9 『ドグマアイソレーション』

 一行は、ヒナのお父さんがいるという建物の前まできた。

 なんでも、裁判前だということで、住まいには見張りがいるらしい。逃げ出さないようにするための手回しである。普通の裁判ではないとわかる。

 普通のマンションの一室のような場所にいるようだが、


「わざわざ見張りなんざつけるとは、やはり宗教裁判ってことか」


 玄内が苦々しげに言った。

 この言葉に、バンジョーが小首を傾げる。


「宗教? 地学の裁判じゃねえのか?」

「宗教裁判というのは、宗教の正しさを証明するためのものさ。異端者を一方的に裁き、異端の思想を弾圧するための裁判なんだ」


 サツキが答えてやる。

 ヒナが首を横に振って、


「ううん。その言い方じゃバンジョーはわからないと思う。簡単に言うと、宗教の考えに合わない意見を否定して、自分たちの宗教が正しいとするパフォーマンスをする。そのための裁判が、宗教裁判ってことよ」

「なんだよ、それ。ひでえじゃねえか。許せねえぜ。人それぞれ、だれがなにをどう思っててもいいじゃねえかよな?」


 ズコッとヒナがこける。


「まあ、それもそうなんだけどね」


 みんながみんな、バンジョーのような人たちだったらどれだけ平和なことだろうか。ただし、科学の進歩はないかもしれないが。


「ただ、科学的に正しいことを証明するために、あたしたちはこのマノーラまで来たの」


 ある程度の自由はあるものの、裁判で弾劾するのが目的である。宗教の教えが正しいことを世に知らしめるためのショーといえるかもしれない。


「あんまり大勢で行くのはよくないわよね?」


 ヒナがだれにともなく質問すると、玄内が答える。


「行くのは、おれとヒナとサツキ、それから浮橋教授とも面識のあるチナミ。これだけでいいだろう」

「私も行くわ」


 ルカが名乗り出る。

 だが、ヒナは不満そうにルカをにらむ。


「なんであんたが来るのよ? 先生とチナミちゃんはお父さんと面識がある。サツキはいっしょに地動説を証明した。あんただけ関係ないじゃない」

「そうね。私はあなたとは関係ない。ただ、私は総長だから。サツキの秘書でもあるのよ」


 淡々と答えるルカに、ヒナはふいっと顔を背けた。


「まあ好きにしたらいいわ」

「そうだな。ルカは情報の整理がうまい。ほかの仲間にいろいろ伝えるには、サツキの補助役として話を聞いておいたほうがいいか」


 と、玄内もつぶやく。

 サツキはクコに向き直って、


「クコ。頼んだ」

「はい。なにかあったら玄内さんに連絡します」


 弐番隊隊長である玄内は、クコのテレパシーを送受信する装置を持っている。耳につけるイヤホンみたいなものだが、イヤホン風なのはサツキのアイデアだった。玄内が発明したこれを持っているのは、各隊の隊長のみなのである。つまりミナトとリラだけが持つ。ただし、ミナトとリラは受信のみしかできない。


「フウサイも頼んだぞ」


 近くに姿は見えないが、


「御意」


 というフウサイの返事が聞こえた。

 最後に、サツキはみんなに言った。


「では、ヴェリアーノ広場で合流だ」

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