幕間紀行 『ファントムケイブシティー(20)』

 妖怪、きゆうこうりゅう

 元はれいくにの妖怪であり、『きゅうきつね』だったものが、モグラの特徴を保有するようになった。人間よりも寿命の長い妖怪も多い中、『九尾之狐』は特に長いと言われ、千年以上も生きる者もある。

 また、複数の魔法を扱えるほどに強力な妖怪なのである。

 九尾之坑竜は、最初に幻術系の魔法を使った。


「《》」


 炎がぼわっと現れ、九尾之坑竜を取り囲むように舞い、その炎が士衛組に飛んできた。

 サツキは《いろノ魔眼》で炎を見る。


 ――やはり、普通の炎じゃない。熱もなさそうだ。


 局長として指示を出す。


「ナズナは周囲の把握を。ルカとリラは下がって待機、いつでも動ける準備を。残る全員で九尾之坑竜に攻撃してください」

「了解」


 最初にミナトが答えて動き出し、クコとチナミも「はい」と駆け出した。バンジョーも「おう」と突っ込む。ヒナが一歩遅れて、「やってやるわよ」とついていった。

 リラはサツキのすぐ後ろで戦いを見ている。その横でナズナが《超音波探知ドルフィンスキャン》によって周囲の地形を探知し、ルカも待機、玄内は最後尾で全体を見渡す。


「炎に熱はありませんが、しびれの効果があるかもしれません。触れないように気をつけて」


 指示を出したあと、サツキはリラに聞いた。


「一旦、この辺でいいだろう。ここから動けるか?」

「はい。メイルパルト王国に続いて、ここでも司令の仕方を見せていただきましたし、わたくしも戦いに参加します」

「うむ。リラは着ぐるみに入って戦ってくれ」

「わかりました」


 参番隊隊長になって、まだ日の浅いリラ。メイルパルト王国での戦いでも、司令官としてのサツキを見せてもらったが、今回も最初は司令する姿を見せてもらった。ここからがリラの参戦になる。


「あの爪で戦う相手となると、しびれに強く、硬い身体を持ったものがいいが……」

「では、サツキ様が話してくださったアニメに登場する、ロボットはどうでしょうか」

「なるほど。うむ、いいな」


 事前に考えていた作戦では、リラがサツキの司令を見てから着ぐるみに入って参戦することになっており、その着ぐるみについては未定だった。相手の特徴を見てから、その場でリラが描き創り出すことになっている。


「《真実ノ絵リアルアーツ》」


 リラの魔法、《真実ノ絵リアルアーツ》。

 空間に絵を描くことで、描いたものを実体化できる。流れるような筆さばきでロボットが描き上がる。そしてそれが実体化した。ちょっと古いタイプのロボットという印象だが、力強さを感じられる。

 ドスンとロボットが空中から着地した。


「できました」


 リラがサツキとマンガを描く中で聞いたアニメの話も、こんなところで役立った。ロボットは一メートルくらい。


「《うちづち》さん、お願いします。おおきくなーれ、おおきくなーれっ」


 すると、ロボットが三メートルを超えるくらいになった。渓谷の横穴を調査した際に、ナズナに小さくしてもらったのとは逆の使い方になる。洞窟の中でなければ、これをもっと大きくして戦うこともできるのだが、ここではこの程度に留めておくほうがいい。

 そして、リラは着ぐるみにチャックを取りつける。


「《着ぐるみチャック》。これでロボットに入れます」


 これもまた魔法道具で、名称は『着ぐるみ』だが、着ぐるみ以外でも人形やおもちゃなど、物体に入ることができる。

 ロボットが出発して、残ったのはサツキたち四人になった。サツキ、ルカ、ナズナ、玄内の四人である。


「ナズナ、横穴の位置は特定できたか?」

「は、はい。あっちと、あっちと、あっち、あと……あっち、です」


 指差しながら教えてくれたナズナに、


「わかったわ。ありがとう、ナズナ。《とうざんけんじゅ》」


 ルカが答え、指定されたポイントに剣や刀、槍が突き出して穴を塞いだ。


「完了。これで、九尾の逃げ道は塞いだわ」


 武器を地面など様々な空間から飛び出させる技、《とうざんけんじゅ》。これは、ルカの空間をつなぐ魔法お|取《とせ》と物体を操作する《ねんそう》の合わせ技になる。ルカの必殺技でもあった。一度にたくさんの敵に大きなダメージを与えられるものだが、ここでは九尾の逃げ道を塞ぐ手段に使ったのである。

 サツキも二人に礼を述べた。


「ありがとう、ナズナ、ルカ。あとは、ルカはアレの準備を。ナズナはみんなを強化する歌をうたってくれ。そうしたら、俺の後ろで控えて」


「ええ」と、ルカは手の中に閃光弾を《お取り寄せ》で出現させ、これを放つ準備をする。


「は、はい。《ゆうしゃうた》」


 ナズナは歌い始めた。

 この歌は、味方の魔力や筋力を増強させることができる。ずっと歌い続けている必要もないため、最大までしっかりと効果をかけられたら歌うのを止めてもいい。


「フウサイ。ルカもタイミングを合わせるために集中する。俺の護衛は任せたぞ」

「はっ」


 どこからともなく、フウサイの返事が聞こえた。

 潜入捜査してくれたフウサイは、口寄せしたガマガエルを使って報告をくれたように、催眠にかかっていない。となれば、玄内が魔法を解除したあとは自在に動ける。もう無数の忍術を駆使できるのである。

 前線でみんなが戦う中、サツキは全員の動きを見て、すっと拳を身体の前に出した構えで目を閉じた。


 ――これなら大丈夫。みんなは強い。俺は、集中させてもらう。


 拳の高さはももの付け根くらいになるだろうか。

 サツキの習った空手の型でここから始まるものもあり、サツキにとって自然体でいられる構えでもあった。

 この姿勢のまま、サツキは集中していった。


 ――一撃にすべてを込める。《せいおうれん》。


 魔力を圧縮するもので、サツキ特有の魔力感覚による技だった。魔力は通常、圧縮をするというコントロールはない。爆弾を作る魔法でもあればそれに近い感覚になるかもしれないが、サツキの場合はすべての力をぎゅっと小さな爆弾に込めるように、魔力を圧縮できる。

 さらに、《どう》の魔法が使える。

 ガンダス共和国を訪れたときに出会った青年、『千の魔法を持つ者』レオーネが見せてくれた魔法で、それを見て魔力圧縮に似ていると思い、練習して、《波動》を我が物とした。

《波動》と魔力圧縮を掛け合わせて、超威力の一撃を狙う。それがサツキの作戦だった。

 横でサツキを一瞥して、ルカは感心してしまう。


 ――すごい集中力。静謐な淀みない空気をまとい、それでいて私でも近づきがたいビリビリとくるオーラを感じる。みんなもうまく戦っている。フウサイさんもいる。サツキは集中していいわ。


 やがて、ナズナが歌い終わり、サツキの後ろで控えた。

 歌の効果もあって、サツキのパワーもさらに上がっている。

 ルカは全体をよく見る。

 戦況は悪くない。

 だが、ヒナの動きとミナトの攻撃が、きゆうこうりゅうとの戦いに変化をもたらした。黙って経過を見ていたルカが、やがてつぶやく。


「これは、一体……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る