15 『パフェディライト』

 ミナトの頭上数十センチのところへと優しく投げられたいちごは、落下運動を始めようとする。

 その瞬間、ミナトは包丁をぐっと握って、サッと舞わせた。

 いちごが綺麗に切れる。


「どう? いちご、居合い斬り」

「キャッチ忘れてるっ!」


 慌ててサツキがいちごがを受け止めると、ミナトは苦笑いした。


「あはは。ごめん、切ったあとのこと考えてなかった」

「やると思った」

「さすがサツキ。あ、これ。連携ができてきてるってことかな?」

「違うしそのやり方はダメ。ちゃんと切るんだぞ」

「わかったよ」


 にこやかに答えて、作業に戻るミナト。

 注意しながらも、サツキはいちごの切り口と形を見て感心していた。


 ――綺麗なものだな。


 剣の腕がいいのが、こんなところでもわかる。もっとも、これ以上こんな切り方をさせるつもりもないが。

 サツキが生クリームを混ぜ終えると、ミナトもあと少しで終わりそうだった。


「俺はクッキーを砕くぞ」

「うん」


 ミナトが作業しながら答える。

 バンジョーが作ったというクッキーを軽めに砕いて、ミナトがフルーツを切り終えると、あとは盛り付けになる。


「できたよ、サツキ」

「うむ。俺も準備できた」


 二人の声が聞こえたのか、バンジョーが作っていたものを手にやってきた。持っていたのは、赤い液体だった。


「おっし! んじゃあ、いよいよ最後、盛り付けだな!」

「順番とかあるんですかい? バンジョーさん」

「なっはっは、おいおいミナト、ポパニでもパフェ食っただろ? そのときと前に食ったパフェ、全然違ったんじゃないか?」

「そうでした。順番は決まってないんですね」

「ああ!」


 パフェに厳密な決まりはない。そんな話をバンジョーとミナトがして、サツキはどんな順番で盛り付けるか考えて言った。


「最初はやっぱりクッキーかな? それで、フルーツと生クリームを入れて」

「いいと思う。でも、バンジョーさんはなにを持ってるんです?」


 ミナトが質問するや、バンジョーは得意げに胸を張った。


「いちごのピューレだ。作っといたぜ。これを最初に入れるといいかもな。ゼリーとかも作ってやるか迷ったけど、時間が足りねえしな」

「さすがはバンジョーさん。いいパフェができそうだね、サツキ」

「うむ。ピューレから入れよう」


 バンジョーが作っていた赤い液体は、いちごのピューレだった。

 これを最初に入れて、生クリーム、クッキー、また生クリーム、フルーツと重ねて、アイスを乗っけて、生クリームをふわりと盛り、フルーツで飾ってゆく。

 サツキが「ここのいちごは断面が見えるようにしよう」と言えば、ミナトも「いいねえ。そうするとおいしそうだよ、サツキ」と、二人でああしようこうしようと言いながら、協力し合ってたくさんのパフェを作った。


「これはちょっと失敗したから、俺用だな」


 ふっとサツキが笑ってつぶやき、ミナトがもう一つのパフェを作って、


「やったー! 完成! これで全部だ」

「やったな、ミナト」


 にことミナトが拳を突き出し、サツキも拳をぶつけた。

 バンジョーは楽しそうに言った。


「すげえじゃねえか! おまえら器用だな! 綺麗にできてるぞ!」

「本当に丁寧な仕事でござった」


 フウサイは、主君・サツキの普段は見られない料理に感激していたらしい。

 完成したパフェをトレイに乗せると、サツキはみんなに言った。


「さっそくクコに見せよう」

「そうだね。クコさんも喜んでくれるんじゃないかな」


 ということで、この日この城にいる十九人分のパフェを大広間に運ぶ。これはフウサイも手伝ってくれて、一人五つをトレイに乗せる。

 大広間に戻ってきた。

 扉を開き、四人がトレイに乗せたパフェを見たリディオが目を輝かせた。


「うおお! パフェを作ってくれたのか! ラファエル、おいしそうだぞ」

「だね」


 ラファエルは大人びた顔で短く言った。

 次に、リラがクコを見やり、背中を押した。


「お姉様、またサプライズですね!」

「え、サプライズ?」


 なんのことかわからない鈍感な姉に、リラは説明してあげた。


「サツキ様とミナトさんが、お姉様のお誕生日のお祝いで、最後にパフェを作ってくださったんだと思います」

「そうなのですか!?」


 リラを見て、それからサツキを見る。

 サツキは、料理などほとんどしたこともなかったし、ましてやお菓子作りは初めてだったから、照れたように言った。


「うむ。アキさんとエミさん、レオーネさんとロメオさんを見ていたら、俺もなにかしたいと思って、バンジョーに教わってミナトと作ったんだ」

「僕たちお菓子作りは初めてだったけど、サツキも張り切ってたし、いいパフェができたと思いますよ。少なくとも、素材の味そのままなので食べられないことはないはずです」


 冗談めかしたミナトの言葉にも、クコは喜び勇んでサツキたちの前まで来て、


「サツキ様、ミナトさん。嬉しいです、ありがとうございます! こんな立派なパフェ見たことありません! うれしくて、今すぐお二人を抱きしめちゃいたいくらいです」

「いやあ、これくらいのパフェはよく見かける感じですよ」

「喜んでもらえていたならよかったよ」


 ミナトもサツキも、目を合わせて、


「やったね、サツキ」

「うむ」


 と成功を実感した。

 レオーネは爽やかに笑って、


「オレたちのお株もすっかり奪われたね。でも、二人で協力し合って作ったのがよくわかるよ。二人の色がちゃんと出てる」

「色、ですか」


 よくわからないサツキに、ロメオが言った。


「このパフェには、サツキさんの良さとミナトさんの良さとクコさんへの気持ちがあらわれているということです」


 どこにどう出ているのか、サツキとミナトにはわからない。また二人顔を見合わせて、首をかしげた。

 パフェは好評だった。

 ミナトの言うように、素材の味はそのままだから、間違いないのはそうだろう。それに、重ねた順番も悪くなかったようだし、なによりパフェの醍醐味の見た目がよかった。

 レオーネとロメオのティラミス、アキとエミのプリン、サツキとミナトのパフェ、参番隊のケーキとスイーツがどっさりの誕生日パーティーとなったが、みんなほとんど綺麗に平らげてしまった。

 祝宴は夜遅くまで続き――

 そうして、夜が更けていった。

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