26 『アンダーテイカー』

 レオーネとロメオの登場に、サツキもルカもさほどの驚きはなかった。予想できたつながりだった。サツキとしては再会の喜びが大きいばかりである。

 ルカに関しても、どこかで聞いたことのある名前だと思っていた二人が『ASTRAアストラ』だとのちに気づき、再会の可能性も考えていた。だから、ルカはしんりゅうじまでも、ヒナに『ASTRAアストラ』について聞いていたのだが、まさかトップのヴァレン共々関わるとは思っていなかったし、レオーネとロメオがヴァレンと共にこんなお城に住んでいるとも思わなかった。

 挨拶を返そうとサツキが口を開きかけると、それよりも先に、リディオがロメオに駆け寄って行った。


「ロメオ兄ちゃん! レオーネ兄ちゃんもおかえり! 待ってたぞ! いっしょに食べよう!」

「ああ。だが、その前にサツキさんと話したくてね」


 ゴーグルの青年、ロメオがリディオの頭をなでて、サツキの元へと歩み寄る。

 レオーネもロメオの隣を歩いて、サツキの前に来て聞いた。


「あのとき、オレたちの素性は話さなかったから、驚いたかな? それとも、気づいてた?」

「レオーネさん、ロメオさん。お久しぶりです。ルーチェさんとリディオさんの名前を聞いて、もしかしたらと思ってました」

「お久しぶりです」


 と、ルカも挨拶した。

 レオーネは爽やかな微笑を浮かべて、


「この再会は、決まっていたものだ。仕組まれたと言ったら大げさだけどね。そうそう、このあとゲストも来る」

「サツキさんもご存知の方たちです」


 ロメオがそう告げると、レオーネはルーチェを振り返る。


「ルーチェ、オレとロメオの分も頼むよ」

「はい。レオーネお兄様」


 一礼して下がるルーチェを見て、バンジョーが驚いたように言った。


「兄妹だったのかよ」

「兄妹ってことに驚いてるが、バンジョーもレオーネさんのことを知ってたのか?」


 サツキが問うが、バンジョーはかぶりを振った。


「いや、ここにはクコとリラ、ロメオとリディオ、レオーネとルーチェって、三組も兄弟がいるなって思ったんだ」


 ずこっとヒナがこける。


「どうでもいいわよ、そんなこと」


 レオーネとロメオがラファエルとリディオの席に座り、イスを傾けてサツキたちに話しかけた。


「改めて名乗ったほうがよかったかな。サツキくんも、まだオレたちのことを仲間には話してないかもしれないしさ」

「そうだな」


 ロメオがうなずくと、レオーネが士衛組一同に挨拶する。口調も改めて、


「私は、振作令央音ブレツサ・レオーネといいます。こっちが狩合呂芽緒カリア・ロメオ。私たち二人は、『ASTRAアストラ』における幹部のようなものです。一応、参謀といったところでしょうか。ヴァレンさんは忙しい方なので、不在時になにかあれば代わりに私とロメオが話を聞きますよ」

「ロメオです。レオーネ共々、今後ともどうかよろしくお願いいたします」


 レオーネはロメオを横目で一瞥して、サツキたちに向き直り、


「私とロメオは幼馴染みでずっといっしょに育ち、ふたり同じ立場で組織を運営しているので、二人そろってヴァレンさんの補佐役だと思ってください」


 最後に、グラートから説明が入る。


「お二人から挨拶がありましたが、ロメオさんとレオーネさんは、ヴァレンさんの『右腕』と『左腕』と言われているお二人です。ヴァレンさんがいないときや、ヴァレンさんが直接顔を出さないとき、お二人が士衛組のみなさんと顔を合わせることが多くなると思います」

「そういうわけで、よろしくね。サツキくん」


 と、レオーネがサツキに手を差し出した。サツキはその手を握り返す。


「サツキさん、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 今度はロメオとも握手し、サツキは改めて二人を見る。

 レオーネとロメオ。

 年は両者、今年二十一歳になる。ヴァレンが二十四歳だから、二人は三つ年下になる。

 二人共、背丈は同じくらいだが、ほんのわずかにロメオが高い。髪を逆立てているのをのぞくと、ロメオが一七六センチ、レオーネが一七五センチといったところで、ロメオのほうがやや肩の筋肉もしっかりしているだろうか。

 ヴァレンを支える両腕で、ヴァレン以外でこの二人だけが五千人を超える世界中の仲間に指令を飛ばすことができる。

 最後に、ヴァレンが言った。


「我が組織を実質的に管理しているのがこの二人よ。レオーネちゃんとロメオちゃんに頼めば、大抵のことは叶うわ」

「それは言い過ぎですよ、ヴァレンさん」


 と、レオーネは笑った。


「お待たせいたしました」


 ルーチェが戻って来てクロスタータとコーヒーをテーブルに並べた。


「ありがとう」とロメオが言って、レオーネも「グラッチェ」と言う。

 サツキは少し考える。


 ――俺はガンダス共和国で、レオーネさんの魔法《発掘魔鎚ポテンシャルハンマー》によって、潜在能力を引き出してもらった。そのことを士衛組のみんなには言ってない。ルカも言ってない。今、言っておくべきか。できることなら、クコたちみんなも潜在能力を一段階引き出してもらいたい。ずうずうしいかもしれないけど、強くなれるなら……。


 意を決して、恥も外聞もなく、お願いすることにした。


「レオーネさん。また、《発掘魔鎚ポテンシャルハンマー》で潜在能力を引き出してもらえませんか。一人につき一度だけだというなら、仲間たちだけでも。俺たち、強くなりたいんです」


 先程からサツキの表情の微細な変化にも目が届いていたルカは、すぐに呼応するように頭を下げる。


「私からもお願いします。私たちの目的はご存知かと思います。アルブレア王国において強大な敵との戦いがあるので、力が必要です。ずうずうしいお願いですが、士衛組のみんなの潜在能力を引き出してくださるなら、私もできることはなんでもします」

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