20 『ダミーアンドサーチ』

「参番隊のかくれんぼはこれから進化していくよ。リラの魔法がレベルアップしたら、ナズナちゃんやチナミちゃんも描いて実体化して、それをダミーとして置いてみるのもありかなって思ってるの」


 ロマンスジーノ城。

 参番隊隊長・リラの部屋には、リラとナズナとチナミが集まっていた。

 昨日に続き、三人で修業していた。

 ナズナの魔法、《超音波探知ドルフィンスキャン》は超音波を発することによって周囲の形状などがわかる。どこになにがあるのか、部屋であればその広さはどうか、物体の密度はどうかなど、超音波で探る能力である。

 これによって、ナズナが目隠しした状態でかくれんぼの鬼役になり、リラとチナミが隠れて探してもらう。

 それが参番隊のかくれんぼ修業だった。

 チナミの発案で、昨日から始まったものである。

 このかくれんぼに、リラは新たな展開を考えていたらしい。

 リラは、《真実ノ絵リアルアーツ》の魔法で描いた物を実体化できる。ダミーを描いてナズナが探知する難易度を上げると同時に、リラの魔法の精度を上げる修業を兼ねる狙いがあった。

 リラの宣言を聞き、チナミは問うた。


「いいと思う。でも、ダミーの密度はどうなってるの?」

「ダミーの再現度ってことだよね? それは大丈夫、本物に近づけるよ」

「再現度が上がるのはいいこと。ナズナの形状把握能力とリラの再現度の勝負は、いい修業になる。ただ、その先に待っているのは、リラの勝ちとナズナの負けっていう共通ゴール」

「どういうこと?」


 首をひねるナズナに、チナミが言い換える。


「リラのゴールはナズナに勝つこと。それは変わらない。でも、そのときのナズナのゴールはない。いくら探知能力があがっても、リラも完璧に仕上げれば、ナズナはダミーと見分けがつかなくてもいいってことになる」

「確かに、リラが完璧に再現できるようになったら、ナズナちゃんのモチベーションはなくなっちゃうわ」


 二人の会話を受けて、ナズナはにこっと微笑む。


「それでも、いいと思うよ。それで、わたしも、リラちゃんの役に立てるなら、うれしいから」

「ありがとう。ナズナちゃん。でも、やっぱりほかにも目標はあったほうがいいよ。なにか考えよう」

「うん」


 相談している二人の横で、チナミは黙って考える。


 ――もし、ゴールがまだ先にあるなら。つまり、ナズナの超音波がもっと進化できる余地があるなら……形状把握と密度のほかに、物体の材質や温度、魔力の有無、あたりができるといいのかな? 果たしてそんなことができるのかわからないけど、ナズナにはその可能性を話しておこう。


 チナミはナズナに言う。


「ナズナ。物体には、材質、温度、魔力の有無、生命反応って要素もある。それも探れないか、意識してみて。あとは、声を出さずに超音波を出せないか、試してみてほしい。すぐにとは言わないけど、形状把握の精度が上がってきたら、徐々に」

「うん。チナミちゃん、いろいろ考えて、すごいね」


 キラキラした瞳をナズナに向けられる。


「チナミちゃん、リラにもなにかアドバイスないかな?」


 リラにまでそんな輝く瞳で見つめられて、チナミは三秒ほど黙考して答える。


「修業のポイントってわけじゃないけど、リラの《ぐるみチャック》を使って、別人を装うことも今後はできるようになるといいかもね」


 魔法道具、《着ぐるみチャック》。

 これは、リラがれいくにからガンダス共和国までの西さいゆうたんをしていたとき、仲間の法師様にもらったものである。チャックを取りつけた物の中に入ることができる。元が可動する物であれば、動かすことも可能で、リラはテディボーイというキャラクターの着ぐるみに入って戦ったこともある。メイルパルト王国でのことで、テディボーイの特徴も備えるために、腕力のないリラも大いに暴れたものである。ほかにもロボットを創り出して入ったこともあるのだ。


「《着ぐるみチャック》で変装ってこと!? リラ、考えたこともなかったわ! すごい! できたら参番隊のやれることがたくさん増えるよ」

「フウサイさんの、《へんげんじゅつ》みたい……だね」

「それ以上かも。私も習ってるけど、私も別人に変装できれば、潜入捜査や諜報活動に役立つ」


 チナミは天才忍者フウサイに習い、忍術を学んでいる。とびがくれさとで免許皆伝の巻物をもらったほどな才能あるチナミは、忍術の腕も上達している。忍者固有の技はまだ発展途上だが、ユニークな魔法も使えるため、すでに下手な忍者よりも芸の幅は広いくらいなのである。チナミの頭脳と器用さを合わせれば、もう充分くノ一たちとも渡り合える。

 リラはナズナとチナミの手をとって、


「参番隊、三人そろったらなんでもできる気がするね」

「うん」

「だね」


 二人を順番に見て、リラは言った。


「じゃあ、今日も頑張っていこーう! 参番隊っ」


 三人は鬨の声を上げる。


「えい! えい! おー!」




 このあと、参番隊はかくれんぼをした。

 リラが絵を描いて実体化し、目隠しをしたナズナがリラとチナミを探す。

 そのとき、リラにもナズナにも昨日とは異なる変化があった。

 今朝もレオーネに潜在能力の解放をしてもらったおかげで、二人の能力はまた別の進化を遂げていたのである。


 ――私たちの修業と進化、そして可能性を、サツキさんにも報告しよう。


 チナミはそう思って、この日自分がどんな潜在能力の解放があったかを考える。午後のフウサイとの修業でわかることもあるだろうか。

 サツキへの報告は夕方か夜になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る