19 『ディアフレンド』

 せいおうこく武賀むがくに

 鹿じょうの一室にて、青年が手紙を読んでいた。一見二十歳になるかならないかという感じだが、やや若く見られるだけで二十三歳になる。髪は長いくせ毛で、穏やかな顔つきをしている。

 青年は、ほほみのさいしょうたかとう

 この国の国主・たかおうの双子の弟にして、鷹不二氏のナンバー2である。

 読んでいる手紙は、旅をしている友人から届いたものだった。写真もある。


「メイルパルト王国やギドナ共和国の写真がたくさんあるね」

「アキさんとエミさんは、いろんなところを撮ってくれるからお写真が楽しいですね、トウリさま」

「うん」


 と、『てんしんらんまんひいさまとみさとうめに微笑みかける。

 今年十一歳になったウメノだが、この年で親元を離れて鷹不二氏の居城で暮らしている。武賀ノ国の同盟国・さんえつくにの姫であり、トウリが訪れた際に彼を気に入り、勝手についてきたのである。トウリは一度ウメノを連れ帰ったが、おてんばなこの姫の希望わがままは彼女の両親に容れられ、現在ではすっかり鷹不二氏の一員のようになっており、鷹不二氏が組織する鷹不二水軍一軍艦メンバーの一人でもあった。

 部屋には、ほかに鷹不二水軍測量艦の三姉妹もいる。

 鷹不二水軍の特別部隊ともいえる測量艦は、三姉妹で編成されている。特殊な魔法を持つ三人だからこそできることがあり、三姉妹は長女が十七歳、次女が十五歳、三女が十二歳になる。三人ともセーラー服なのが特徴である。

 長女『せんがんとうごうが、ウメノの横から写真を見て笑った。


「やっはっは。ホントだわ。変な写真もたくさんあるじゃない。この二人、この前のガンダス共和国以来ダンスに目覚めたわけ? やっはっは」

「サホ姉、お腹かかえて笑うことないと思うけど。普通に楽しい写真だよ。噂にしか聞かないしんりゅうじまで、恐竜と映ってる写真も素敵……リラちゃんもいる。元気そう」


 三女『こうかいとうごうはリラの写真を見て、船ですれ違ったときのことを思い出す。つい笑顔がこぼれてくる。リラの写真があるということで部屋に呼ばれ、写真を見せてもらっているのだが、リラの笑顔を見るとこの場にリホは来られてよかったと思える。

 トウリの横に座る次女の『ねむひめとうごうが質問した。


「なんだかすごくうれしそうですね、トウリ様。その写真、なにかありましたか?」

「うん」


 写真に目を落としながら、トウリは言った。


「あの天才剣士、ミナトくんがいる。この子は、古い友人でね」

「この前探しに行ったっていう……。トウリ様、よかったですね」


 ミホが自分のことのように喜ぶ。だが、トウリを挟んで反対側に座るウメノが、身を乗り出して写真を見る。


「どの方ですか? 姫は、前々からトウリさまがよく口にするミナトさまを知りません! 見せてください」


 ウメノがトウリから写真を受け取って、まじまじと見ている。


「ちょっとトウリさまに似ています! かっこいいです。トウリさまほどじゃないけど」

「そうだね。この子も、もうちょっと大人になればトウリさまみたいになれるかもね」


 とミホが自然に相槌を挟む。ミホはトウリを慕っているが、鈍感なトウリはそれに気づいてない。知っているのは姉のサホと妹のリホ、トウリの妹のスモモとオウシの側近で秘書役のチカマル、茶人のヒサシなど、挙げればきりがないのだが。

 トウリは写真のミナトを優しく見ながらつぶやいた。


「早く兄にも知らせてやりたいよ。コジロウにもね」

「トウリさま、ミナトさまはどんなお方なんですか?」

「剣に生きる侍、かな」


 と、トウリはミナトについて話し始めた。

 その途中で。

 ふと、トウリはもう一枚の写真を見つけた。


「これは……」


 そこには、ミナトといっしょに、同い年くらいの少年が映っていた。顔つきはクールだけど、なんだか優しさもあるように見える。二人共、仲が良さそうで楽しそうだった。


 ――見つかったんだね、ミナトくん。これを見ればわかってしまう。おれとしては、同じ道を進めなくて残念だけど、キミが幸せそうでよかった。


 同時に、兄オウシのことも考える。


 ――兄者も、会えばわかってしまうだろう。ミナトくんには、居場所ができたってことを。祝福しようじゃないか。願わくば、別の組織にあっても、協力し合い、友好を結びたいものだ。


 ミナトと二人で写真に映っている少年を見て、トウリは左手で自分の額に触れた。


 ――《おくいきかいふく》。左手で触れた人間の記憶を回復させ、思い出したい記憶を思い出すこの魔法。この少年、どこかで見た気がしたが……そうか、王都で二度、すれ違っていたんだね。


 それは、四月の初め。

 人斬り事件と怪盗事件があった日。

 昼間に一度、喫茶店に入る前にすれ違い、二度目は夜、影馬車に乗っているとき、見かけた少年だった。ほかの写真に映っていた少女も、ウメノが自分と同い年くらいだとか友だちになりたいと言っていた子だと思い出す。


 ――姫は覚えていないらしいが、会う機会があればそのときに思い出させてあげようかな。


 さらにもう一枚、アキとエミがミナトたち十人くらいの仲間と映っている写真があった。

 みんなが楽しそうで、トウリは微笑んだ。


「もしかしたら、この二人がミナトくんたちみんなの幸せを結びつけてくれたのかもね」

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