幕間紀行 『ファントムケイブシティー(エピローグ2)』
港町リバジャーノに到着した士衛組一行。
九月二日の夕方になっていた。
リラが小槌を振って馬車を小さくして、玄内の甲羅にしまう。
町を歩きながら、サツキが聞いた。
「もう夕方だし、列車は明日になりそうだな」
「そうね。今からだと空席はないでしょうし、朝にしましょう」
ルカの答えはみんなの意見とも同じだから、ここからは今晩の宿を探すばかりとなる。
「そうなると、あとは宿探しか。ここはテラータと違って結構大きな町だからいくらでも宿はあると思うわよ」
イストリア王国に詳しいヒナの言葉通り、宿は何件もあった。
「どこでも構わないが、あそこなんてどうだ?」
「いいんじゃない? じゃあ、そこで」
サツキが指差す先にヒナが同意し、移動しかけたところで、ヒナの歩が緩んだ。それに気づき、サツキはちょっと黙って同じく歩を緩める。
ヒナには、サツキが自分の小さな変化に気づいたことがわかった。しかし、待ってくれている。サツキは、ヒナが音を拾ったとわかったのだろう。
魔法、《兎ノ耳》でヒナは会話を拾った。耳を澄ませる。
「士衛組、さすがはヴァレンさんが注目している組織だ」
二人の青年同士の会話らしい。
――士衛組? なんであたしたちの名前を……。
もう一人の青年が言う。
「まさか『洞窟都市』テラータがあんな状況だったなんて、おれたちも知らなかった。もし気づけても、レオーネさんとロメオさんは忙しいから手が回らなかったろうな」
「なによりぼくたち『
「仕方ないだろ。テラータの町に住んでいる仲間も妖怪に催眠をかけられ洞窟に閉じ込められていたんだ」
「イストリア王国の治安を守るのもぼくたちの仕事。彼ら……士衛組には借りができた気分だね」
「まあ、おれたちには関係ないと思うぜ。士衛組はマノーラに行くんだろう?」
「ああ。この町を通って列車に乗るんじゃないかな」
「じゃあ、あとは任せればいい」
「そうだね」
青年二人は、ここで会話を切り上げた。
二人の会話は、声もひそめていて、ちょっと近づいたくらいでは普通は聞こえない。それでも、ヒナの耳ならほとんど聞き取れていた。
――ちょっとっ、なになに!? あの『
だが、会話を思い返して考える。
――……いや、でも怖がることはないのかしら。あの二人、『
ヒナが考える顔になったところで、サツキが聞いた。
「なにかあったか?」
「うん。別に、たいしたことじゃないんだけどね。まあ、言っておくべきよね。気になる会話があってさ」
みんなが歩く最後尾で、ヒナはさっき聞き取った会話を教えた。
「さっきね、向こうにいた二人組があたしたち士衛組の話をしてたわ」
「俺たちの? その二人組って……」
「『
「随分と耳が早いな」
「サツキは『
「ふむ。情報収集能力の足りなさを嘆いているわけでもないんだろ」
「そう。事情が違う。イストリア王国の治安を守るのも仕事なのに、気づけなくて不覚だったんだってさ。だから、士衛組には借りができたとも言ったのよ」
「そういうことか」
「まあ、そこに潜んでいる仲間も洞窟に閉じ込められていたし、催眠もかけられていたから仕方ないとも言ってたけどさ。ただ、あたしたちがマノーラへ行くことも知ってた」
「俺たち士衛組も、少しずつ知られてきている。が、やけに詳しいな」
「言ったでしょ。連中は情報網がすごいスパイ組織だって。目をつけられて迷惑しちゃうわよ。敵対心はないみたいだけど、『
「うむ。今のところ、悪いようにはされないだろう」
たぶんね、とヒナが答えて会話が終わった。
このときのサツキとヒナはまだ知らない。
士衛組がこれから、マノーラで当の『
しかも、リラはすでに組織のトップ・ヴァレンと友好を築いており、サツキも組織の最高幹部・レオーネとロメオとは友人であったことも知らなかった。
このあと。
士衛組は宿に入った。
部屋は二人ずつになる。
サツキとミナト、クコとルカ、リラとナズナ、チナミとヒナ、バンジョーとフウサイが同じ部屋になる。玄内は自分の別荘にいるとのことだった。
出発は翌朝。
列車に乗れば、次の目的地のポパニまでノンストップだ。
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