10 『ボンディングタイム』

 九月五日。

 それは、クコの誕生日だった。

 そうれき一五七二年の今日、クコは十四歳になった。

 この世界では、誕生日プレゼントの習慣はないらしい。誕生日はお祝いをする日で、サツキが五月五日に船の中で誕生日を迎えたときも、バンジョーが料理をつくってくれて、船内で士衛組のみんなとアキとエミとミナトがお祝いしてくれたものである。サツキが出会ってから誕生日を迎えた士衛組のみんなのときもそうだった。玄内、ミナト、チナミ、バンジョーのときもパーティーを開いただけでプレゼントは渡していない。

 だから、サツキもプレゼントの用意はない。リラたちみんなと相談して、みんなでお祝いしようということになって、食事やケーキ、飾り付けの準備をしたのである。


「リラが作ってくれた、士衛組のみんなのお人形。いただいてもいいですか? 今日の思い出に、残しておきたいんです」


 プレゼントのつもりじゃなく、ケーキの飾りとしてリラが魔法で創ったものだった。だが、参番隊も断る理由がない。


「もちろんです!」


 リラが答えると、グラートがやってきて言った。


「それでは、ケーキをいただいたら洗ってクリームを落とし、クコさんのお部屋に届けましょう」

「ありがとうございます。グラートさん」

「いえいえ。素敵なお誕生日になって、よかったですね。クコさん」

「はい!」


 クコはニコニコとうなずいた。

 そこで、アキとエミがカメラを構えて撮影した。


「クコちゃん、《笑顔ノ合図ハイチーズ》」

「いいね! いい笑顔だよ!」


 エミの魔法《笑顔ノ合図ハイチーズ》は、人を笑顔にする力がある。クコの笑顔を二人はまたパシャパシャ撮った。


「アキさん、エミさん」


 そして、アキとエミはカメラをパシャリとして、カメラからタスキやハットなどを取り出し、クコを着飾ってゆく。「本日の主役」と描かれたタスキをエミがかけてやり、アキがハットをかぶせる。


「クコちゃん、似合ってるよ!」

「よ! 本日の主役!」

「はい!」


 二人にはやし立てられ、クコは無邪気に返事をする。


「そういえば、アキさんとエミさんはどこに行っていたんですか? 途中、姿が見えない時間がありましたけど」


 サツキが疑問を呈する。ケーキを見ながらクコと思い出話をしていたときであったか、気づいたら二人はいなくなっていた。だが、気づいたときにはまた戻っていたのである。


「もうすぐわかるよ」

「かたまるまで待っててね」


 なんの話か見えず、クコが「かたまる?」と首をひねり、サツキと顔を見合わせた。


「今度はサツキくんに」

「はいっ」


 と、アキとエミがサツキにもタスキをかけてくれた。「リーダー」と描かれている。


「これは……」

「士衛組の局長だからね!」

「アタシ、さっきの話聞いてうれしくなっちゃった」

「うれしい?」


 とサツキが首をかしげると、アキが嬉々として教えてくれる。


「だって、サツキくんが士衛組をとっても大事に思ってるんだってわかったからさ。前はもっと使命感だった気がする」

「士衛組のみんなのことが大好きだって伝わったよ。信頼してるってこともね」


 とエミがウインクした。

 サツキは照れて、頬をかく。


「そ、そうですけど……いなくなっていたと思ってたのに、どこから話を聞いていたんですか?」

「えっと、『おかげで、俺はこの世界が前より身近に思えたし、前より好きになったよ。きっと、この士衛組のみんなといっしょに冒険してきたからそう思えたんだ』ってところ」

「そのあとの、『士衛組のみんなと出会わせてくれて、ありがとう』って言葉もよかったよ。アタシ、幸せな気分っ」


 どうやらちょうどサツキが気持ちを口にしたところを聞かれていたらしい。しかも一言一句覚えている。ちょっとしんみりしている部分を聞かれるよりいいが、


「タイミングが、いいんだか悪いんだか……」


 とサツキは恥ずかしそうに腕組みした。

 ルカはそれを横で眺めながら、


 ――意外と人のことよく見てるのよね、この二人は。タイミングがいいのも相変わらずだけど。


 と微笑む。

 しかも的を射ている。いつもとんちんかんなことを言ってふわふわしているようで、物事の本質を見抜いていることがしばしばあるのだ。

 アキとエミはサツキとクコに向かって、


「ボクたち、士衛組のこと応援してるからね」

「それから、アタシたちともたくさん思い出を作っていこーう」

「ありがとうございます! 頑張らせていただきます! 思い出も、いっしょに作っていけるとうれしいです」


 とクコが答え、サツキが微笑した。

 ヴァレンは、やや離れた場所からサツキたちを見ていた。


 ――士衛組もいろいろあったみたいだけど、それら全部を乗り越えて、やっと組織としてまとまってきたようね。目的を同じくするだけの集団にはない、心のつながりと信頼関係ができている。これからが楽しみな組織だわ、士衛組。


 こうしたヴァレンの観測もまた、よく本質を捉えていた。サツキの気持ちを通して、士衛組が強い絆と結束力を持った一つのチームになってきている。サツキたち士衛組が見据える最終目標に向け、冒険は後半戦に入り、ここから組織として大きく躍進しようとしているのだ。

 実際に、ヴァレンたち『ASTRAアストラ』が士衛組と同盟関係になったとイストリア王国では話題になっているし、知名度は上がってゆくことだろう。

 ただ、『ASTRAアストラ』は秘密組織であり、世界中に四千人以上の仲間を持つスパイ組織とも言われている。ここマノーラでは街の治安維持を助ける正義の味方の側面が強く、最高幹部のレオーネとロメオがコロッセオのバトルマスターということで人気がある反面、マフィアと縄張りを分け合うアウトローであることも事実として知られ、こうした様々な顔を持つゆえに『ASTRAアストラ』は盗賊団であるとも噂される。義賊的な活動を時折するため、それも完全に間違いとは言えないが。

 いずれにしても、士衛組への悪喧伝をブロッキニオ大臣派が仕掛けようと、人気が士衛組を守ってくれることも出てくると思われる。


 ――さて。そろそろ、アタシからもクコちゃんたちに一つサプライズをしてあげようかしら。

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