17 『アライアンスキメラ』
ヴァレンは言葉を続けた。
「歴史をみれば、英雄に裏世界の仲間はつきものよ。世間というものを、多角的なレンズから正確に見ることができるから。特にアタシには配下がいる――彼らの目を使うと、より広く情勢をみられるし、人の世の細かなところにまでその目が届くわ。なにより、まっとうな者には映らない社会の裏を知ることができる」
確かに、それはその通りである。
サツキの知るところでも、歴史上の偉人に泥棒や裏社会の家来という例はいくつかある。サツキの時代でいえば、スパイなどもその代表だろう。
――だが、うちには忍びの者がいる。
とサツキは思った。
徳川家康や武田信玄、真田幸村など、手元に忍者を置いていた武将も多い。徳川家康の伊賀越えでは忍者が活躍したものだ。こういった諜報活動のできる暗躍者という存在は、泥棒なども同じで各所の情報を素早く入手するのに役立つし、持っていて損な駒ではない。
ヴァレンはサツキに聞いた。
「どうかしら?」
玄内がこれに口を挟む。
「サツキ。おれたちの目的を邪魔するやつではないだろう。それどころか、仲間になれば得られる情報量は飛躍的に増える。悪くない話だぜ」
サツキは、クコに手が握られていることもあり、《
「(クコ。ヴァレンさんを仲間にしよう。構わないか?)」
しかし、クコはすっかり手を握っていることを忘れているようだった。
――やっぱり忘れてる。
と思って、サツキはクコの手の上に自分の手を置き直した。上はクコの手に握られ下は青いスカートに押し当てられ挟まれていたから、その手を引き抜いて上に重ねたのである。
これによって、クコははっとして《
「(サツキ様?)」
「(クコ。ヴァレンさんを仲間にしよう。構わないか?)」
「(はい。サツキ様が判断したのなら、わたしはそれを尊重したいです。それにヴァレンさん、悪い人には見えません。リラの恩人であることをひいき目に見ても、信用していいと思います)」
クコはすぐに答えた。ただ、なんとなく手の甲から握られているという形が落ち着かなくて、クコは手の向きを反転させて指を絡ませた。このほうがクコとしては落ち着く。
そして、にこっとクコがサツキに微笑みかける。
サツキは顔を合わせて、うむとうなずいた。
士衛組の局長と副長の意見がそろったことで、サツキはリラに言った。
「リラ。俺はいい話だと判断した」
「はい。わたくしも、同じ気持ちです」
サツキはリラにもうなずいてみせ、ヴァレンに向き直って言った。
「ぜひ、よろしくお願いしたいです」
「ありがとう。でも、アタシ自身も『
条件。
その単語に、ルカは駆け引きとなる要素を考えてみる。しかしそこに思考の余地はあまりなく、その条件の下に築かれる関係は、
「同盟、という感じに近いわね」
と言って、サツキを見やる。
サツキもあごを引いた。
「うむ。ある種そうなる。我々は一つの組織として行動を共にする存在だ。そこに例外はなかった」
「隊士には役職があるからね。ヴァレンさんをどこかの隊に組み込むのか、ヴァレンさんたち『
ルカが聞いた。
こういった話を影でしても感じが悪いから、あえてヴァレンの前でしてみせる。ルカには、それによってヴァレン本人から意見を引き出す狙いがあり、隠し事などない様子のヴァレンは案の定、口を開いた。
「その前に、一つ言わせて。あなたたちの仲間になるのは、アタシだけ。『
クコがうなずく。
「そうですね。では、ヴァレンさんがどこの隊に所属するかという話になりますね。まずは、こちらの組織について話しておきましょうか」
「構わないわ。忍者がいることは知っているけれど、彼だけがアタシたちにも把握しきれないところ。それ以外はわかってる」
「では、役職だけ決めさせてください。ご存知かもしれませんが、士衛組には指揮系統を確保するための組織図があります。そのどこかに配置させてもらわなければなりません」
「そうね。アタシは、できることはなんでもするわ。サツキちゃんに考えはある?」
「いいえ。まだ」
「じゃあ、壱番隊に所属したいわ。いいかしら?」
ヴァレンの要求を容れることに、サツキはなんの問題もない。だが、隊長のミナトがどう考えているかは聞いておきたい。
「ミナト、いいかね?」
サツキが聞くと、ミナトは抜けるような笑みで答える。
「もちろんです。でも、隊長は僕です。僕なんかの下じゃあやりにくいでしょう」
「そんなことないわよ」
「ヴァレンさんさえいいと言ってくださるならば、僕としては壱番隊が二人になって頼もしい限りですよ」
うむ、とサツキはうなずいた。
「決まりだな。ヴァレンさん一派を壱番隊の管轄とする。そして、別行動をしているヴァレンさんから使者が来れば、壱番隊が受け付ける。兵士を借し出してくれることがあれば、壱番隊へつかせる。それでどうでしょう?」
「わかったわ。今日からよろしくね、ミナトちゃん」
「こちらこそよろしくお願いします」
ミナトに笑顔を向けられて、ヴァレンは流麗にウインクを送った。
「チャーミングな笑顔。あなたとは仲良くなれそう」
「仲良くしてくださるとうれしいです」
ンフ、と満足そうなヴァレンである。
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