43 『グローブギフト』
ミナトが大広間にやってくると、みんながそろっていた。
いないのは、サツキとヒナくらいのものである。
そのサツキも、ミナト到着の一分後にはやってきた。
「やあ。サツキ、ヒナ。どうだった?」
「どうってこともないわよ」
機嫌の良さそうなヒナを見るに、なにも問題はなかったらしい。
サツキも言うには。
「明日も
「そっか。よかったね。でもサツキ、午後は僕らも修業しよう」
「うむ。もちろん」
「ごはんの前にフウサイさんと本気で修業して、剣も冴えて感覚も鋭くなってるんだ。こんなときはもっと鍛えたくなる」
「あんたほんと剣が好きよね」
ヒナが口を挟むが、ミナトは当然のようにうなずく。
「そりゃあ剣士だからねえ」
「午前中は楽しんだ分、俺も午後は頑張らないとだしな。やるか」
「うん」
と、ミナトはうれしそうに目を輝かせた。
ヒナはそんな会話を横で聞いて、
――サツキ、楽しかったんだ……。こ、これは、また、誘ってあげないと、かえって悪いわね。仕方がないから、また誘ってあげるだけなんだからね! 明日はどこ行くか、考えておこうかな。
父親の元を訪れたあとには、またサツキと出かけようとヒナは決めた。今夜にでも、デートの計画を立てるのがよさそうだ。
じっと見られていたことに気づいてサツキがヒナを振り返ると、
「……っ」
パッとヒナは顔を背けるのだった。
サツキにはなんのことだったのかわからないが、ミナトが「お昼ごはんもしっかり食べないとねえ」と言って、サツキは「うむ」とうなずく。
今度はクコが会話に入ってくる。
「あの、サツキ様。わたし、今日はルカさんと修業します」
「うむ。そうか」
「お話ししていた《バインドグリップ》も、ちゃんと成功したんですよ」
「それはすごいな」
「はい。だから、午後もまたルカさんにお相手をしてもらって、それからサツキ様やミナトさん、チナミさんにもお相手していただけたらと思っています」
「わかった」
「私も構いませんよ」
チナミもそう言って、ミナトは「楽しみだなァ」とひとりごちる。
そのとき、レオーネが口を開いた。
「サツキくん。修業をするならコロッセオもいいよ」
「コロッセオ、ですか」
「マノーラの名物、円形闘技場です」
と、ロメオが言った。
「午前の部が、悪さをした魔獣の処分を、ショーにして戦わせる。午後は、魔法戦士同士の戦い。今からでも参加はできる」
レオーネのすすめもあり、サツキはミナトと顔を見合わせ、うなずき合う。
「行くしないよね」
「うむ」
すると、ロメオがサツキの前にやってきて、グローブを差し出した。普段ロメオがしているのとよく似た、白いグローブである。
「サツキさん。こちらをどうぞ」
「これは……」
「ワタシが昔使っていたグローブです。それを、玄内さんに頼んでワタシの魔法《
「そんなすごいもの、いいんですか?」
「もちろんです。友好の印に。ワタシとレオーネに、また機械の話やサツキさんの世界の科学の話を聞かせてください」
紳士的な微笑みのロメオに、サツキはうなずいて、
「はい。それは、いくらでも……」
と答えると、レオーネが爽やかに言った。
「昨日も言ったろう? マノーラではマノーラ人のするようにせよ、ってね。素直に受け取ってもらったほうが、ロメオも喜ぶ」
「そういうことです」
二人にそう言われて、サツキはありがたくいただくことにした。グローブを受け取る。
「ありがとうございます。大事にします」
「ちゃんと使ってくださいね。ボロボロになったら別の物をご用意しますから」
リディオがやってきて、ロメオの腰にしがみつく。
「いいなー! ロメオ兄ちゃんと同じの、おれも欲しいぞ!」
「リディオはもう少し大きくなったらな」
「わかったぞ!」
ミナトはそんなリディオを眺めて、「ここまで素直だとかわいいねえ」と言って笑い、サツキに向き直った。
「さて。サツキ、さっそく行こう」
「うむ」
サツキは、最後に玄内にもお礼を述べた。
「先生、ありがとうございます」
「おう。力を貸してくれたロメオに感謝すれば充分だ。それより、早々に使い慣れることだな。きっと、コロッセオはいい修業になる」
「はい。いってきます」
背を向けるサツキに、バンジョーが声をかけた。
「おい! ならこれ持ってけ! ほい! ほい!」
サツキとミナトに小さな包みが投げられる。
二人はそれをキャッチした。中身を見ると、ヨウカンが入っていた。
「わあ。僕、ヨウカン大好きなんですよ。ありがとうございます、バンジョーさん。食べるの楽しみだなァ」
「ありがとう」
「では、行って参ります!」
「いってきます!」
そして、サツキとミナトはロマンスジーノ城を出て円形闘技場コロッセオに向かった。
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