イストリア王国編 コロッセオチャレンジ
1 『コメットリサーチ』
刀と刀がぶつかり合う。
激しい音を立てて、火花さえ散る。
ミナトは歌うように言った。
「もしかして、僕に本気出せって言ってる?」
口元に浮かぶ微笑も、いつもの透き通ったような朗らかさではない。挑発的だった。
「わかるかね」
「うん。剣が、そう言ってる」
つばぜり合いの形から、ミナトはぐっと押した。
サツキとの距離が取れた。
「じゃあ、いくよ」
真剣での勝負など、普段はほとんどしない。竹刀を使う。けれども、サツキとミナトはたまにこうして真剣を使った修業もした。
タッと音が鳴り、ミナトが一気に距離を詰めた。
間合いに入るのも一瞬なら、斬り下げるのも一瞬である。
《
しかし、サツキは特別な目を持っている。
これを《
また、激しい音が鳴った。
「あはは。いやあ、まいったなァ。ギリギリで止めてあげることも考慮してたのに、受けたばかりか、吹き飛ばないなんて」
涼しい顔のミナトに対して、サツキは歯を食いしばって「く」と力を込めた。
「はあぁぁぁっ!」
つばぜり合いの形から、サツキが刀への力をさらに込めて、ミナトを押し飛ばす。
「《
「スピードに差がありすぎるけどな」
「それも、サツキの《緋色ノ魔眼》がカバーしてる。もう僕の《瞬間移動》に反応できるようになった。普通、何度見せても反応できるようになる人などいないのに」
「でも、いないこともないんだろ?」
「うん。例外はいる。オウシさんとスサノオさんはきっちり反応する」
「なるほどな」
ミナトが手の力を抜く。
「で、サツキ。なにかわかったかい?」
修業中のライバルというより、友だち同士みたいな声に戻る。気になるものを見つけて相談し合う調子である。
「うむ」
サツキも肩の力を抜いて、刀を鞘に戻した。
カチン、とミナトも刀を収める。
「おお。それで?」
「ミナトの《瞬間移動》には、弱点もあるようだぞ」
「サツキ、そこまでわかったのか。話してよ」
実は、サツキとミナトは、ミナトの魔法《瞬間移動》について二人で研究していたのである。
時は創暦一五七二年九月三日。
どこにでもいる普通の少年・
サツキが降り立ったこの世界は、世界樹という大木が人々に魔法の力を与えた、魔法世界である。
目覚めると上空から落下していて、途中で気を失って、再び目を覚ますと、見知らぬ少女の腕の中にいた。サツキを召喚した少女・
クコは、サツキより一つ年上、白銀の長い髪を持ち、背もサツキより少しだけ高い。実は、アルブレア王国という国の第一王女で、国を救う手助けをしてほしいと頼まれた。
悪の大臣に乗っ取られようとしているそうで、話を聞いたサツキは、クコに協力することにした。
サツキは、世界樹のある
サツキのいた世界と酷似した地図を描くこの魔法世界では、世界樹は日本にある。そこが晴和王国である。クコのアルブレア王国はイギリスに相当するため、日本からイギリスへと旅するようなものだ。
文明はサツキの世界でいう幕末から明治時代だろうか。西暦一八五〇年から一九〇〇年くらいと思われる。発展した技術に違いもあるし、科学レベルも一概に言えないが、自動車や飛行機などもない。だから長旅になる。
まず、二人は、その旅の中で、王国奪還を目的とした組織『士衛組』を結成した。
アルブレア王国への道中、仲間を増やして、現在では十一人になった。
士衛組には役職もある。
組織のトップでリーダーが局長のサツキ、サブリーダーが副長のクコ。
参謀役で局長の秘書を兼ねる総長が医者の娘・
この組織の頭脳となるサツキとクコとルカは司令隊と呼ばれる。
次に、壱番隊隊長が不思議な少年剣士・
弐番隊は三人いる。弐番隊隊長は、亀の姿をしたダンディーな『万能の天才』
参番隊も三人。参番隊隊長がクコの妹で第二王女の
最後に、偵察や局長の護衛を担う監察が、超一流の技を持つ影の忍者・
そして現在――サツキたち士衛組は、イストリア王国に上陸して、首都マノーラを目指して旅をしていた。
サツキの世界の記憶と照らし合わせれば、地理的にはイストリア王国がイタリアになる。首都マノーラはローマだ。
そこでは、仲間のヒナにとって大きな目的があった。
父・
浮橋教授は地動説を唱え、宗教裁判にかけられている。
異世界の知識を使ってサツキも協力し、『万能の天才』玄内も知恵を尽くし、ヒナと三人で地動説証明の論理は導き出せた。あとは、イストリア王国の首都マノーラに行き、浮橋教授と会って裁判当日までに話を詰めるだけである。
裁判まであと二週間ほど、マノーラへの旅路の中でも、サツキとミナトは修業と研究に余念がない。
ミナトが聞いた。
「僕の《瞬間移動》が、オウシさんとスサノオさんに捕まるのには、なにか理由があるんだろう?」
「あの二人は特殊な感知法を使ってると思われるから、俺の気づきとは違うだろうけど理由はあるはずだ。俺はオウシさんみたいに《波動》で感じ取るんじゃない。目で見えた」
「《
それがサツキの魔法である。魔力を可視化することができ、動体視力も高まり、身体の重心や筋肉のきしみもわかる。
「俺の緋色の目で見たところ――魔力の
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