2 『モクコンバット』

 サツキとミナトがロマンスジーノ城に戻ると、執事のグラートが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。サツキさん、ミナトさん」

「ただいま帰りました」

「グラートさん。お出迎えありがとうございます」


 さっそく、ミナトは照れたように笑って申し出る。


「いきなりで悪いんですが、お腹が空いてしまって。なにかいただけませんか」

「ご夕食まではもう少し時間がかかってしまいますので、マリトッツォはいかがですか? 今朝の余りですが」

「またあれ食べていいんですか。いただきます」


 ミナトが食べるならと、サツキもいっしょになって、朝食のマリトッツォの残りで小腹を満たした。


「腹が減っては戦はできぬ。よし、これなら剣を振れる」

「だな」


 そのあと、二人は修業をつけてもらうためにレオーネとロメオを探した。

 円形闘技場コロッセオを紹介してくれた二人であり、コロッセオのバトルマスターでもある二人だ。

 二人は広間にいるらしい。

 グラートが教えてくれたので、広間に入ると。

 レオーネから声がかかる。


「おかえり。コロッセオは楽しめたかい?」

「はい。驚きましたけど。まさかお二人がバトルマスターだったなんて」


 最初にサツキが答える。

 レオーネはあまり困った風でもなく苦笑する。


「別に驚かせるつもりはなかったんだ。自分がバトルマスターだなんて紹介しても、得意になってるみたいで格好悪いだろう?」


 ロメオは柔らかく言った。


「おかえりなさい。さっそくグローブも役に立ったようでよかったです」

「ありがとうございました。おかげさまで、戦闘の幅が広がりそうです」


 ここはサツキも素直に喜びと感謝を告げた。

 出かける前にロメオからもらったグローブは魔法道具になっている。《打ち消す手套マジックグローブ》という。相手の魔法効果を打ち消すロメオの拳《打ち消す拳キラーバレット》と同じ、他者の魔法を無効化する効果を持つ。

 ただ使っても強い上に、ロメオはサツキに、わざわざ使い方も見せてくれた。バトル中、自身の拳同士をぶつけ合って、他者にかけられた重力系の魔法を解除してみせたのである。

 ほかにもロメオなりの使い方があるかもしれないが、サツキもすでにいくつも使い方を考えていた。

 今後、このグローブは強い味方になってくれそうだ。

 しかしミナトは小さく笑って、


「いやあ、パフォーマンスか実験か。おもしろかったが、お二人の本気が見たい僕にはちょっと物足りなかったなァ」

「ははっ。キミならそう言うだろうと思ってたよ。修業をするなら付き合おう。どうかな?」


 レオーネの申し出に、初めてミナトは目をきらりとさせた。


「それを頼みに来たんです。よろしくお願いします」


 うれしそうなミナトを見て、サツキとロメオは顔を見合わせて微笑んだ。




 場所は、城壁に囲まれた庭ではなく、玄内の別荘の地下にある《げんくうかん》である。

 ここには、馬車の中を通って行くことができる。

 バンジョーの愛馬・スペシャルが引く馬車の中には、玄内がルカに与えた魔法《拡張扉サイドルーム》によって取りつけられたドアノブがあり、これをひねることで移動が可能となる。簡易的なワープ装置といえる。

 士衛組しか通ったことのなかったドアを抜け、レオーネとロメオを玄内の別荘へと案内する。


「すごいね。これは」

「さすがは『万能の天才』。こんなことまでできるとは」


 レオーネとロメオは感心しきりだった。

 別荘を通りながら、「湿度や空気感からして、晴和王国かな。いいね」とレオーネはひとりごつ。

 地下の階段を降りて、《無限空間》のドアを開けた。

 最初は小さな城の中で、そこから外に出ると。


「真っ白だ」


 レオーネは微笑んだ。


「どこまでも続いてるみたいですね」


 とロメオが口にしたので、サツキは説明する。


「名前の通り、どこまでも無限に広がっている真っ白の空間になります」


 ちなみに、とサツキが振り返って、レオーネとロメオもそれに倣う。


「このお城の中に出入口があるので、あまりお城から離れないでくださいね」

「なにか書いてあるね。『ふううんげんないじょう』か」


 のぼりに書かれた文字を読み上げるレオーネ。

 ロメオは遠慮がちに、


「本当に、自由に使ってもよろしいのですか?」

「はい。先生も好きに使っていいと言っていました」


 ちゃんとサツキは許可も取ってある。士衛組以外の人間が使うのは初めてだが、レオーネとロメオたち『ASTRAアストラ』も同盟関係といってよく、仲間も同然になったのだ。特に、ロマンスジーノ城で暮らす七人は今後とも密接に関わる間柄になるのである。

 ミナトは飄々と言った。


「いつまで鑑賞していても構いませんが、僕は準備万端です。いつでもお声がけください」

「そうだね。やろうか」


 とレオーネが答えて、サツキとミナトに聞いた。


「で、プログラムだけど、模擬戦闘でいいかな?」

「模擬戦闘ですか」

「ワタシとレオーネはダブルバトルに慣れているので、様子を見ながら攻撃します。サツキさんとミナトさんは自由に攻撃してきて構いません」


 ロメオの補足を受けて、ミナトがサツキに視線を切る。


「いいよね?」

「うむ」


 二人共、異存などない。そろって「よろしくお願いします」と頭を下げた。ロメオも小さく会釈を返して、「こちらこそよろしくお願いします」と返し、レオーネも「よろしくね」と爽やかに微笑む。

 レオーネがカードの山札から七枚を引いて、


「いつでもどうぞ」


 と合図を送った。

 ロメオは静かに構えている。いや、両手を下げ、足を肩幅に開くだけである。備えているといったほうがいい。

 サツキはもう戦略を立てていた。


「ミナト。まずは二人でロメオさんにアタック。レオーネさんからの攻撃は各自で対処」

「了解」


 小さな苦笑を浮かべ、ロメオがレオーネに言った。


「ミナトさん相手に二対一は厳しい。しかも相方はサツキさんだ」

「だな。手加減する余裕はない。オレに任せてくれ」


 レオーネも笑って、魔法を一枚使おうと、カードを一枚右手に取った。

 そのとき、目の前にミナトが現れた。


「おっと」

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