52 『ダブルバトルビギナー』
円形闘技場コロッセオでは、本日のメインイベントの一つ目、シングルバトル部門の特別マッチが終わった。
だが、ダブルバトル部門の特別マッチも残っている。
会場は賑やかだが、今は本日最後のメインイベントに備えて、休憩中の空気もあった。
さらに、一戦目は十分とかからなかったが、二戦目は二十分近くにも及ぶ試合となり、観客たちは少し退屈したらしい。
ダブルバトル部門のランダムマッチ三戦目。
サツキとミナトが登場すると、会場は再び盛り上がってきた。
『司会者』クロノは、水球貝を握りしめ、熱い声援をサツキとミナトに送った。
「やってきました! 本日初参戦となったサツキ選手とミナト選手、二人がダブルバトル部門にも殴り込みだー!」
バトルマスター二人の友人だということは、さっきの試合で知られるところとなった。
だから、否が応でも期待が高まっている。
「もうみなさんご存知、サツキ選手とミナト選手はバトルマスターのレオーネさんとロメオさんのご友人です! 先程の試合では、二人共、未来を予感させる強さを見せてくれました! ダブルバトルとなる今回、二人のコンビネーションはどうなるのか! そして、まだその全貌もわからない二人の魔法とはいったい!? この試合で明らかになるのでしょうか! 楽しみで震えが止まりません!」
二人そろって舞台に上がると、ミナトがサツキに言った。
「さっきより注目されてるねえ」
「当然、そうなるだろう」
「作戦、立ててないね」
「仕方ないさ。ダブルバトルの戦い方もわからないし、まずはそれぞれが一対一で行くだけじゃないか?」
「うん。見本もないし、それでいこう」
そんな相談はクロノには聞こえておらず、クロノの視線は舞台にのぼってくるもう一組の選手たちに注がれていた。
実況も始まっている。
「対するは、ここまで十五勝三敗、
ミナトが苦笑を浮かべ、納得する。
「そりゃあそうだ」
「分析しないとだな」
サツキの言葉に、ミナトが「うん」とうなずく。
舞台にのぼった対戦相手の二人、フリオとピノは、余裕を感じさせる顔で声をかけてきた。
「オレが
フリオは、左手に兜を持っている。顔をすべて覆うタイプのもので、グレートヘルムと呼ばれる。
――あれは、だいぶ視野が狭くなりそうだ。
グレートヘルムだけでなく、まとっている鎧もしっかりしている。接近戦が得意なスタイルだとわかる。ただ、背中の大きな剣が気になる。
「今度はボクだな。ボクは
ピノは、フリオより一つ年下の十七歳。背はフリオよりわずかに低い。
大剣を持つフリオに対して、大きな盾を持っている。つまり、攻撃重視なのがフリオ、防御重視なのがピノになる。
盾は蜘蛛の巣のような模様が施され、剣はフリオのものに比べると小さい。だが、一般的な剣の大きさといえる。
グレートヘルムの相方に比べ、帽子をかぶり、鎧もまとっていない。二人共前線で戦うタイプの装備だが、ピノは防御重視にしては盾以外が軽装に思われる。
「どうやらフリオの剣と兜が気になってるようだな」
「あなたの盾もです」
サツキが答えると、ピノはクッと笑って目を閉じた。
「わかってると思うが、簡単には教えてやれない。とはいえ、ビギナーのキミたちにヒントくらいはやろう」
「ヒント……」
「武器そのものは魔法道具ではない。だが、ボクの『アラネアの盾』は魔法の発動には欠かせないし、フリオのグレートヘルムも魔法を発動させるために用いる」
朗々と、しかし冷静にピノが明かした。
「いくら魔法がヘルムにあるからといって、オレの剣には気をつけろよ。こいつは『
とフリオは剣を抜いて、
「持つ者に災いが起こると言われている大剣だ。剣には逸話があり、持っていた人間が大いなる栄光を手に入れた代わりに災いが起こったという。栄光を手にする剣であり、同時に災いも招くとされているんだ。まあ、剣の名前の由来でしかなく、持っていたからそうなるという呪いや魔法などはない。それでも、オレをバトルマスターという大いなる栄光の座に座らせる剣であることに、違いはないがな」
「なるほど。そうですか」
確かに、魔法陣も描かれていない。サツキは、戦闘前に《
「すごいなァ。いい剣ですね。ぜひともやりたい。サツキ、僕がフリオさんとやるよ。いいよね?」
「うむ。俺はピノさんだな」
サツキとミナトが話すを聞くと、フリオとピノは一瞬きょとんとして、同時に笑い出した。
なにが起きたのかわからず、サツキとミナトは二人を見やる。
フリオは腹を抱えて、
「おいおい、ピノ、聞いたかよ」
「ああ。マジらしいぞ。あの顔」
とピノがサツキとミナトの顔を見てはケタケタ笑った。
ミナトも不思議に思って、サツキの顔を覗き込む。
「いつもと同じじゃないか。あはは」
「おまえも笑われてるんだよ!」
と、サツキとフリオとピノが同時につっこむ。
もっとも、大声でのつっこみなのはフリオとピノだけで、サツキはちょっと呆れ気味である。
サツキは、どうして彼らがあんなに笑うのか、考えていた。
だが、試合開始前からいつまでもおしゃべりさせてもらえるわけもなく、『司会者』クロノの進行に戻った。
「若き魔法戦士たち同士、フリオ選手とピノ選手は自らの情報をルーキーのサツキ選手とミナト選手に与えるフェアな精神を見せてくれました。ありがとうございます。しかし、みんな仲良く楽しい時間もここまで。そろそろ試合の時間です! お互い、準備はいいですかー?」
高らかに問いかけられ、二組はうなずいてみせた。
「ボクらはいいですよ。な、フリオ」
「おう。シングルバトルだけにしとけばよかったって後悔することになるぜ、おまえら」
フリオとピノに続けて、ミナトもにこやかに答える。
「大丈夫です」
「よろしくお願いします」
クロノはみなの返事を聞いて、実況を開始した。
「それでは、四人の魔法戦士たちの戦いが始まります! ルーキー二人が連勝街道まっしぐらのバディにどんなコンビネーションを見せてくれるのか、期待しましょう! レディ、ファイト!」
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