8 『エターナルメトロポリス』
翌日。
九月四日。
士衛組一行は、マノーラに到着した。
サツキとミナトは早朝にも修業したり観光してきたが、九時の列車に乗ると十一時にはマノーラの駅に着いたので、あっという間だった。
マノーラは、イストリア王国の首都である。
バロック建築風の建物はサツキのいた世界のローマで見られるものに近いし、街の中にも遺跡が溶け込むように混ざっている。寺院や美術館も点在し、不思議な調和を見せていた。
これまでも広い世界を旅してきたが、このマノーラは都市として大きなところだった。
観光客もしばしば、また、マノーラを訪れた人々を歓迎するようなアコーディオン奏者や弦楽器のチェロを奏でる人もいる。
賑やかだが美しい街並みは、このイストリア王国の歴史と文化と風土を感じさせた。
みんなで歩きながら、ヒナが言う。
「歴史は古く、今の創暦よりも前から文明の花が開いていたわ。それは、紀元前とも言われている。そんな昔から今まで、ここは大都市であり続けた。未来にもここは大都市だと、世界中の人々が信じてる。だからここは、『
「おもしろい話だな。不思議な都市だ。『
この都市も天都ノ宮みたいに夜には別の美しい顔を見せるのだろうか、と思ってサツキが視線を巡らせていると、通りを軽快に横切る二人組がいた。
――アキさんとエミさんか。
楽しそうに歩いており、エミがくるっとターンして、二人は写真を撮っていた。二人はカメラを首から下げており、写真を撮るのが好きなのだ。浮かれまくった観光客のような陽気さである。
そんな二人にも、現地の人々はフレンドリーに接していた。
二人を見るとなんだか気分も明るくなる。
声をかけたかったが、通行人が前を素通りすると、二人の姿はもう見えなくなっていた。
――見間違いじゃないと思うが、《
あの二人もこの街では撮るものが絶えないことだろう。
「そういえば、クコがアキさんとエミさんに出会ったのもここだったよな」
「はい! お二人が楽しそうに声をかけてくださったんです」
と、クコはそのときのことを話してくれた。
話の途中、不意にサツキの手が握られた。
ふとしたとき、サツキの手を握るのは二人いる。
クコかナズナ。
これがクコの場合、手をつなぐとテレパシーで会話できる《
指が気持ちよく絡むのがクコの手だが、ナズナの手はサツキの手にすっぽりと収まるほど小さい。
今回は小さな手――ナズナで、
「どうしたのだね?」
小さく声を落としてナイショ話をするみたいに問うと、怖がるようなおとなしい声が返ってくる。
「騎士が……います」
「……」
サツキが周囲に目を走らせると、確かに鎧をまとった騎士の姿があった。
だが、よく見ればアルブレア王国騎士とは様子が違う。鎧には十字のエンブレムが施されており、街の人々も騎士の存在をまるで気にしない。
「このマノーラでは、軍医騎士であるマノーラ騎士団がいます。彼らは、街を守り、街の方々の安全のために歩く医者でもあるのです」
と、クコが説明した。
ナズナは少しほっとした顔になった。
「そう、なんだね……」
実は、ナズナはいとこのクコやリラがいるアルブレア王国以外の国には行ったことがなかったから、そんな騎士団がいることも知らなかったのである。
「だから、アルブレア王国騎士とは関係がありません。もし怖かったらわたしとも手をつなぎましょう?」
優しくクコに手をつながれ、ナズナは柔らかく微笑んだ。
「ありがとう、クコちゃん」
「はい」
笑顔のクコに続けて、サツキもナズナに言った。
「なにかあっても、みんながいる」
「サツキさんも……ありがとう、ございます」
うむ、とサツキはナズナにうなずいてみせた。
ナズナは左右からサツキとクコに手をつないでもらって安心そうである。士衛組の中では、リラとチナミと学年では同じで最年少だが、誕生日がもっとも遅い。それもあってちょっと甘えんぼうなところがあるのだ。
チナミがヒナに聞く。
「
「そうだね。見廻組は医者としての側面が薄めだけど、感覚としてはいっしょだと思う」
一応、ヒナは何度もこのマノーラには来たことがあるので、チナミよりも詳しい。
ちょうど通りかかったマノーラ騎士二人組が、チナミの知っている顔と似ている。
「エルメーテくん、今日は平和だな」
「はい。オリンピオさん」
王都見廻組の組長・ヒロキと新人・コウタをイストリア人風にしたらこうなるだろうか、という顔立ちをしていておかしかった。
チナミがそれを言おうとヒナの顔を見上げると、どこか緊張の色が射して見えたような気がした。
「ヒナさん。そろそろですね」
「チナミちゃん……」
めずらしく、チナミがヒナを気遣ってか手をつないでくれて、ヒナは笑顔になる。
「こんなチナミちゃんに懐かれる日が来るなんて感動……」
「冗談が言えるなら、心配はいりませんね。では、手は離します」
「ごめん、緊張をほぐしたかっただけで冗談なんかじゃないよ」
「え、冗談じゃない? 私、ヒナさんに懐いてなどいませんが」
「そんなー。あたしたちの仲じゃん。手はつないでてよぉ」
慌てるヒナを見て、チナミは小さく笑った。
「わかりました」
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