14 『メイキングスイーツ』

 サツキとミナトは、バンジョーに伴われてキッチンにやってきた。

 広々として、快適そうなキッチンである。

 バンジョーは腕まくりした。


「よし。じゃあ、作り方を教えるぞ」

「はい!」


 とミナトがにこやかに答え、


「よろしくお願いします」


 とサツキも気合を入れて言った。


 ――ミナトとの連携強化も目的としてあるけど、やっぱりクコに喜んでもらいたいもんな。頑張るぞ!


 せっかくなら、ミナトとの時間を大事に育み、クコにも日頃の感謝を伝えられて喜んでもらえるようなものを作りたい。

 やる気満々に、サツキは聞いた。


「先に、どんなパフェを作るのか聞いてもいいかね?」

「おう! 好きなもんジャンジャン入れてモリモリってやってみろ! それがサイコーのパフェだぜ」


 ビッと親指を立て、バンジョーはニッと笑って腰に手をやって仁王立ちになる。


「………………」

「………………」

「………………」


 おずおずと、サツキが尋ねる。


「もう、終わり……だろうか」

「ああ! やってみろ! オレも見ててやるからよ!」


 すると、サツキの影からすっと出てくる影があった。黒い忍者衣装、フウサイである。

 フウサイは、常に主君・サツキの護衛のために、サツキの影に隠れている。影の中に潜む忍術、《かげがくれじゅつ》。この技のおかげで、サツキの側にいられるのだ。

 出てくるなり、フウサイは呆れた調子でぼやいた。


「説明が足りないでござる。具体的な手順や注意点など、教えるべきことはいくらでもござろう」

「いきなり出てきたと思ったら、なんだってんだよ」


 バンジョーは、自分ではしっかり教えたつもりなのである。

 ミナトが肩をすくめて、サツキに言った。


「とんでもない先生を選んでしまったねえ」

「それだけ簡単だということだろう。バンジョーは教えるのが得意そうじゃないし、いちいち聞いていけばよさそうだ」

「うん。バンジョーさんは説明ベタでも面倒見はいい人だし、それがいい」


 それから、ミナトはまだ言い合っているバンジョーに向き直り、


「その辺でおしゃべりは仕舞いにしてください、お二方」


 と、にこりと言った。

 幼馴染みのバンジョーとフウサイは口を開けば言い合ってばかりいるが、なんだかんだ仲が良いとサツキは思っている。気兼ねなくフウサイが感情を見せる相手はバンジョーくらいのものだ。けれども、今は料理を始めたい。


「おっと、そうだったぜ!」


 へへっ、とバンジョーは頭をかいた。


「ちゃんと一つ一つの手順を、言葉にするのでござるぞ」


 とフウサイはバンジョーに念を押して、


「サツキ殿、拙者はまた控えているでござる」


 うむ、とサツキがうなずくとフウサイが影に消えた。

 バンジョーは難しそうな困ったような顔をして、


「ええっと、言葉にするのか。んー! 最初から順番に、一つずつ……一つずつ……ああ、そうだ。簡単に言うと、下に砕いたクッキーを入れて、あとは生クリームとフルーツを見栄えするように入れていって、そんで最後にモリモリになんか飾りつけたらオッケーだぜ!」

「おお。わかりやすくなりましたね」


 とミナトがうれしそうに言った。


「そうか!? ならよかったぜ!」


 サツキとフウサイは、声に出さないまでも、


 ――ちゃんと言葉で説明してる……!


 と、心の声は重なった。

 バンジョーが一生懸命に考えて教えてくれるのが、サツキもうれしくなった。


「ありがとう。じゃあ、材料の準備が最初だな。で、クッキーを砕けばいいのか」

「生クリームも先に下ごしらえしないとね」

「うむ。生クリームが先でもいいか」

「サツキ、生クリームってなにをどうすればいいの?」

「確か、生クリームは泡立て器で混ぜればいいんだぞ」

「へえ。泡立てるのか」

「ツノが立つまで、とかよく聞くが、注意点も含めて聞きながらやるか。あと、包丁の持ち方はわかるか?」

「僕、よくわからない」

「だったら、全部一から学んでいくか」

「うん。それからバンジョーさん、材料とかパフェグラスがどこにあるのかも教えてください」

「なっはっは、おまえらなんにも知らねえんだな!」


 嫌味でもなんでもなく、バンジョーはおかしそうに笑った。


「おし! 待ってろ!」


 そう言うと、バンジョーは材料にパフェグラスに包丁とまな板まで用意してくれた。サツキとミナトも並べるのを手伝って、一通りの準備ができた。

 材料は、生クリーム、クッキー、フルーツ、アイスクリーム。フルーツはいちごがメインでオレンジも少し。

 サツキがミナトの服を見て、


「あ、ミナト。袖、縛ったほうがよくないか?」

「そうだねえ」


 懐からヒモを取り出すと、ミナトはその端を口にくわえ、上手に縛っていった。サツキの前でしたこともないが、慣れている手つきだった。

 ここで、グラートがやってきた。

 執事としてこの城のことはなんでもわかっている彼だが、今回はちょっとした差し入れだった。


「間に合ったようですね」


 グラートは、サツキとミナトにエプロンを手渡してくれた。


「どうぞ。お二人にサイズも合うかと思います。お使いください」

「ありがとうございます」

「わざわざすみません。ありがとう存じます」


 さっそく身につけると、グラートが「お似合いですよ」と言ってくれた。


「それでは」


 グラートが下がり、二人は作業に取りかかる。

 サツキは頭の中でやるべきことを組み立てた。


「まずは、二人でフルーツの準備だ。二人でフルーツを洗おう」

「うん」


 フルーツを水洗いしていく。バンジョーは腰に手をやって見守り、しきりにうなずいている。


「なんだ、わかってんじゃねえか」

「洗うくらいはできますぜ、僕でも」


 ミナトが笑って、バンジョーも「そっか!」と言って笑った。

 洗い終えると、サツキはミナトに言った。


「よし。フルーツは洗えたから、俺が切っていくよ。ミナトは、生クリームを頼む」

「おお、来たね生クリーム! 僕、和菓子派だけど生クリームとか洋菓子も好きなんだよね」

「ミナトは甘党だもんな」


 サツキはくすりと笑った。


「生クリームは、泡立て器で作るんだ。ボウルにこれを入れて……。底は氷水で冷やす。うむ。これでかき混ぜてくれ」

「了解。混ぜる速さとか、コツってある?」

「こんな感じでよかったと思う」


 先にサツキが混ぜてみて、バンジョーが「完璧じゃねえか!」と横から合いの手を入れるように驚いた。


「合ってるみたいだ。ミナト、できるか?」

「あいよ。朝飯前さ」


 次に、サツキはさっき洗ったフルーツを切る作業に入る。


「俺はフルーツを切るぞ」


 サツキが切り始めると、最初バンジョーは心配そうに見ていたが、「大丈夫そうだな」とつぶやくと、なにか調理をし出した。

 混ぜるだけのミナトは、混ぜながらじぃっとサツキが切るのを見る。


「ミナトも切るか?」

「うん、切る」

「じゃあ交代だ」


 役割交代する。

 サツキがミナトの後ろから手を押さえるようにして教える。


「包丁はこうやって持つんだからな」

「了解」


 ミナトが切り始めたのを見て、サツキは生クリームのボウルを見る。生クリームをかき混ぜようとしたら、もうほとんどできあがっていた。


 ――さすが、鍛えているだけあってもう混ざってる。


 さっきからいい音を立てていたが、ここまでできているとは思わなかった。


「まあ、俺は軽めに……」


 混ぜようとして、サツキはミナトの手元を見た。ちゃんと丁寧に切っていっている。


「あ、そうだ」

「なんだ?」

「思いついた。サツキ、ちょっと離れてて」


 サツキがミナトから距離を取る。

 すると、ミナトは宙にいちごを投げた。

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