57 『参番隊のお菓子作りあるいは結束』

 家に戻った一行。

 サツキとミナトとアキが風呂に入り、クコとルカがエミの旅の写真を見せてもらう。ヒナは興味なさそうにしていたが、巻き込まれるようにして、いっしょに写真を見ていた。

 そして、参番隊の三人は、バンジョーと洗い物をしていた。


「夕飯の下ごしらえはこれで終わりだ。洗い物も大方終わったな」

「はい!」


 とリラが返事をする。

 バンジョーはきれいになったキッチンを見て、


「サンキュー! これからお菓子つくるんだろ?」

「ええ。デザートになるお菓子をと思ってます。そこで……じゃーん! 今日、バナナも探して取ってきたんです」


 リラが《取り出す絵本》からバナナを取り出した。一見ただの絵本だが、魔法道具になっており、中が四次元空間となっていて物を収納できる。収納した物は絵としてページに表示される。そこに今日探険して見つけたバナナを収納していたのである。取り出すときはページに手を突っ込めばいい。

 バンジョーは目を輝かせた。


「スゲー! この島、バナナもあるのかよ!」

「オレンジやリンゴの木もあります。不思議な島です」


 チナミが淡々と答えて、バンジョーが「サイコーだな」と笑っている。


「バンジョーさんも、下ごしらえと、洗い物……お疲れさま、でした」


 ナズナがそれだけ言うと、バンジョーはニカッと爽やかな笑顔を返して、


「やっぱ、きれいなキッチンでつくったほうが気持ちいいもんな! 頑張れよ! 参番隊!」

「ありがとうございます」

「頑張ります」

「た、楽しみに、待っていてください」


 三人がそう言って、バンジョーもひょいと手をあげて「おう! じゃあな」と部屋に戻る。歩きながら、「オレも今のうちに風呂に入っておくか! まだサツキたちも温泉に浸かってっかな?」と大きな独り言である。

 ナズナがリラとチナミに顔を向け、


「じゃ、じゃあ、やろう!」

「うん。頑張ろうね」

「おいしいのつくろう」


 リラとチナミもそれに応えて、さっそくお菓子作りが始まった。

 お菓子作りをしようとなったきっかけは、参番隊の結束にあった。

 士衛組の中で、合流が一番遅くなったリラ。

 そのリラを隊長として迎えるのが参番隊であり、それまではナズナとチナミの幼馴染みコンビで動いてきた。ナズナはリラといとこ同士だからチームワークも大丈夫だが、チナミとリラは面識がなかった。だから、ナズナはそんな二人をつなげる架け橋になって、結束を強めたいと思い、サツキに相談したのだ。

 そこで、サツキには参番隊の三人でなにかをやって、達成感を得られるといいんじゃないかと提案される。特に、ナズナの得意なことをして、二人のフォローをしながらできるといいと言われた。結果、ナズナが得意なお菓子作りになったわけだった。


 ――がんばって、フォローしよう。二人にもっと仲良くなってもらいたいもんね。


 やる気のナズナに、チナミが言った。


「ナズナ、お菓子作り上手だし、いろいろ教えてね」

「リラとチナミちゃんで、ナズナちゃんのフォローもするよ。ね?」

「うん。任せて」


 そんなことを二人に言われて、ナズナはちょっと慌てる。


「フォローは、わたしがするよ。えっと、だから、わたしに頼ってね」


 実は、すでにチナミとリラはナズナが気を回すことをせずとも、二人でナズナを支えて助けてあげようという気持ちで一致していた。二人にとっても、ナズナは妹みたいなところがあるからだろう。誕生日が一番遅いだけなのだが、二人そろってナズナには庇護欲のようなものを持っていた。

 また、同い年の三人だが、チナミは一番背が低い。キッチンを使うにはちょっと作業がしにくい。

 普段は海老川博士が一人で暮らす家だから、高さなどの規格は海老川博士に合うようになっている。海老川博士は一五六センチと小柄なのもあって、リラとナズナにとっても使いやすい高さのキッチンだった。

 しかし、一三三センチしかないチナミにはそれでも高い。

 リラはそれに気づいて、魔法で台をつくった。


「《真実ノ絵リアルアーツ》。はい、台だよ。これで作業しやすいでしょう」

「あ、ありがとう」


 その優しさも、チナミには歯がゆい。確かに作業するには助かるが、小さいのを気にしているから微妙な心地だった。


 ――あと十五センチ背が高ければ……いや、十センチでも高ければ、みんな身長同じくらいなんだけど。


 リラが一四七センチ、ナズナが一四五センチだから、理想としてはあと十五センチ欲しい。でも、無い物ねだりしても仕方ない。

 チナミは話題をリラの魔法に移した。


「それにしても、リラの魔法はすごいよね。戦術の幅がかなり広くなる。参番隊の戦いがどうなっていくか、楽しみ」

「メイルパルト王国ではね、リラちゃんが、着ぐるみに入って、戦ったんだよ」


 ナズナの言葉に、チナミは目をしばたたかせる。


「え? 着ぐるみ?」

「リラが好きなキャラクターで、テディーボーイっていうの。リラが理解していれば、描いたものの性質も再現できるから、力持ちになって戦えたんだよ」

「テディーボーイ、かわいいのに力持ちだもんね」


 ニコニコとナズナが言った。


「じゃあ、ぺんぎんぼうやは、入っても強くなれないか」


 と、チナミは苦笑した。自分もぺんぎんぼうやという大のお気に入りキャラクターの着ぐるみに入ってみたかったのだが、意味のないことらしい。

 リラが聞いた。


「入ってみる?」

「強くなれなくても、楽しいかもしれないよ?」

「じゃ、じゃあ、あとで入ってみようかな」


 リラ、ナズナに言われて、流されるようにチナミがうなずくが、口元はわずかににやける。あとで、ぺんぎんぼうやの着ぐるみが家を歩き回ってバンジョーや海老川博士を驚かせるのだった。

 話は戻り、チナミはふと疑問を浮かべる。


「でも、リラの魔法で描いたものは本物と同じ性能として、それを着ぐるみにしてもいいってこと? たとえば、恐竜の着ぐるみで恐竜と同じパワーが出せるとか、剣の着ぐるみでもちゃんと切れるとか」

「ううん。リラがれいくにをいっしょに旅した法師様にいただいた魔法道具で、《着ぐるみチャック》っていうのがあってね。リラの魔法は本物と同じ性質のものを創り出すこと。そこに、《着ぐるみチャック》を取りつければ、なんでも着ぐるみみたいに入り込めるの。だから、本物の剣を創って、その中に入り込むことができるって言えばいいのかな。リラ、旅の中でひょうたんに入ったことだってあるんだよ」

「へえ」


 相槌を打ちつつ、チナミは、


 ――ひょうたんに入るって、どんなシチュエーション……?


 と思ってしまう。


「テディーボーイのときは、たまたま着ぐるみっぽい感じの見た目で再現しただけなんだ」

「どんな戦いをしたか、チナミちゃんにも、寝る前に話すね」


 ナズナがそう言って、三人は作業していく。

 しかも、いつもは控えめなナズナが率先して、「リラちゃんは、これをまぜて。チナミちゃんは……あ、いちごとか、フルーツを切ってくれる?」と仕事を割り振り、自分も材料を用意する。


「カップケーキって、たくさんデコレーションできていいね」

「みんなも、食べやすいかなって」


 リラとナズナが調えて、チナミが生地の撹拌を終える。


「ナズナ、これでいい?」

「うん。ありがとう、チナミちゃん」


 このあとも作業を続けていき、ケーキを焼いて、粗熱を取る。

 今から十五分ほどは、待つ時間だ。


「バナナ取ってきた甲斐あったかも! とってもいい香りだわ」

「生地にもバナナが入ってるからね」


 焼き上げたバナナ生地の香りに、リラとチナミが笑顔になっている。


「チナミちゃん、バナナ、教えてくれて、ありがとう」

「探険も楽しかったね」


 と、チナミはナズナとリラに言った。


「うん」

「楽しかったね!」


 ナズナがうなずき、リラが嬉々と胸の前で手を合わせる。

 今日の昼間、三人で島を探険したときに見つけて取ってきたバナナ。それをカップケーキの生地にも練り込んだし、トッピングにも使う。

 盛り付けは三人でやった。楽しくおしゃべりしながら、いろいろなカップケーキをつくった。

 もちろん、食後のデザートに出した三人特製のカップケーキは、みんなに大好評だった。

 サツキも、参番隊のデザートが上手にできたことを喜んだ。

 あとでこっそり、ナズナがサツキの隣にやってきて、


「ん?」


 とサツキが思ったとき、


「だ、大成功、でしたっ」


 ナズナに耳元でささやかれ、三人のお菓子作りがうまくいったことを教えてもらったのだった。

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