48 『バトルマスターアライバル』

「アージル選手、ここまでビギナーズラックで勝利数を稼いできたが、これであとがなくなってしまいました。アージル選手は係の者が控え室に連れて行ってベッドに寝かせるので、みなさんご安心を。それよりも、ミナト選手はものすごい強さでした! 魔法を使うこともなく圧倒。司会歴二十年以上のワタシが見たところだと、もしかしたらもしかして、近いうちにバトルマスターに挑戦する日が来るのではないでしょうか。魔法戦士の戦いは魔法次第でどのようにも変わりますが、期待の新星がもう一人、登場しました!」


 嬉々とクロノが演説するのを、会場の観衆は楽しそうに聞いている様子だった。

 ミナトとしては物足りなかったが、みんなが楽しんでいるならいいか、と思い直す。


「本日のシングルバトル部門におけるランダムマッチは以上になります! みなさん、ご参加ありがとうございました!」


 終了宣言が出たのに、会場から帰ろうとする客は、一人もいなかった。


「さて! ここからは特別マッチです!」


 特別マッチは、バトルマスターと挑戦者による試合だ。

 挑戦者は普通、サツキとミナトが戦ったようなランダムマッチを、勝率五割を切らずに五十勝達成しなければならない。

 難易度はそれほど厳しくはないだろう。

 それも、この国最大の興業としても賑わうコロッセオで、バトルマスターの試合を観たい人が多いからだと思われる。

 そして本日、バトルマスターに挑戦する特別マッチが、シングルバトル部門とダブルバトル部門、双方で行われる。

 二つの特別マッチを目当てに集まった観客がほとんどだから、帰る者がいるはずもなかった。

 ミナトの試合のあと、シングルバトル部門の特別マッチ、その後、ダブルバトル部門のランダムマッチが三戦あり、うち三戦目はサツキとミナトのバディ、最後にバトルマスターによる特別マッチが予定されている。

 バトルマスターの試合はサツキと一階観客席で観戦予定だから、次の試合まで腰を落ち着けるために、ミナトは舞台から戻る。

 舞台から降りて、通路へ行こうするミナトだったが、クロノの声に足を止めて振り返る。


「しかも! 本日は、シングルバトル部門とダブルバトル部門、どちらにもバトルマスターへの挑戦者がやってきています! みなさん、準備はいいですかー?」


 すごい熱狂を聞いて、ミナトは通路の前で立ち止まって会場を見回す。


 ――そっか。戻りがてら、バトルマスターを見られるんだ。楽しみだなァ。どんな人たちなんだろう。


 すれ違うのを楽しみに、通路に歩き出したところで、こちらに向かって歩いて来ている二人の人間がいることに気づく。


 ――来た。


 二人を認知した途端、ミナトの足が止まった。微笑みも消えて、目が丸くなる。


 ――え? まさか、バトルマスターって……。


 現れたのは、ミナトの知っている二人だった。

 ミナトはだれがバトルマスターなのか、予想などしなかった。どうせ知らない人間だろうと思っていたからである。

 しかし、二人は知り合いであり、意外な人物だった。

 二人のうち、片方がシングルバトル部門でもバトルマスターの称号を持つ二冠で、もう一方がダブルバトル部門専門という話だ。

 このあと、シングルバトル部門の特別マッチが行われるが、ダブルバトル部門の特別マッチはサツキとミナトのバディの試合を含めた三戦のあとだ。しかし、登壇するのは二人同時であるらしい。

 バトルマスター二人が優雅に手を振りながら登場すると、舞台に上がる前から大歓声が響き渡った。会場の熱気が、この日最大級になる。

 マノーラ、引いてはイストリア王国最大の興業であるコロッセオ。その中でも一番強いバトルマスター――さながら二人は、イストリア王国最高峰のスターという雰囲気だった。世界でも最高クラスの人気者・ヴァレンを除けば、彼らは間違いなくこの大都市で一番のスターだろう。

 クロノが二人の姿を見て、最高の笑顔を見せる。


「やってまいりました! 実に二週間ぶりの挑戦者が現れたおかげで、またお二人を迎えられました! ようこそお越しくださいました! 会場のボルテージは、たった今、本日最高になりました! 円形闘技場コロッセオのバトルマスター、レオーネさんとロメオさんの登場でーす!」

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