25 『グラッドリユニオン』
士衛組隊士がそれぞれ部屋から出てくると、ルーチェが言った。
「皆様。そろそろおやつの準備ができている頃だと思います」
「グラート卿が用意してくれてるはずよ。いただきましょう」
ヴァレンを先頭に、一同は広い部屋に移動した。丸いテーブルが四つほどあり、一つのテーブルにつき四人が座れる。
カフェのような配置で、住まいの赴きを持っていながら、さすがにお城の中だけあって宮殿の一室のような空気がある。
室内は、すでにコーヒーの香りとバターの香りが満ちている。
席は、サツキとクコとルカとミナト、参番隊とヒナ、バンジョーと玄内とヴァレン、フウサイは「拙者は遠慮するでござる」とのことで姿は見せず、残る一つのテーブルにラファエルとリディオがいる。ラファエルとリディオはすでにおやつを食べており、グラートとルーチェは席にはつかないで用意してくれていた。
サツキの前にも、タルトのようなパイのようなお菓子が出てきた。
「クロスタータです」
「イストリア王国では昔からおやつとしてよく食べられました」
グラートとルーチェが説明してくれる。
食への好奇心が強いバンジョーが質問した。
「タルトとは違うのか?」
ルーチェがにこやかに答える。
「一応、クロスタータにはこだわりがあります。焼く前に、生地を格子状に切って並べるので、表面に格子状の模様ができます。それが特徴です。また、お皿が二度焼きになるのがタルト、一度だけなのがクロスタータと思っていただければわかりやすいかもしれません」
「そうなのか。あとでレシピ教えてくれよな」
「はい」
さっそく、みんなでいただく。
みんながおいしいと言って食べる中、玄内は悩んでいた。
――うまい。定期的にデザートやおやつに食べたくなる。さっきのカルボナーラは三食分確保しておいたが、これはグラート卿とルーチェしか作れないらしい。バンジョーに覚えてもらうのもいいが、研究の合間にちょっと食べる用も、焼いてもらいたいもんだな。
バンジョーは玄内を見て、
「さすがは先生、こんなに美味しい物も落ち着いて食べてるな。オレはうまくてはしゃぎたくなるぜ」
「おい、バンジョー。はしゃぐより、レシピを聞いたらどうだ」
玄内に指摘され、バンジョーは我に返る。
「おっと、そうだったぜ! 押忍!」
「フ」
ニヤリと玄内は笑った。
サツキは思い出したように、ルーチェに質問した。
「あの」
「なんでしょうか、サツキ様」
「ここには七人が住んでいると聞きましたが、今いらっしゃるのは五人ですよね。残る二人って、もしかして……」
そう言いかけたとき、ルーチェは笑顔のまま目線だけを一度ドアへ向けて、
「はい。サツキ様はすでにお会いしたことがありましたね。お気づきかと思いますが、ちょうど、帰って来たみたいです」
すると、ドアが開いた。
二人の青年が入ってくる。
「甘い香りに誘われて来てみれば」
「みなさん、おそろいですね」
青年たちはそれだけ士衛組に言うと、グラートとヴァレンに「ただいま帰りました」と声をそろえて言って、金髪の青年の目がサツキのところで止まった。
「久しぶり」
「話は聞いていますよ」
ゴーグルをかけた青年もサツキに言った。
二人は、サツキが知った顔だった。
以前サツキが、ガンダス共和国のラナージャで出会った二人組である。
ラナージャに到着後――
その帰路、サツキとルカはアルブレア王国騎士・ジャストンに遭遇して一戦し、サツキはジャストンの腕を斬り落とした。初めてサツキは目の前の相手を重傷にして、苦しむジャストンの姿にショックを受けた。ルカが気分転換にアイスを食べようと提案し、いざ食べようとしたとき、今目の前にいる彼ら二人に遭遇した。突如として、サツキの目の前に現れたのである。
その二人とは、『
レオーネとロメオの出現は、あまりに唐突だった。前触れもなかった。サツキの持っていたアイスがロメオの服についてしまったのも、ワープの魔法によるせいで、この魔法は出現場所を選べない。たまたま、二人が出現した場所と、サツキのアイスの位置が重なってしまったわけだった。
あのとき、レオーネとロメオは自分たちをイストリア人だと言った。アイスを台無しにしたお詫びにと、二人はサツキにアイスを買ってくれて、二人といっしょにアイスを食べながらいろいろ話をして意気投合した。
だが、それだけで終わらなかった。
レオーネとロメオは、マフィアと戦っていたらしい。抗争に敗れてラナージャに逃げてきたマフィアが暗躍していると聞き、レオーネとロメオはその組を潰しにきたとのことで、襲ってきたマフィアを多彩な魔法で返り討ちにするレオーネに興味を持ち、サツキはこれからアジトを潰しに行くというレオーネとロメオに同行を願い出た。レオーネとロメオの戦いを見ることで、強くなるヒントを得られると思ったのだ。その際、サツキとルカは、レオーネの魔法で才能を開花してもらい、潜在能力の階段をのぼった。当然、レオーネとロメオによってアジトは潰され、サツキは彼らと別れたのだった。
過ごした時間は短いが、サツキは彼ら二人の印象が強くてよく覚えていたし、また会いたいと願う人物でもあった。サツキが最近使えるようになってきた《波動》の魔法も、レオーネがマフィアを倒すときに見せてくれたのを元に、魔法創造のイメージをできるようになったのである。
だから、マノーラで
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