11 『スティールバッグ』

 その頃――。

 クコたちは、近くのカフェを訪れていた。

 合流地点となるヴェリアーノ広場を眺めることもできる距離で、テラス席もあり、マノーラの景色を楽しみながらコーヒーが飲める。

 オシャレなカフェの雰囲気に慣れないフウサイは見張りもかねて別地点で待機しており、ミナトとバンジョーとリラとナズナはスイーツを楽しんでいた。


「ぼくはコーヒーの味に詳しくないが、これはおいしいねえ。甘い物と合う」

「オレはコーヒーも好きだけどうまいもんはうまいとわかるぜ」

「見た目も綺麗ですよね。お姉様も我慢できなくなるほどですから」

「ふふ。そうだね」


 リラとナズナに言われて、クコは照れたように笑った。


「えへへ」


 見ていたらクコも食べたくなってケーキを頼んだところだった。


「ヒナちゃん、お父さんと、楽しく、おしゃべりできてるといいな」


 ナズナがケーキを食べながらそう言って、リラもうなずく。


「うん。久しぶりに会えて、きっと喜んでるよ」


 このとき、事件が起きた。

 最初に気づいたのはリラだった。


「お姉様っ」


 リラが声を上げ、クコは手を合わせて振り返る。


「まあ。もう来たのかしら?」


 ウキウキした笑顔を向ける。

 しかしそこにはだれもいない。


「違います! ケーキではありません」


 その言葉に何事かとクコがリラへと顔を向けると、どこか指差していた。


「あちらです。荷物が」

「へへっ。荷物はこのあとスペシャルに積んでやっから安心しろっての」


 バンジョーがリラの指差す先を見て笑った。

 みんなもリラの指差す先を見ていく中、スイーツに夢中になっていたミナトが一拍遅れて視線を移す。


「あれは……」

「よく見つけたなリラ。あいつオレと同じバッグ持ってるぜ。オレが使ってんの見て、真似したのかもな。なはっ」


 そう言ってスイーツを口に運ぶバンジョーだが、


「って、オレの荷物じゃねーか!」


 慌ててバンジョーが立ち上がり、追いかけようと走り出す。

 しかし、泥棒は追いかける間もなく捕まった。

 道の途中で、フウサイがあっさりと捕らえてしまったのである。忍者には造作もない技だった。


「何者」


 と、フウサイが尋ねる。


「た、ただの泥棒だ。悪かった。もうおまえらからはなんも盗らねーよ。だから逃がしてくれ」

「逃がせるか! ケーサツだ」


 バンジョーが怒るが、フウサイは極めて冷静に言う。


「これはサツキ殿に判断してもらうことでござる」

「まあ、それもそうだな。それまでは座ってろ」


 と、バンジョーがカフェの席の横に縛って座らせておいた。

 これを見て、ミナトはくすっと笑った。


「泥棒さんも災難です。狙う相手を間違えましたね。我らが局長は、いつ戻ってくるかなあ」


 一匹の泥棒はがくりとうなだれた。

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