51 『カンピオーネアリア』

 ガンドルフォが拳をきつく握りしめ、ロメオも右の拳を強く握った。


「いくぞ!」


 先に飛び出したのは、『戦闘狂キラーマシーン』ガンドルフォ。

 両者、三度目の激しい攻防戦を繰り広げる。

 ナックルダスターにしたガンドルフォの拳は重く、ロメオの動きは攻撃を捌くためのスピードがやや落ちたような印象になる。

 突きと蹴り、両者の攻撃が乱れ、ガンドルフォがロメオにナックルダスターで殴りかかった。

 顔面めがけた拳が、ロメオに近づく。


「ひひっ」


 ガンドルフォの右腕のナックルダスターをまとったその拳が、飛んだ。


 ――ロケットパンチ! このときのために、五十勝する中、一度も使わなかった。ロメオ、おまえを倒すために! そして、オレがバトルマスターとして歴史に名を刻むために!


 別のポイントの攻撃を捌いたあとでも間に合うと思っていたところで、思わぬ飛び道具が打ち込まれ、ロメオは対応が遅れた。


 ――見事。


 しかし、ロメオは一切取り乱すことなく、冷静にロケットパンチを右の拳で殴り返した。


「があああああああああ!」


 叫び声が舞台上に響いた。


「最後の最後に飛び道具、ロケットパンチの発動! ロメオ選手は体勢を沈めそれを迎え撃ちました! ガンドルフォ選手の左の拳を防御することなく受けるかっこうになりましたが、右の拳はロケットパンチを突き破り、『戦闘狂キラーマシーン』ガンドルフォ選手を射抜きました! ロケットパンチは粉々! ものすごい威力です! ロメオ選手の拳が顔面に入ったガンドルフォ選手は、吹き飛ばされて倒れてしまいました。これは、気絶しています。よって、ロメオ選手の勝利だー!」


「ワァーッ!」と歓声が上がる。

 倒れたガンドルフォは数メートル吹き飛ばされて伸びてしまっており、医療班が運んでいる。

 そんなガンドルフォに、ロメオは「ありがとうございました」と小さく礼を言った。


「バトルマスターの座をかけた特別マッチ、そのシングルバトル部門は、ロメオ選手が死守しました! みなさん、力を出し尽くした両者に熱い声援を!」


 クロノの声に会場はお祭りのようになった。

 シンジもサツキの横で立ち上がり、大声での声援を送っていた。


「ロメオさーん! かっこよかったですー!」


 サツキとミナトを見て、


「どうやったらあそこまで強くなれるんだろうね!」


 と目を輝かせて言った。

 サツキは他の観客と同じように拍手していた手を止めて答える。


「やっぱり地道な修業があってこそだと思います」

「だよな! ボクも頑張らないと!」


 やる気をたぎらせて、「ロメオさーん」とまた声援を送っていた。

 サツキはミナトに聞く。


「どうだった?」

「もうちょっと本気のロメオさんの試合が観たかったなァ」

「物足りなかったか?」

「サツキもそう思ってるくせに」


 おかしそうに笑うミナトに、シンジが言った。


「だったら問題ないさ! このあと、メインイベントがあるんだから!」

「でも、その前にダブルバトル部門のランダムマッチがありますよね。俺とミナトはその三戦目にも出るんです」

「そっか。じゃあサツキくんとミナトくんの試合も楽しみだな」


 シンジがニッと笑って、サツキがミナトに言った。


「さて。そういうわけだし、俺たちは控え室だ」

「了解」


 とミナトが立ち上がった。




 舞台では、ロメオが階段を降りて行ったところだった。

 そこに、レオーネがやってきた。


「お疲れ。いい試合だったよ」

「ああ。ガンドルフォさんは強かった」

「結構やるね。ロメオがここまで思い切り殴られるなんて、久々じゃないかい?」

「そうかもしれない」

「この試合に備えてロケットパンチを隠し持っていたのは素晴らしいと認めるが――それでも、もう少しの工夫が欲しかった。次の挑戦を楽しみに待とう」


 レオーネがそうまとめると、デッキの山札からカードを引き、それを使用した。人差し指の先にカードが直立すると、ポッと燃えた。マッチのように指先で燃え続ける。


「《癒やしの芳香火キュアアロマ》。この火は、自己治癒を促す香りを出す」


 優しい香りがレオーネの指先の炎の周囲に漂う。『司会者』クロノの元には届かない程度で、ロメオはその香りを吸い込み、


「助かる。おかげで、体力が回復した気がする」


 と小さく微笑む。


「気がするんじゃなくて、回復してるのさ。即効性もあるが、このあとのランダムマッチ三戦の間で、完治すると思う。その証拠に、頬の切り傷もほとんど治ってるよ」


 火が消えて、二人は場内のベンチに座った。

 もはやレオーネとロメオの専用席になっており、そろって次の試合観戦を楽しみに待つ。

 ロメオがつぶやく。


「サツキさんとミナトさんは、ダブルバトル部門にもエントリーしてたのか」

「らしいね。どんな試合をするのか、楽しみだ」


 レオーネは足を組み、穏やかに微笑んだ。

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