20 『フェアリースキップ』

 イストリア王国。

みやこ』マノーラ。

 遺跡が街の中に散りばめられ、歴史の奥行きを感じられる。

 この都市で、とある一組の男女が遺跡の写真を撮影していた。

 年は十代の半ばくらいに見える。

 二人共、頭には日の丸を描いたサンバイザーをかぶり、オレンジ色の半袖のパーカーを着て、背は一六五センチほど。首からはカメラを下げている。

『トリックスター』めいぜんあきふく寿じゅえみ

ほしふりようせい』とも呼ばれる。

 見た目以上に若く見えるのはトウリ以上で、まだ少年少女にしか見えないが、二人は共に二十歳になる。

 いつも陽気な二人は、跳ねるようにマノーラの街を駆け回っていた。


「いい写真がじゃんじゃん撮れるや!」

「サイコーだよね!」

「あ、スサノオさんだ。撮っちゃえ!」


 パシャっとアキが通り過ぎ様にシャッターを切った。エミもちらっとその人物を見る。


「あの写真集とか出してるスターだね!」


 だが、進行方向が逆なので、通りの向こうにいたその人物は一瞬しか見えなかった。


「エミは撮った?」

「ううん。でも、また会えそうな気がするし、次行こーう!」

「おぉー!」


 また二人はマノーラを駆け巡る。

 通りの向こうでは、仮面のようなメガネを顔につけた和装の青年がニヤリと微笑む。


「やっぱし、おかしな人らやで」




 アキとエミは円形闘技場の前でも写真を撮って、また軽い足取りで走り出そうとするが、その足を止めた。


「あ、偶然」

「わぁ! アタシたちと同い年の友だちだ。同い年は意外とめずらしいんだよね」


 道の先にいた二人を見て、アキとエミは笑顔を向ける。

 二人はそれに気づいた。

 やや長めの金髪の青年と、ゴーグルをつけた灰色の髪の青年がその先にいる。二人は爽やかに手をあげた。

 距離があるから二人は口を開かないが、アキとエミは大きな声で言った。


「このあとお城にも行くねー!」

「約束だよー!」


 相手の予定も聞かずにそれだけ告げて、アキとエミはまたマノーラの街を駆け回る。




 次に、アキとエミは、海の前で足を止めた。


「あ! 船だよエミ!」

「かっこいいね!」


 船の上には、おかっぱ頭の少年がいた。袴姿なので、少年が晴和人だとわかる。自分たちと同じ晴和人に、アキとエミはフレンドリーに手を振った。


「おーい」

「やっほー」


 少年は上品に手を振り返してくれた。


「ボクも乗ってみたい! けど」

「撮るのが先だよね!」


 二人がパシャリと写真を撮って、また少年にぶんぶん手を振って、マノーラの街に消える。

 船の上では、船内から、ウルトラマリンのマントを羽織った青年がやってきた。


「なにかあったか? チカマル」

「はい。おもしろい二人の晴和人がいました」

「で、あるか」


 青年は懐手をしたまま、隣のメガネの少年に言った。


「やつらもここには来てる頃か」

「ええ。そうでしょう」

「リラちゃんもね」


 メガネを指先で押さえる少年の後ろから、ナースキャップのようなものを頭につけた軍医も顔を出す。


「またミナトと遊びたいものじゃ。そして、同じ《どう》を感じる者――士衛組局長、しろさつきとも」

「トウリくんとも話したことあったけど、なんかオウシくんに似てるんだよね。あの子」

「で、あるか」


 妹の言葉に、青年はご機嫌に相槌を打つ。

 さらに別の相槌も加わる。


「で、ごわす」

「ちょっと、キミは知らないでしょ。なんでも相槌を打てばいいってもんじゃないよ」

「はいでごわす」


 茶人風の人物に指摘され、黒人のサムライが素直にうなずく。


「で、大将。ボクの予感では、これからここでなんか起こる気がするんだよねえ。行くの、やめとく?」

「まさか。お兄ちゃんが? そんなわけないよ。ね?」

「是非もない。なにが起こるか、楽しみなくらいじゃ」


 だが、メガネの少年が呆れたように指摘する。


「その前に、ミゲルニア王国に行く用事がありますからね」

「りゃりゃ。で、あるか。行くぞ」


 青年は風を受け、マントをなびかせ、小さくつぶやく。


「待ってろ、士衛組。裁判は見られるかわからぬが、遊ぼうではないか。この地で」




 マノーラの街で、ダンスをするように歩き回るアキとエミ。

 二人は手を取り合って、もはや本当にダンスまで始めて通りを進む。


「なんだか楽しいことが起こりそうな気がする!」

「奇遇だね! アタシもだよ、アキ」

「近々裁判もあるらしいし、そこにも顔出してみようよ」

「きっと天体観測が好きなサツキくんやヒナちゃんも興味津々だろうしね。あとで教えてあげよーう!」


 軽快なステップで、二人は『センティ』という店の前で、互いの位置を入れ替えるように踊る。


「ボク、なんか思うんだ。きっと地球は回ってる」

「アタシたちも回ってるー」


 くるくる回りながら踊るアキとエミが、楽しそうに言葉を紡ぐ。


「すべての道はマノーラに通ず。みんなで楽しいことがしたいね!」

「みんないれば楽しくなるよ!」


 二人は踊りながら通りを駆け抜け、互いに両手を取り合ってその場で回りながら、陽気に顔を見合わせた。


「ボクらにしかできないことをしよう」

「アタシもそう思ってたんだ」


 片手を離して、その下にできたトンネルを小さな子供が通り抜ける。ぼーっと突っ立っていたところを、通りかかったアキとエミの間を抜けることになったのである。

 楽しそうなアキとエミを見て、子供はいっしょに遊びたそうにしていた。

 しかし二人は次の目的地に向けて足を止めない。


「また今度遊ぼうね!」


 アキが笑顔で声をかけ、エミも笑顔で子供に手を振った。


「ごきげんよーう!」

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