幕間紀行 『ファントムケイブシティー(18)』
サツキが切り出した。
「さて。整理するぞ。まず、目的は『あのお方』、すなわち『九尾』を倒して町の人たちを解放すること」
「はい」
「前提として、九尾についても考察した。九尾は妖怪で、口がきける。二本足で立つ。顔はキツネで手がモグラ。尻尾は九つに分かれている。炎の魔法を使うが、それは幻術の類いでしびれをもたらす。また、光が苦手」
「そうでしたね」
「俺は、九尾をモグラとキツネが合わさった妖怪だと考える。ジッロが言っていた人攫いの話を覚えているか?」
クコは答える。
「大きなキツネみたいなモグラが、人を後ろから抱き込むようにして地面に引きずり込むというお話ですか」
「うむ。あれは九尾自身じゃないかと思うんだ。光が苦手なのもモグラ的な特徴だし、お金を奪う際に人間を連れ去るのを除けば、結構な数を九尾は攫ってきたんじゃないだろうか」
「それには同意だわ。ただ、光が苦手のようだし、実行は暗くなってからになるわね」
とルカが言った。
「うむ。だとすれば、だ。その九尾を相手に洞窟内でそのまま戦うにはやはり逃げられてしまうリスクが高くなる。人間を攫うための細かい穴もたくさんあるかもしれないからだ」
「ええ。そのための閃光弾よね」
「そうですね。閃光弾で動きを封じれば逃げられません」
「ある程度相手を引きずり出しておく必要はあるがな。閃光弾が効果を発揮してもすぐに横穴へ逃げられる距離にいられたら困る。より詳細な地図があれば助かるが、大きな洞窟だというし、壁際から離れているタイミングを狙うしかない」
フウサイが送ってくれた地図には、入口から九尾までの簡単な道しか記されていない。横穴の位置は不明とも書かれていた。
「横穴の位置は不明とフウサイさんは書いていた。つまり、横穴があることは確かだしね」
「閃光弾は、衝撃を受けると爆発するタイプではなく、栓を抜くと決まった時間で爆発するタイプになると先生は言っていた。それも合わせて作戦を考える」
クコが質問した。
「あの。九尾がキツネとモグラの特徴を持った妖怪だということですが、コウモリの特徴も持っている可能性はありませんか?」
「コウモリの性質を持ち合わせる可能性も捨てきれないが、フウサイの報告では大きなコウモリたちは人間を監視している様子もないと言っていた。九尾がコウモリなら、ほかのコウモリたちを従え、手下にして人間を監視させると思うんだ。千人以上の人間に催眠魔法をかけるほどの力があるんだからな。その力を過信して見張りを手抜きするケースも考えられるが、空を飛んだという話も羽を持つという話も聞かない。今のところ、コウモリの可能性は置いておいていいと思う」
「確かにそうですね。それなら、飛んで閃光弾を逃れることもなさそうです」
今度はルカが問うた。
「ほかに確認しておくことはあるかしら」
「あとは、魔法結界についてだろう。先生が結界を解除してくれると言っていたが、結界の解除は最初に行えばいいだけとも限らない。再び魔法結界を張られないよう、それを打ち消すため防御結界を展開する可能性も高い。だから、戦闘は先生を除いた俺たちでやる」
「そうね。今までも、先生は見守るスタンスだったわ。やるのは私たち」
「となると、残るはわたしたちがどうやって九尾と戦うかですね」
クコの言葉を受けて、サツキが言った。
「俺に考えがある」
司令隊の作戦会議が終わり、クコが立ち上がった。
「それでは、各隊の隊長を呼んできます。それをお伝えして問題がなければ、あとは明日に備えるだけですね」
「うむ。よろしく頼むよ」
「はい」
クコがぱたぱたと部屋から出ていき、壱番隊隊長のミナト、弐番隊隊長の玄内、参番隊隊長のリラを呼びに行った。
通常、士衛組の決定は、司令隊によって行われる。その後、副長のクコから各隊の隊長へ伝達され、隊長が各隊に報せて完了となる。
だが、司令隊の決定を吟味したいときは、各隊の隊長だけを呼んで、司令隊の考えを伝えて隊長たちの意見をうかがう。もっと細かく聞きたいときや全員が集まっている場合はそのまま全員から話を聞くこともあるが、今は隊長たちのみを集めた。
主にクコにより司令隊の作戦が述べられて、意見を聞いた。
「という作戦でいこうと思っています。なにか不足や別案など、ありましたら遠慮なくどうぞ」
「リラからは特にありません。いいと思います」
「僕もないかなァ」
参番隊隊長のリラと壱番隊隊長のミナトが言った。
弐番隊隊長の玄内は、年齢不詳だが五十は過ぎていよう。『万能の天才』とも呼ばれ、実力は世界最強の武力を持つ『四将』とも渡り合えると言われているほどだが、士衛組の中では一歩引いて構えている。先生としてみんなに戦い方や勉学を教えることもあるし、御意見番として方針に意見してくれる。
そんな玄内からは、
「思い出したんだが、もしかしたら九尾ってのは
と言われた。
「黎之国、ですか」
サツキの頭に、世界地図の中国が思い浮かぶ。黎之国は、サツキの世界でいう中国の中でも北部に当たる。三国志演義の時代のように、元は一つだった
「九尾って妖怪自体は
魔法を扱える妖怪は多い。
だが、今回の九尾は二つ以上を扱えることがわかっている。
第一に、催眠系の魔法。
第二に、幻術系の魔法。
「普通、人間で魔法を使えるのは全人類の一割ほど。二つ以上の魔法を使えるのはさらにその中の一割ほど。でしたね」
サツキが前にクコから聞いた話を思い出して相槌を打つ。
「ああ。つまり、人口の一パーセントほどがデュアルやトリプルになるわけだが、そんな芸当ができるのは相当の使い手ばかりだ」
士衛組は『万能の天才』玄内に魔法を与えられたことで、二つ以上の魔法を使う者が大半となっている。最初から二種類のまったく別の魔法を使えたのはナズナくらいである。
「むろん、妖怪も同じで、複数の魔法を扱えるのは生半可な妖怪じゃねえ。おれの直感も要警戒だと告げてる」
「並の妖怪じゃないとは思ってましたが、それほどですか。いやあ、そいつは厄介そうですねえ」
ミナトは口ではそう言ってもあまり危険や焦りは感じた様子でもない。いつもマイペースなミナトらしいといえる。
「先生。今回の九尾は、黎之国の妖怪『
クコが尋ねるが、玄内は首を横に振った。
「いや。違うとも言い切れない。動物が魔獣化するように、黎之国の九尾がモグラの要素を取り込んで危険な妖怪になったとおれは考える。だから、モグラの特徴による攻略のほか、九尾の特徴も交えて念押ししておくか」
「九尾の特徴とは一体なんなのでしょうか?」
リラの質問に、玄内は答える。
「伝説の上でどう倒されたかって話だな。さっきの作戦に、最後の一撃を加えればいい。それってのは――」
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