61 『トライアンフアドマイア』

 試合終了と同時に。

 ロメオは穴の中に飛び込むと、《打ち消す拳キラーバレット》で魔法効果を打ち消して、デメトリオを右肩に担ぎ、舞台上に戻ってきた。

 みんなが注目する中、『司会者』クロノがそろそろとデメトリオに近づいてゆく。


「これは、意識がありません。ロメオ選手の紳士な行動で医療班も治療が楽になりました。ありがとうございます、ロメオ選手」


「いいえ」とロメオは応じていた。

 サツキは会場を見渡して、


「みんな、結構満足してるみたいだ」

「あれ? サツキくんは不満?」


 シンジに聞かれて、サツキは首を横に振る。


「いいえ。ただ、あまりに一方的だったのかなと思ったので」

「二人共、いつも圧勝だからね。みんなはレオーネさんの多彩な魔法とロメオさんの拳が見たいのさ。その点では、今日はおもしろかったよ! なんていっても、希少な飛行魔法まで披露してくれたんだからね」


 サツキはミナトに水を向ける。


「ミナトはどうだった?」

「いやあ、シングルバトルよりこっちのほうが物足りないや」


 シンジは疑うように、


「なに言ってんだよ、レオーネさんのすごい魔法いっぱい見られただろ?」

「せめて、レオーネさん一人で戦ってくれたらなあ」

「確かに、それならもう少しいい勝負になったかもな」


 と、サツキは同意する。


「あの二人がもうちょっと工夫すればね。それで、レオーネさんが肩にかけてる上着を落とさせるくらいできたら、おもしかったんだけどねえ」


 そのミナトの言葉には、シンジも「な、なるほど」と納得して、


「レオーネさんはあの上着を肩から落としたことがないんだ。すっげえよな!」


 と楽しそうに話す。


「でも、勉強になった。二人で戦うってことがちょっとわかったよ」

「うむ。俺もだ」


 舞台では、『司会者』クロノが勝敗の結果を告げていた。


「それでは改めまして、今回のバトルマスターマッチ。ダブルバトル部門も、レオーネ選手&ロメオ選手の防衛です! 二人の不敗神話を崩すことはできませんでした! 次にこのゴールデンコンビに挑むのはだれになるのでしょうか! 乞うご期待ください!」


 続けて、舞台上にやってきた係の人間が、お金の額が書かれた大きなプレートをクロノに手渡す。

 クロノはそのプレートをレオーネとロメオに差し出した。


「こちらがバトルマスターマッチ、シングルバトル部門の賞金一○○○万両と、ダブルバトル部門の賞金三○○○万両です!」


 レオーネが二枚のプレートを受け取った。

 続いて、係の人間が舞台に大きなベルトを運んで来ると、クロノはそれを受け取り、ロメオに差し出す。


「そして、バトルマスターの証『ウイナーベルト』もシングルバトル部門とダブルバトル部門の二つをお渡しします!」


 ロメオが受け取ると、二人は手にした物をそれぞれ高く掲げてみせた。

 会場が沸く。

 本日のフィナーレということもあって、紙吹雪も舞っていた。風船も空に舞い上がり、歓声が会場を震わせる。

 最後に、ロメオが慇懃にお礼を述べる。


「みなさん、ありがとうございました」

「グラッチェ」


 レオーネは爽やかにそう言うと、ロメオの肩に手を置いて、一瞬だけサツキとミナトに流し目を送った。


「《多次元管理者クロスジョーカー》。では、またお会いしましょう。《出没自在ワールドトリップ》、ロマンスジーノ城」


 バトルマスターの二人は、さっとその場から消えてしまった。

 取り残されたクロノは、一拍遅れて水球貝を握る。


「最後まで鮮やかでした! ありがとうございました、レオーネ選手! ありがとうございました、ロメオ選手! ご来場のみなさんもありがとうございました! 主役も帰られましたし、みなさんもお気をつけて退場なさってください! 司会はこのワタシ保見黒野フォーミ・クロノが務めさせていただきました! それではまた次回!」


 会場からは観客たちがぞろぞろと帰ってゆく。

 まだ座っているサツキとミナトとシンジは、三人で話していた。


「サツキくんとミナトくんは、次はいつ参加するの?」

「明日です」

「え、明日!?」


 とシンジは驚く。

 ミナトが聞き返した。


「シンジさんはどうなんです?」

「普段は連日の参加はしないんだけど、二人が来るなら明日は参加しようかな

「頑張りましょう」

「うん。賞金は、一勝から五勝までは一万両。二人はまだ変わらないけど、きっとすぐかなりの額をもらえるようになるはずだよ」


 コロッセオの受付をしていたお姉さんも、賞金額の説明をしてくれた。貼ってある紙にいくらと書かれていたが、覚えていなかったので、改めて最初の五勝まででもそんなにもらえるのかと思った。

 その後、会場の人もまばらになってきたところでコロッセオを出て、シンジとはそこで別れた。


「また明日」


 気のいいシンジは手を振って駆けてゆく。

 サツキはミナトに言った。


「さて、帰るか」

「そうだね。まだ夕陽も明るいけれど、もう五時になる」


 二人、歩き出すと。

 鐘の音が鳴った。

 イストリア王国のマノーラには大聖堂がいくつもあるから、時間になるとノスタルジーな鐘の音が町中に響くのである。ルーン地方にやってきたという感じがする。サツキの世界のヨーロッパの雰囲気だ。

 ゴーン、ゴーン、と鳴る鐘の音を聞いて、サツキとミナトは帰路についた。


「ミナト。帰ったら」

「うん。レオーネさんとロメオさんに、修業をつけてもらおう」

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