幕間紀行 『ファントムケイブシティー(21)』
戦闘が開始され、サツキの司令を受けた士衛組。
前線で戦うのはミナト、クコ、バンジョー、ヒナ、チナミの五人。
勝負の決め手は、サツキに委ねている。
ゆえにミナトは、《
「長くて鋭い爪だけど、所詮は爪。そう思っていたのは、さすがにちょっと甘かったかなァ」
「人間のくせに、このワタシを侮るなど笑止」
九尾之坑竜はミナトの剣を爪で受けて、互角の戦いをしていた。もちろん、クコたちほかの士衛組の仲間を相手にしながらである。
むしろ、ミナト以外はゼロ距離まで近寄ることもできない。炎が踊るように襲い続け、距離が詰められないのだ。
「いやあ、侮っているわけじゃァありませんが、僕の剣、なかなかの代物なのでね」
「確かにその刀、ただの刀ではないらしい。
「『天下五剣』といって、最高位になるんですよ」
ミナトが目をキラッと光らせて、本気の一閃。
九尾之坑竜が大きく避けて、壁際から離れた。前に躍り出てきた。
「くっ、良い刀であることは認める。が、それだけでワタシに勝てると思うか!」
炎を一時、ミナトに集中させて攻撃してきた。
「ミナトさん!」
「ミナトお兄ちゃん!」
クコが声をあげると同時に、ジッロも叫んでいた。
しかし、ミナトは軽やかに後退して、難なく避けてみせた。
――まいったなァ、《瞬間移動》を使わされるなんて。でも、力量もわかってきた。相当強いようだけど、サツキの最大威力なら届く。さァて、もう少し踊ってあげようかな。
味方は愚か、
「す、すごーい。ミナトお兄ちゃん」
「当然よ。この年で最強の『四将』をつかまえようって考えてるような、いずれ必ず達人になる剣なのだから」
ルカがそう言うと、ジッロは「そうなんだぁ」と目を輝かせる。
「みんな、順調みたいね」
ミナトは先の通り、互角に戦っている。
チナミはくノ一のような身のこなしで炎を避け、飛んできた炎も扇子を舞わせて払ってみせる。九尾之坑竜へはフウサイに習ったクナイや手裏剣の投擲もするが、ほとんどダメージを与えられていない感がある。
――あの九つの尻尾で払われる。器用。
それでも、仲間が攻撃する隙を作ることになるため、チナミは攻撃を続ける。
正面突破しようとするクコとバンジョーだが、二人共炎に阻まれて近づけない。だが、クコは思い切り剣を振る。
「《ロイヤルスマッシュ》!」
高威力の技で、サツキの魔力圧縮の効果を合わせている。額をくっつけた相手と感覚を共有できる魔法《
クコの《ロイヤルスマッシュ》が炎を吹き飛ばす。
炎がなくなり、道が開ける。
そこからバンジョーが突っ込んで殴りかかる。
バンジョーはメラキア合衆国の出身だが、フウサイと幼馴染みで、一時期忍びの里にいたことがある。そのときに培われた身のこなしと持ち前の筋力とバネで
「うおおおりゃあああ! 《スーパーデリシャスパンチ》!」
「いい動きですねえ、旦那」
それにミナトが合わせて斬りかかった。
「その程度でワタシに傷の一つでもつけられると思うか」
九尾之坑竜はミナトの剣を両手の爪で受け、バンジョーの拳を九つある尻尾のうちの三本を使って三連撃で殴った。
「ぐおっと!」
バンジョーは後方に吹き飛ばされるが、くるくるっと膝を抱えるような形で回って、しゅたっと着地する。
「アイツ、尻尾も使うのかよ」
「尻尾って便利ですね。僕も欲しいなァ」
ミナトは深追いせずに、また距離を取る。
ちなみにバンジョーの《スーパーデリシャスパンチ》はただの強いパンチで、魔力の内包量が大きく筋力のあるバンジョーが全力で打ち込めばかなりの威力になる。
ヒナは攻めあぐねていた。様子を見ながら炎を避けて、近づこうにも近づけない。
「魔法を使ってもいいけど、まずはミナトが小手調べしてるし、今あたしにできるのは炎の分散が精々かしら」
自分が魔法を使うタイミングを見計らうヒナ。
そこに、ドスンという音が聞こえてきた。
「え、なに?」
ヒナが振り返ると、ロボットに入ったリラがやってきた。
クコとバンジョーはロボットを見て目を輝かせる。
「わぁ! カッコイイです! リラ、お姉様にもっと見せてください!」
「超イカすじゃねーか! なんかしてくれ!」
一方、たった一人で炎をかいくぐった上で接近戦をしているミナトは、おかしそうに笑って言った。
「いやだなァ。みんな、遊んでいる場合じゃァありませんぜ」
「そうでした! いきましょう!」
「おう! やるぜ!」
また戦闘に戻ろうとするクコとバンジョーだが、リラはいっしょになって「はい」と返事ができなかった。
――急いで描いたから、また口を描くの忘れちゃったわ。前にテディボーイを描いたときもそうだったけど、しゃべれないと連携できないもんね。今回はサツキ様のための時間稼ぎだからいいとして、次は気をつけないと。
リラは返事ができない代わりに敬礼して、それから駆け出した。
「なんだ、あれは……」
さすがの九尾之坑竜も、ロボットなど知らなかった。長年生きてきた妖怪じゃなくても、この世界の人間は想像上のロボットさえ見たことないのである。
炎をものともしない。
爪で斬りつけても丈夫なボディで受けきってしまう。
「おかしな魔法だ。まるで全身が強力な鎧で覆われているようだ。が、動きが悪い」
しなやかな動きで尻尾を振って、ロボットの足元に打ちつける。すると、ロボットは転んでしまった。
――確かにリラは上手に動けません。武術の経験もありません。でも、この丈夫な身体で何度も立ち向かうことが、すべてをサツキ様に託す力になる。
立ち上がってまた戦うリラ。
それを見て、ヒナも魔法を使うことにした。
「あたしだって!」
ヒナが、びょーんと跳ねた。
ウサギが月まで跳ぶような跳躍力である。これは《
「天井まで飛んでどうするんだよ」
バンジョーに心配されるが、
「あんたは戦ってなさいよね、あたしにも考えがあるのっ! ここで言うわけないでしょ」
「おお、そうか。おっし、やるか!」
また気合を入れて立ち向かうバンジョーの遥か上空で、ヒナは天井に到達した。身体をうまく回転させて天井に足をつき、またびょーんと跳ねた。今度は下にいる九尾之坑竜に向かって急降下する。
ヒナが刀で斬りかかる。
「安心しなさい。これは逆刃刀、斬れないわ。《まどろみ》」
逆刃になっている特殊な刀、『
しかし、九尾之坑竜は尻尾をうまく動かし、刀には触れずにヒナの身体を横からぶつように振った。
「危なっ! ったく、妖怪ってやつは」
尻尾がヒナに叩きつけられるが、ヒナは刀を右手だけで持って左手で応じる。
この間に、ミナトが懐に入り込んでいた。
「《
一つの呼吸で三つの突きを繰り出しており、目にも留まらぬ素早い剣が、左右の腕とヒナを攻撃した尻尾にヒットした。そのおかげで、ヒナが受けたダメージは小さくなる。
「くおっ」
「くおおあっ!」
爪と尻尾でミナトを追い払い、距離を取らせる。
「よくもこのワタシに傷をつけてくれたな。人間風情が出過ぎた真似を」
怒りを覚えながらも、九尾之坑竜はヒナの動きに疑問を持った。
なぜなら、弾き飛ばしたヒナは、自身が加えた以上のパワーを受けたようなスピードで飛んでいったからである。しかも、左手で尻尾を受けたのにダメージを受けた様子もない。
さらに、ヒナは壁という壁を蹴って飛び回り、加速していく。
これを見て九尾之坑竜は、
――足にバネが入ったような反発力。これを手足など身体中に働かせることで相手から跳ね返ることもできる。また、急降下による加速を逃がさぬような反発を繰り返せば、加速も可能……か。
とヒナの不思議な動きを分析した。
分析は当たっていた。
敵の攻撃が強ければ強いほど、その反動で遠くに逃げられるのだが、さらに可変的に跳ね返る方向をコントロールでき、急降下を利用すれば加速もできる。
「おかしな動きをするウサギよ。しかし、仕掛けがわかればワタシに辿り着くさえできない。その程度の抵抗なら、許してワタシの計画の駒にしてやるところだが……このワタシの身体に傷をつけた剣士、貴様だけは許さん。見せてやる。そして味わわせてやる。ワタシの真の力を!」
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