42 『アルドーレスイーツ』

 バンジョーが修業している魔法、それは《りょく》という。

 この《りょく》は、海老川博士に教わった魔法であり、魔力によってお菓子を創るものだ。それを食べると、魔力が回復する代物になっている。魔力のおすそ分けのような効果とでも言えるだろうか。

 魔力の内蔵量がとてつもなく大きいバンジョーができれば、仲間たちの力になるし、料理人・バンジョーが自ら身につけたいと思っているので、玄内としてはちょうどよいと思った。

 自分だけの魔法を使えないバンジョーが最初に覚える魔法としては、料理に関連する《りょく》は悪くない。


 ――ポパニで成功した一回きりで、あれ以降できてねえ。が、レオーネに潜在能力の解放をしてもらった今なら、集中力次第で成功率がぐんと上がってるはずだ。


「いくぜ! うりゃあ! おおおおおおお!」


 バンジョーは威勢良く声をあげ、玄内が愛用のマスケット銃でコツンとバンジョーの頭を叩く。


「集中しろ。声を出しゃあ大きな力も出る。だが、この魔法はイメージの力が大事なんだ。意識を集中しろ」

「はい!」


 バンジョーの返事を聞いて、玄内は小さくため息をつく。


「ったく。返事だけはいっちょ前と来たもんだ。本当に分かったなら毎日同じことを言わせんじゃねえ」

「押忍!」


 ――だが、筋は良くなってきた。今のも最後に雑にならなけりゃあ成功してたろう。こいつの魔法がどれだけ使い物になるか、楽しみにしておくか。


 そう考えた矢先、バンジョーの「うおおお!」という叫び声で玄内は考え事から意識を戻す。


 ――ったく、また大声を。……ん?


 玄内はバンジョーの手のひらを見て、ニヤリと口の端をつり上げる。


「ほう」


 手に収まっていたのは、海老川博士がミナトに出してみせたモナカだった。色も形も不備は見られない。


「へへっ。食べてください」

「いいのか? 料理人が味見もしねえで客に食わせて」

「先生は客じゃなくて先生じゃないっすか! よろしくお願いします!」


 玄内が一口食べる。


「!」

「どうっすか」


 恐る恐る尋ねるバンジョーに、玄内は短く答える。


「合格だ。やればできるじゃねえか」

「よっしゃあああ」


 バンジョーは喜んで飛び跳ねている。


 ――やはり、潜在能力の解放は効果てきめんだったみてえだな。


 まさかこんな簡単に成功するとは思わなかったが、あとは忘れないうちに何度かまた成功することができれば……。

 そう思っていると。


「ほい、ほい」


 バンジョーは、二回もお菓子を出してみせた。今度はちゃんとコツをつかんだらしい。


「うおっっしゃああああああ! 《りょく》、できるようになっちまったぜー!」


 そんなバンジョーを見て、玄内はフッと笑みを浮かべた。


 ――《りょく》については、もう習得できたと言っていいな。しかし……込められた魔力が尋常じゃねえ。おそらく、サツキやルカくらいまでならこれ一つで魔力も全快するだろう。リラもこれがあれば消費量を気にせず大仕事ができるようになる。


 リラには、物を大きくすることができる魔法道具の小槌がある。だが、精密な物体を描くには、ある程度の大きさで描く必要の出るものも出てくるし、魔力の消費を気にせず魔法を使えるようになるのはかなりのメリットといえる。


「ようし! 忘れねえうちに身体に覚えさせるぜ!」


 そう言って、バンジョーは一つ二つとさらにお菓子を作り出す。


 ――まったくこいつは。平気な顔しやがって。もしかしたら、身体に内蔵してる魔力の総量はおれを除けば士衛組で一番かもしれねえな。

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