22 『ロマンハイポセシス』
ミナトは、サツキの仮説を聞いて穏やかに微笑したまま言った。
「いいねえ。それ。浪漫だなァ」
「俺は、怖いと思ったけどな」
もしそうなら、人類は種としていくつもの枝分かれをしたことになる。人類が人間のままで過酷な環境を生き残れず、エルフやドワーフ、獣人や妖怪などに進化していった。
「この世界の動物は、魔力の影響を受けて魔獣化した種も多い。いつか見たアーマーキャメルやソードタイガーなんかがいい例だ。動物であれだけの変質をするのだから、人間の原型から進化した存在がいてもおかしくないと思ったんだ。時空移動をしなかったら、俺の子孫の子孫のずっとのちの子孫が、ドワーフや獣人になってしまっているかもしれないってことなんだぞ」
「やまんばとか吸血鬼が人間に近い姿なのも、納得しやすくて筋が通るじゃないか。それぞれに良いところもいっぱいある」
「うむ。そうなんだが、見た目が俺の知っている人間から離れていくのが、理解や想像を超えたことに思えて……」
そのとき、近寄ってくる少年の姿があった。
少年は、昨日サツキがコロッセオで戦った相手、同じ
年はサツキとミナトより一つ上の十四歳。
「やあ。サツキくんとミナトくん。やっぱり今日も来たんだね」
サツキとミナトは一度話を打ち切り、にこやかに挨拶してくるシンジに挨拶を返す。
「こんにちは」
「どうも。本日も頑張りましょう」
気になったことはなんでも調べたくなるサツキだが、まずはコロッセオに集中しなければならない。怪我や事故も起き兼ねないからだ。
――こういう話なら、あとで先生にしてみるのがいいかもな。あと、
明日の午前中にでも、玄内とヒナと三人で浮橋教授の元に行って話してみようと思った。
サツキは気持ちを切り替えて、シンジとミナトの会話に入る。
ミナトが笑いながら、
「昨日は帰ってからちょっと、レオーネさんとロメオさんに修業をつけてもらったんですが、まだまだダブルバトルは慣れませんねえ」
「いいなあ! でも、試合もしたあとなのにまた修業なんて、頑張ってるね」
「試合の時間は短かったので」
と、サツキが苦笑した。
シンジは周囲を見て、だれも聞いていないのを確認すると、少し声を落として言った。
「ここだけの話、たぶんさ、サツキくんとミナトくんは昨日の戦いで強いことがわかったから、今日はそこそこに強い人と戦わされると思うんだよね。完全なランダムマッチとは言われてるけど、一応興業だから、期待されてる二人には盛り上がるマッチングが組まれるんじゃないかな」
「そんなものですか」
人を集めて観せるショーでもあるからこそ、そうした調整はされることもあるだろう。
特に、サツキ以上にミナトは昨日だけで底知れない強さを見せている。
「ボクがここに来てから三ヶ月くらいになるけど、すごく強い人はそうなってる感じする」
ここまで、シンジは十二勝九敗。
昨日サツキに敗れるまでは十二勝八敗でちょうど二十戦参加しているわけだから、三日から四日に一度のペースで参加しているのだろう。昨日もシンジは、いつもは連日の参加はしないと言っていた。サツキとミナトが参加するから自分もという感じだった。
三人で話していると、『司会者』
「さあ! やってまいりました! 午後の部!」
水色の丸い貝殻に声を吹き込むと、それがマイクになって会場全体に広がる。それがクロノの魔法である。
『司会者』クロノは、実況もこなすリングアナウンサーも兼ねたレフェリーのような存在だ。タイムキーパーも彼の仕事で、年は四十代半ば。黄色の蝶ネクタイに青いスーツ姿。
クロノはしゃべりながらステージへの階段を上がってゆく。
戦いの舞台となるこのステージは、石畳が敷き詰められた正方形で、高さ一メートル五十センチくらいであろうか。
「みなさん、お集まりですねえ!」
クロノの声が聞こえるや、会場はいよいよ始まる午後の部に期待の声が上がっていた。
「おお! クロノさんだ」
「待ってましたー!」
「早くおっ
サツキとミナトの横では、シンジも楽しげにしている。
「午後の部が始まるこの時間、好きなんだよ。ワクワクするよね」
「はい。初戦はどんな選手が出てくるんでしょう」
「楽しみだなァ」
すると、コロッセオのスタッフがやってきた。
試合を控えた選手を呼びに来てくれるお姉さんだ。彼女は、サツキたち三人のうち、ミナトに声をかけた。
「ミナトさん。本日の二試合目になりますので、準備をお願いします」
「わかりました」
立ち上がるミナトに、サツキとシンジがエールを送る。
「頑張れよ」
「応援してるからね」
「はい。いってきます」
お姉さんはサツキとシンジに一礼すると、ミナトに言った。
「それでは、ご案内します」
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