24 『ヴェローチェネットワーク』
「ヴァレンさん」
クコが呼びかける。
「なに? クコちゃん」
「わたしたちのこと、グラートさんには相談されてから出かけたのですか? グラートさん、わたしたちのことを平然と受け入れていたと言いますか、知っていたかのように思えて」
クツクツとヴァレンは笑った。
「悪いわね。この近くにいる仲間はもうみんな知ってるわ。アタシの同行を見守る子たちもいるから、彼らが伝達してくれたのね」
「な、なるほど」
「もう街中に噂を広めていたくらいだ、グラートさんが知っていても不思議じゃない」
とサツキが言うと、クコはますます感心した。
自分たちの味方にも、フウサイという有能な忍者がいる。彼にかかれば同じような芸当も容易にこなせそうだし、サツキとフウサイが一心同体に瞬時の通信が可能なように、『
ミナトは楽しそうに城内を見回しながら、
「仲間は多いと聞きます。けれど、この城館にお住まいなのは七人だけ。ここにいない者は普段どうしてるんです?」
「いい質問ね、ミナトちゃん。盗賊団の団員数は五千を超える。表向きには二千以上とか四千人いるとか言われているけど、それは表立って動員される人数ね。実際に一度に動員した人数は最高でも二千人もいないのだけれど」
「逆にいえば、五千人を超える人数が世界のどこかに潜んでいる」
と、ミナトが相槌を挟む。
「そういうこと。ここにいるのは、いわば最高幹部と側近のみ。この城の周囲にはすぐに動かせる三百人ほどが潜み、あとは世界中でその土地の町人として、医者や商人、大工に農家、茶屋などの店員まで、いろんな職業をしながら生活してるわ」
「それって、もう盗賊でもなんでもないじゃん」
と、ヒナがジト目でつっこむ。
「ンフ。わかってないわね、ヒナちゃんは。アタシたち『
「ヴァレン様ったら大胆です」
と、ルーチェはにこやかに相槌を打つ。
サツキは、改めてヴァレンという盗賊が緻密な頭脳も持ち合わせた傑物だと理解した。
――それじゃあ忍者と同じじゃないか。至る所でその土地の人間として生活基盤を築き、周囲に信頼までされてこそいっぱしの忍びと言われている。
特に年老いた忍びの者は、そうやって忍びの者同士のネットワークを利用するのが主な仕事だという。ある意味、信頼を得て人心を掌握するという点では、ハートを盗むという表現も正しいと言える。
――やるな。
あえてそこまで考えたことは言わず、サツキは聞いた。
「つまり、首領であるヴァレンさんが俺たちの仲間になったのも、その一貫なんですね」
「あるいは、そうね。でも、ちょっと違う。さっきも言ったけれど、アタシはあなたたちに期待してるのよ。アタシたちがするべき革命を、あなたたちがしちゃうんじゃないかって」
「だから、首領が直々に隊士として仲間になったわけね」
ルカが納得するように言った。
これまでのやり取りからも、ヴァレンが抱いている思想というのものはルカにも読み取れない。だが、士衛組を悪いようにはしないだろう。むしろ、宿代わりに城に泊めてくれるなど、よく思っている証拠だ。
サツキはなにげなくぽつりと言う。
「今更ですが、ヴァレンさん。俺は革命家なんて柄ではないですよ。俺は保守的な性格です。なにかを変えたり、自分が変わっていったりするのは、怖いですから」
「あら。そう? 意外ね」
「でも、時に変わらないことのほうが怖いこともあります」
そこで言葉を切った。
ヴァレンはサツキを一瞥し、
――自分を保守的だと冷静に分析して、変わることへの恐怖を持ちながら、変わらないことが時に危険であると理解してる。だから、あなたは普通じゃないのね。
サツキはクコを見ていた。クコは城内を見回しており、リラとナズナと楽しそうにおしゃべりしている。クコが聴いていないのを確認して、
「おそらく、アルブレア王国のことも、なにかを変えないといけないんじゃないかと思ってます。まだ、案はありませんが」
「ンフ。やっぱり、サツキちゃんはおもしろいわね。まだ時間はある。ゆっくり考えなさい」
「はい」
ヴァレンはサツキを優しく見やり、一同に声をかけた。
「さあ。二階に着くわよ」
城は三階建てである。
そこの二階部分をひとり一部屋ずつ貸し与えてくれた。
「このロマンスジーノ城は、城壁のテラスからはマノーラの街が一望できるわ。気分転換にもおすすめよ」
と、ヴァレンは言っていた。
「では、まずこちらのお部屋はクコ様」
ルーチェが順番に部屋を案内する。
部屋に入るときにサツキが廊下を見ると、早速玄内がヴァレンに声をかけていた。
「任せてちょうだい。すぐに手配するわ」
などと玄内のリクエストか頼み事に応えているようで、なんの話をしているのかはわからないが、サツキは城での生活が安心できそうなものに思えた。
裁判が始まるまで、ここが士衛組の拠点となる。
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