60 『オーバーウェルム』

 レオーネとロメオ、二人のやり取りを見て、『司会者』クロノは興奮したように言った。


「ロメオ選手、これは新しい魔法を披露してくれたー! どうやらレオーネ選手のカードをコントロールするもののようです! 今日は二人同時に新しい戦いを見せてくれている! コンビネーションに磨きがかかっています! んん? いや、待ってください! レオーネ選手の手札の枚数が、四、五、六……七! 七枚だ! 七枚に増えている! レオーネ選手はこの試合から、手札が七枚になっていたようです! いつの間にパワーアップしていたんだ! レオーネ選手のスキルアップに、ファンも大歓喜だー!」


 シンジは感嘆して、


「うおぉ! レオーネさんの手札、マジで増えてる! 五枚でさえあんなに強かったのに、また強くなるじゃん! しかも、ロメオさんも新しい技使ってるよ。ロメオさん、あんなのできるのか! しかもマッシモさんと戦いながらだぜ? シングルバトルのときと動きが全然違うのも、ロメオさんの戦い方のおもしろさだよな」

「やっぱり、ダブルバトルでは戦い方が変わるんだ。ミナト、よく見ておこう」

「サツキはのんきだなァ。僕なんか最初からしっかり見てるよ」


 ゆるやかに微笑むミナトに、サツキも「だよな」と笑った。

 話しているうちにも、上空にいたレオーネがカードを使う。


「下にばかり気を取られていていいのかい? ここからはオレのターンだ。《愛ノ爆弾パーチェボンバ》」


 レオーネの手に、デメトリオが持っているのと同じ爆弾が握られる。


「な、おれの魔法……」

「盗ませてもらったよ」

「《盗賊遊戯シーフデュエリスト》、か……」


 それこそがレオーネの魔法であり、相手の魔法を盗むことができる。魔法の原理を理解すれば、その原理を盗んだことになるだけだから、相手は魔法が使えなくなんてことはない。レオーネが口にしなければ、盗まれたことにも気づかず、今まで通りに使い続けることだろう。

 観戦していたサツキは、ちょっと驚いた。


 ――確か、レオーネさんの魔法は原理を理解する必要がある。魔法情報を教えてもらってもいいとは言っていたが、あの人が多彩な魔法を使えるその真髄は、洞察力と推理力にあったんだ。それによって、魔法を盗み、活用できる。普通は魔法についての情報は伏せるものだが、それさえ導き出した上で、有効な使い方を考え出す想像力も持ち合わせている。俺には、洞察力も、推理力も、想像力も、まだ足りない。《愛ノ爆弾パーチェボンバ》の原理が、まだ読み切れない。俺が磨くべき力は、そこにもあったのか。


 自分に足りないものに気づかされる。やはり観戦は勉強になる。もっとレオーネとロメオの試合が観たい。

 しかし、もう終わりだ。

 いつの間に盗まれたのか判然としないデメトリオは、驚きのあまり手にしていた爆弾をこぼし、舞台へ落としてしまった。


「あっ……特大が……よっ、避けなさい、マッシモ!」


「これは痛恨のミスー! デメトリオ選手、爆弾をマッシモ選手に向かって落としてしまいました! まっすぐマッシモ選手へと向かっていき、上を見て、気づいたときにはドンピシャリだ! マッシモ選手、身体が動かなァーい!」


「しまったっ」


 悔いるマッシモだが、ロメオは動き出している。


「ロメオ選手、すかさず背後に回り込み、左手の掌底だー! すっ、すっごーい! ものすごい威力です! 《愛ノ爆弾パーチェボンバ》をくらって重くなったマッシモ選手! 体重も元の十倍はあろうかと思われるが、軽々場外に吹き飛ばされてしまったー! 魔法効果を打ち消してもないのに、重たいマッシモ選手を観客席の壁にぶつけて穴を開けてしまうなんて、ロメオ選手のパワーは計り知れません!」


 仮に、ロメオが《打ち消す拳キラーバレット》によってマッシモにかかった《愛ノ爆弾パーチェボンバ》の魔法効果を打ち消していれば、マッシモは通常の何倍という重量がなくなり、吹き飛ばしやすくなる。けれども、その重さのまま、パワーだけで吹き飛ばした。だから壁にぶつかった衝撃も大きかった。

 ロメオはマッシモから視線を外した。上を見る。


「あとは頼んだ」

「任せてくれ」


 レオーネは手にしたカードを使う。


「《スケールステッキ》」


 カードがステッキになり、それを爆弾にトンと当てる。

 すると、爆弾が何十倍という大きさになった。


「このステッキは、叩いた物の大きさを自在に変化できる。思ったままのサイズに変換可能で、もう一度叩くと元のサイズに戻る。拡大率に制限はないが、大きさそのものには限度もある。縮小率も制限はないが、術者の目に見えるサイズまでしか小さくできない。また、重さは体積に比例する。そして、オレはこれを元の大きさには戻さない」


 ステッキは消えて、レオーネは爆弾を手にデメトリオを見下ろす。


「あんなのをくらったら、おれは……!」


 デメトリオがメガネの下の目をむいた。


「楽しませてくれた礼は、先に言っておこう。グラッチェ」


 レオーネが柔らかい手首の動きスナップで爆弾を軽く放るように投げると、自身の運動能力では避けようもないデメトリオはなにもできずに直撃した。


「せっかく五十勝したのに、また振り出しに……うわぁアア!」


 爆弾が「スパーン!」と派手に爆破する。


「デメトリオ選手に的中ー! 爆発ゥゥゥゥー! 空間に刺さった釘からも、落ちたー! 舞台に隕石が落下したかのような衝撃が会場に響きます!」


 重量に耐えられなくなり釘からも落下したデメトリオは、舞台の石畳に突っ込んだ。実況通り、隕石が落下したのように大きな穴を開け、砕けた石畳の破片が飛び散る。衝撃も大きく、その音も激しかった。


「決まったー! 最後はド派手に締めくくりました! レオーネ選手とロメオ選手の大・大・大勝利だァァァァァァー!」

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