここに、対戦相手もやってきたぞー」
サツキとミナトが待つ舞台に、対戦相手となるバディものぼってきた。
少年コンビだが、サツキとミナトよりは年上だろう。十代も後半になろうかという感じである。
「『
ヴォルフは、身長一七三センチほど。ファーのついたフードの下には黒い狼を思わせる黒髪と鋭くシャープな顔立ちがあり、細い手足、背中には大きめのブーメランを背負っている。
ハイナーは、身長一七八センチほど。白に近い灰色の髪に、青い瞳、腰には剣を下げている。形状はファルシオンに似ているだろうか。
最初に、ヴォルフが口を開いた。
「はん、甘ったるい匂いなんかさせやがって! お茶会でもしてたのか?」
「よせ。おまえの嗅覚の鋭さはわかるし、おまえの予想が当たってる可能性も充分ある。が、試合前の心の落ち着け方は人それぞれだ」
冷静なハイナーが好戦的なヴォルフを注意する。
「わーってるよ、ハイナー」
ふてくされたように返事をして、ヴォルフはフードを取った。
その下からはヴォルフの頭が現れた。
サツキとミナトが驚いたのは、頭にくっついているものである。
耳だった。
犬のようにぴょこんと立った耳がついている。
――獣人……なのか!?
声が出ないサツキだが、ミナトは興味深そうに微笑して、
「獣人でしたか。わんこかオオカミか。どっちだろう」
と独り言のように口にする。
「てめえ! オレを犬扱いする気かよ!」
ガルッと吠えるような声でヴォルフがとがめる。それを、ハイナーが腕を伸ばして静止し、サツキとミナトに説明した。
「ヴォルフはオオカミの血を持つ獣人だよ。我々普通の人類より、身体能力が高い上に聴覚と嗅覚が優れていて、当然魔力も強い。そして、ほかの獣人以上に知性が高く応用力もある。気が短く荒々しいのが玉にきずだけどね」
「……」
サツキは驚いた以上に、獣人についても考えていた。
――獣人は身体能力や嗅覚などの機能に優れているが、知性が低いのか。性格的にも、荒々しくなったり、動物的な性質を引き継ぐらしい。これが、未来の人類の姿かもしれないんだな……だからこそ、魔力の影響を強く受ける魔法世界で生き抜くために、魔力も強くなる。やっぱり、ホモサピエンスとほかのヒト属みたいみたいな感じなんだろうか。
サツキがいた時代、サツキたち現生人類はホモサピエンスというヒト属だったが、同じヒト属には絶滅したものがいくつもある。ネアンデルタール人のような旧人類や原人などは、サツキにとっては自分とまるで違う種族に感じるし、その構図に当てはめると次のようにも思える。
本来的に、過去の人類が過酷な環境でも生きながらえたのには進化が必要で、その進化をした姿が獣人やドワーフ、エルフ、一部の妖怪で、絶滅種がサツキたち人間だった……これを、人間がタイムマシンで時空大移動をしたから、ミナトやクコたち人類がそのまま存在している。つまり、入れ替わるべきだった旧人類が、また幅を利かせているようなものだとも考えられるのだ。
それらは仮説だから確証もないし、今気にすることではないはずだが、サツキは不気味な光景を目の当たりにしている気持ちになってしまった。
「サツキは余計なことばかり考える人なんですよ」
ミナトがサツキの様子を見て、話題を変えるようにハイナーに言った。
「時に、その剣はどんな代物なんです? かっこいいなァ」
「これは、グロス・メッサーという大きいナイフだよ。ただ物を切る分には大きいだけのナイフだね」
「グロス・メッサー。ミゲルニア王国で使われる剣だと聞きましたが」
「なんだ、知ってるのか。まあ、ボクは今日、キミたちの試合を観ている。キミたちが晴和刀を使うことを知っている。魔法は互いに知らないし、これなら公平かもしれないね」
「いやあ、情報収集も立派な戦闘準備です。試合前に準備運動するのと変わりません。知られていても僕は構わないんですが、条件が同じなのはいいことですねえ。あとは勝負をつけるだけだ」
にこりとミナトが微笑むのを見て、クロノが割って入った。
「両者、探り合う会話を交わしましたが、ミナト選手は早くやりたくてたまらないみたいだー! 会場のみんなも、待ちきれないかー!?」
どこかにらみ合いのような会話も、ミナトの一声とクロノの実況で会場の盛り上がりに転換される。
「もう待てないぞー!」
「おっぱじめてくれー!」
「期待してるぞ、サツキにミナトー!」
「今日もかましてくれよ、ヴォルフ! ハイナー!」
会場の声を楽しげにうなずきつつ聞いて、クロノが言った。
「よーし! みんなからも開始を待ち望む声が届いたところで、始めようぜー! ということで、本日の最終戦、サツキ選手&ミナト選手VSヴォルフ選手&ハイナー選手の試合にご刮目ください! レディ、ファイト!」
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