36 『ハイドアンドシーク』
ナズナは、魔法《
「あー」という声に乗せて超音波を出すことで、周囲の空間に跳ね返る音を聞き取り、人や物がどこにどうあるのか、目で見るように把握するのである。
だが、これまでナズナはこの探知能力を苦手とし、実践では使ってこなかった。使う場面もなかった。
潜在能力の解放と共に、それがどこまで成長したのか、かくれんぼという実践形式で検証をし始めたのである。
ナズナは、音を聞き分けた。
「さっきと……違う。こっち……」
目隠しをしたまま、ナズナは背中の羽でぱたぱた飛んでゆく。
それも、まっすぐドアに向かっていた。その方向には、リラがいる。
「あー」
声を発して超音波で確認しながら、リラめがけて飛ぶ。
ついに、リラの目の前にきた。
「ここ」
ふわっとリラを抱きしめる。
「わあ! ナズナちゃん、正解だよ」
「やっぱり、リラちゃんだね。ふふ」
うれしそうに笑って、ナズナはリラの手を右手で握ったまま言った。
「たぶん、リラちゃんかなって」
「すごいね! ナズナちゃん、もう実践で使えるよ!」
しかし、ナズナは不安そうにつぶやく。
「あのね、チナミちゃんは、まだわからない、の……」
「もう一回、試してみたら?」
ナズナがうんとうなずき、また「あー」と超音波を出した。
「あれ……? や、やっぱり、いない……よ? さっきから、いない感じがしてて……」
「さっきと違うところって、ほかにもないかな?」
「た、たぶん、あっちは、もっと大きい……リラちゃんが用意した、なにか、だと思うの」
ぱたぱたとナズナがリラの手をつないだまま空を飛んで、ベッドの脇まで移動してきた。着ぐるみに触る。
「あ、着ぐるみ?」
「ピンポーン! テディボーイだよ」
「うん。チナミちゃん、じゃないもんね。あ、もしかして……」
ここで、ナズナが「あー」とテディボーイの着ぐるみに超音波をぶつけてみた。
「うーん……ただの着ぐるみ、だよね?」
「そうだよ。ほかに、さっきとの違いは?」
さらに、「あー」と超音波を出してみて、
「あ」
ナズナはぽつっと声を漏らし、夢中でリラの手を引いたまま飛んだ。
向かう先には、クローゼットの前。
クローゼットに手をかけ、ナズナは開いた。
「ここが、響きの重さが違うの」
パカッと開いたクローゼットの中からは、チナミの声がした。
「大当たり。ナズナ、やったね」
目隠しをずらして下げ、ナズナはにこっと笑顔になった。
「チナミちゃんっ!」
「すごーい! ナズナちゃん、よくわかったね。クローゼットの中なんて」
「返ってくる音の響きがね、重たくて、それで、もしかしたらそうかなって」
これについて、チナミが兼ねてより考えていた仮説を述べた。
「おそらく、ナズナは得られる情報が増えた中に、精密な形状把握のほかにも、物体の密度がわかるようになったんだと思う」
「精密な形状把握は、テディボーイを大きなもので、チナミちゃんじゃないってわかったみたいなことだよね。リラのことも、たぶんリラだってわかってたから」
「そう。そして、物体の密度は、『響きの重さ』がそれだと思われる。クローゼットの中が空のとき、音は軽かったのが、私が入って密度が高まり、音が変わった。重くなった。また、人間のそれと着ぐるみのそれの違いも感じ取っていたから、ナズナにはテディボーイが私じゃないことまでハッキリとわかったんじゃないかな」
「……そ、そうかも。自分では、よくわからなかったけど、そんな気がしてきた」
二人の話を受けて、リラがまとめた。
「つまり、ナズナちゃんは物体の密度が探知できるようになったから、クローゼットや箱の中身の変化もわかる。加えて、人や物の場所だけじゃなく、大きさや形状の把握力も高まったってことだよね」
「まさに」
「そっか。ナズナちゃんの成長は、参番隊にとっても大きな力になると思うの。だから、今後、参番隊で今日みたいなかくれんぼを修業に取り入れてみない?」
「いいと思う」
「わたしは、二人がいいなら……お願いしたいな」
ナズナもそう言ったことだし、リラとチナミは顔を見合わせてうなずく。
「じゃあ、決まりだね」
「あとでサツキさんにもかくれんぼに参加してもらって、レベルアップした姿を見せて驚かせよう」
「うふふ。いいね。サツキ様がびっくりする顔が楽しみ」
「そうだね」
とナズナはにっこりする。
――サツキさんも、よろこんでくれるかな?
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