幕間紀行 『ファントムケイブシティー(エピローグ3)』

 とある日の夕暮れ。

 サツキとリラはマンガを描いていた。

 手順としては、サツキが小説の形で物語を書いてきて、それをリラが読み込みマンガにするのである。

 二人が初めて会ったとき、マンガの話をしたのがきっかけだった。

 マンガを描きながら、リラが聞いた。


「サツキ様。この前は妖怪が登場するアニメのお話を聞きましたけど、今日はロボットのお話をしてくださると言ってましたよね。リラ、とても楽しみにしてましたの」

「リラは本当にアニメの話が好きだな」

「はい。だってワクワクするんですもの」

「リラの好奇心は、リラの絵をもっと創造的にしてくれている気がするし、俺も話し甲斐があるよ」


 そんな狙いもあるが、実際はリラが本当に楽しそうだからサツキも話すのが楽しみでもあった。


「どんどん話してください。リラ、サツキ様のお話なら何時間でも聞いていられます」

「そんなには話せないさ」


 サツキが笑うと、


「ふふ。本当ですよ?」


 リラはいたずらっぽく笑い返した。


「俺はロボットについてはそんなに長く語れるほど詳しくないんだが。ええと、ロボットアニメって昔から人気があってさ、どんどんいろんなデザインやストーリー性を持たせたものができているジャンルって言える気がする」

「前に、簡単なロボットの絵を描いてもらったことがありましたね」

「うむ。それが初期のロボットのイメージだな。もっと人間に近いデザインとかもっとメカニックなものとか、スタイリッシュなものまであるぞ」


 と、サツキはいくつかロボットの絵を描いていった。

 リラはキラキラした瞳で見つめている。


「うまくは描けていないけど、こういうのもあって」


 一体描くたびに、リラが「まあ」とか「すごーい」と言ってくれるが、サツキはもう少しうまく描いてやりたかった。


「でも、基本的には最初に描いたこういう感じかな」

「そうなんですね。リラはテディボーイみたいなぬいぐるみのキャラクターのほうが好みですけど、ロボットもかっこよくて楽しいです」

「確かに、ロボットは男の子に人気あったからな。ロボットの操縦席って頭か胸の部分についていることが多くてさ、そこに乗って操縦したいって子はたくさんいると思う」

「ロボットの中に入って戦うなんて、この世界の人たちは想像できないでしょうね」

「まず、ロボットがないからな。でも、一度ロボットを考え出したら……そうか」


 急に、サツキが天啓を得たようにつぶやく。


「どうしたのです? サツキ様」

「今度ロボットに入ってみたらどうだ?」

「え、リラが、ですか?」

「うむ。リラならロボットを絵に描いて実体化できる。そのあとは、テディボーイでやったように……」

「なるほど! わかりましたっ。つまり、《ぐるみチャック》ですね!」


 そう、とサツキは言った。

 リラには、《真実ノ絵リアルアーツ》という魔法がある。空中に絵を描き、それを実体化する魔法である。さらに、魔法道具の《着ぐるみチャック》を使って、リラは実体化したものに入って動くこともできる。前にもそれで戦ったことがあったのだ。


「ロボットの形状は人間を模しているから動きやすいし、リラの《真実ノ絵リアルアーツ》はロボットの硬い装甲もある程度は再現できる。戦闘向きだ」

「はい、おもしろそうです!」

「テディボーイも身体能力が高かったよな」

「そうですね。クマさんのパワーとスピードを持ったキャラクターなんですよ」

「《真実ノ絵リアルアーツ》にはリラの想像による再現になるから、リラの持つ強いロボットのイメージよりもテディボーイのほうが優れた部分もあるだろう。状況によって使い分けてもいいと思うぞ」

「そうします! お話を聞いていたら、わくわくしてきました。大きなロボット、描いてみたいですね」


 サツキは小さく微笑んだ。


 ――そうだよな。リラだったらまず、描いてみたいってなるよな。


 絵を描くのが大好きなリラは、ロボットを描いてそれを実体化するのを想像していた。


「よし。それなら、今日はマンガを描くのをちょっと中断して、ロボットを描いてみるか。俺がアイディアを出すよ」

「はいっ。リラも頑張ってかっこいいロボットを描いてみせます」


 こうして、サツキとリラは二人で考えを出し合って、リラがロボットの絵を描いていった。図案やスペックなども話して、構想を膨らませてゆく。

 それが実戦で使われるのはほんの数日後、『洞窟都市』テラータを訪れたときのことである。

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