27 『サブスペース』
ミナト対エヴァンゲロス。
試合の勝敗は決まったが、まだどんな形でミナトがエヴァンゲロスを倒したのか、新技がどのようなものなのか、それがわからないクロノは、
「エヴァンゲロス選手の手当は医療班によってただちに行われます。みなさんご安心ください」
と会場にしゃべりかけながら、ミナトの元へと歩いてゆく。そして、ヒーローインタビュー形式でミナトに話しかけた。
「ミナト選手、二勝目、おめでとうございます」
「どうも、ありがとうございます」
「最後の技、すごい切れ味でしたね」
「いやあ、エヴァンゲロス選手の鎧まで斬ってしまうとは、恐ろしい刀です」
「刀だけじゃなくて、ミナト選手もすごかったですよ! 新技だという《
「説明が難しいなあ」
「教えてくださいよー」
と、クロノがひじでミナトをこづく素振りをする。
「いやあ、教えたいのは山々なんですが」
「会場のみなさんやワタシには、斬撃が飛んだように思われましたが、それとも違うそうですね?」
「ええ。空間が割れるような、そんな感じです」
「なるほど! まだわかりません。ですが、ミナト選手も感覚的に扱っている技みたいですね」
「あはは。申し訳ありません。僕よりサツキに聞いたほうがよさそうです」
「確かにサツキ選手は分析能力が高い印象ですね。ミナト選手、ありがとうございました。本日はダブルバトル部門の参加も控えていますし、まずはしっかり休息してください」
「はい。のんびり観戦しています」
「ミナト選手へのインタビューでした。ミナト選手はこのあと、ダブルバトル部門の試合にも出場するから、みんな楽しみにしていてくれ! それでは、次の試合に参りましょう! シングルバトル部門も始まったばかりだ!」
ぺこりと舞台にお辞儀して去っていくミナトには、まだ歓声が降り注いでいた。
観客席では、シンジがサツキに質問した。
「サツキくん。最後のミナトくんの技、聞いてもいいかな?」
シンジがややためらう言い方になったのも、この世界における魔法の重要性のためである。
魔法のことを聞くのは、その人のもっとも大事な秘密を聞くようなもので、それを知られると悪用される恐れがある。通常、魔法に関しての情報はなるべく伏せるものなのだ。サツキの世界の個人情報のような感覚である。
むろん、円形闘技場コロッセオに集まる猛者たちは、魔法の特性も戦闘に重きを置くものが多く、バレても気にしない魔法戦士たちが多数いる。だが、大事な試合で勝つための奥の手を用意している場合や、試合以外の場面を想定して情報を秘匿する場合もままあるため、選手同士であっても聞きにくいものだった。
サツキは気にせず言った。
「いいですよ。わかってどうなるものでもなさそうですし、俺の観察も正しいかわかりませんから」
「ありがとう。サツキくん」
「まず、俺がわかったのは、《
「つまり、ミナトくんが斬ったのは空間だけで、ミナトくんの攻撃は直接エヴァンゲロス選手を傷つけたわけじゃないってことか……あれ、それって、どういうことなんだ?」
頭がこんがらがっているシンジに、サツキも説明の仕方を変えてみる。
「たとえば、空間が手刀を振り落としたみたいに斬れたとします。すると、その空間の形に合わせて、その場にあった物質に力がかかるんです。見えない手刀を振り落とされたように、その輪郭で空間が抉られる感じでしょうか」
「なんかわかってきたかも。空間を斬ってできた、別の異空間っていう物質で斬ったような……あれれ、言っててわからなくなってきちゃった。えっと、なんだろ。ミナトくんの作る異空間は、触れたら傷ついちゃう、見えない刃みたいになってるのかな?」
「おおよそ、そんな感覚です。その別の異空間というのが、亜空間だと思われす」
「亜空間?」
「亜空間は、想像上の空間で、物理法則が適用されないと言われています。ミナトが斬ったあとにできたのは、そんな空間なのかもしれません」
話していると、ミナトが戻ってきた。
のんきな顔で軽く手をあげる。
「やあ」
「おかえり」
「ただいまー」
ふわりと軽やかに腰を下ろした。
ミナトは平然とした顔をしているが、サツキはバンジョーにもらった《
バンジョーはおまんじゅうを二つ、ヨウカンを二つ持たせてくれて、一人それぞれ一つずつだから、
「おまんじゅうとヨウカン、どっちがいい?」
と聞いた。
「今はおまんじゅうの気分」
「はい」
サツキはかぶっていた帽子を取ってその中に手を入れる。帽子は《
ありがとうとおまんじゅうを受け取りミナトはまったり食べる。サツキはお茶も用意してやり、ミナトはそれもおいしそうに飲む。
さっそく、シンジがミナトに試合の感想を言った。
「ミナトくん! 最後の技すごかったよ! ていうか、あのエヴァンゲロス選手とパワー勝負できちゃうのもすごいって!」
「いえ、まだまだです」
「サツキくんに聞いたんだけど、最後の技って亜空間を創ってるんだって?」
「いやあ、斬っただけで創ったっていうと大げさですが、たぶんそうかなって思ってます。僕自身、よくわかってないんですけどね」
「充分分析できてるよ」
と、シンジはおもしろそうにミナトの話に耳を傾ける。
サツキは黙って聞いていた。
そして、次の試合が始まって少し経ったところで、スタッフのお姉さんがシンジを呼びにやってきた。
「シンジさんの試合は、本日の五試合目になります。この次の次の試合になりますので、準備をお願いします」
「はい、わかりました」
ひょいと立ち上がって、シンジはサツキとミナトに手を振った。
「じゃあいってくる」
「いってらっしゃい」とサツキとミナトが見送り、シンジが見えなくなるとミナトが言った。
「結局、僕のあの技ってどういう仕組みなのかな? わかった?」
「シンジさんには話したが、それもただの観察からの予想で、わかったとは言い切れない」
「聞かせて。サツキ」
「うむ」
それから、サツキはミナトに説明していった。
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