49 『武賀ノ国あるいは観測』
この国を治める
弱冠二十三歳の青年だが、国主を影で支える宰相として、やるべき実務は多い。穏やかにゆったりしているように見えて、午前中からずっと仕事をこなして、昼下がり、ようやくひと息ついたところだった。
「さて」
そこで、今日届いたばかりの手紙を開いた。
手紙は二通ある。
一通目は、遠くの国に住む友人からだった。
その国とは、イストリア王国。
首都マノーラに居を構え、とある組織に所属している。
「『
「それだけですか?」
「うん。姫が気になっている、もう一通に移ろう」
「はい!」
封筒を開けると、三枚の便せんが入っていた。
「絵があります。しゃべってるみたいです」
『
「トウリさま。これは、物語ですか?」
「マンガ、と書いてあるね。どうやら、リラさんが会いたかった人に会えた場面を絵にしたものらしい」
「おもしろいです!」
キラキラした瞳でウメノがマンガを何度も読む。わずか四コマのマンガが二つあるだけなのに、繰り返し見てはにこにこしていた。
「姫はマンガが気に入ったようだね」
「はい。たいへん気に入りました」
「手紙のほうも読んだらどうかな? マンガでもお姉さんと再会できたことはわかるけどね」
「そうでした! お手紙も読みます」
小動物のような忙しさでウメノが手紙も読む。
「キミヨシくんは、もうすぐシャルーヌ王国の首都リパルテに到着するらしい」
「リパルテ。『
「うん」
「キミヨシさん。いっしょにいたトオルさんも、いい人そうでした。リラさんはお二人と別れたときはさみしかったでしょうね」
「そうだね。でも、出会いというのは不思議なものだ。きっとまた会えるよ」
「はい。リラさんがお姉さんとまた会えたように、あのお二人とも……」
『
トウリとウメノは、二人とは
元々、トウリはキミヨシとは友人だった。昔、同じ学び舎で過ごした仲だ。愛嬌のある猿顔は表情豊かで、とても楽しく、機転が利いて魔法もおもしろい、得難い友人である。
一方、トウリが学び舎を卒業して、キミヨシもその後卒業して旅に出て出会ったのがトオルということである。ウメノはいい人と言っていたが、普通は強面のせいで誤解されてしまう青年で、キミヨシとは同い年になる。
浦浜では、キミヨシとトオルはアルブレア王国に留学することを目的に晴和王国を出ると言っていた。同じくアルブレア王国を目指すリラとは、目的地がいっしょということで旅を共にしたのである。
そんなキミヨシとトオルは、メイルパルト王国の手前の国でリラとは別れ、一足先にイストリア王国を抜けてシャルーヌ王国まで行き着き、あとは海を渡って目的のアルブレア王国に降り立つのみとなった。
観測者として彼らの報告を聞きながら見守っていたトウリからすると、ここまで随分と長かったように感じられる。
「三人がまた会うまで、早ければあとひと月かな」
「早いといいですね!」
ウメノが笑顔でそう言ったとき、襖越しに声がかかった。
「トウリ様。お客様です」
声は測量艦の
「どうぞ」
トウリが答えると、襖が開いた。
「こんにちは。どうもお邪魔します」
人のよさそうなにこやかな笑顔でやってきたのは、隣国である
国主は、現在のところ『関東の古豪』
モクレンは、油の乗った四十を過ぎ、武力にも長じ、小座川氏を名家として存続させている実力者である。
その息子にして、黄崎ノ国の嫡男が『優しい
ゼンマイは第一子ゆえに、嫡男――つまり次期当主とされている。年はまだ十九だから、トウリよりも四つ下。武闘派の父に対して線が細い印象だが、知性派というほどの怜悧さもない。優しげな雰囲気と人好きのする雰囲気が漂う。
隣国同士、これまで戦ったり停戦したりを繰り返し、牽制を続けてきた。
しかし。
今年四月、両国は同盟関係になった。同時に、黄崎ノ国に属していた『世界の窓口』
国主モクレンはあまりおもしろくない状態にある。
それに比べるとゼンマイは、戦があまり好きではない性格の平和主義者で、両国が硬く同盟を結んだことで安心したらしく、こうしてたまに遊びに来るようになっていた。
「ようこそお越しくださいました」
「いらっしゃいませ」
トウリとウメノに迎えられ、ゼンマイはにこにこと腰を下ろす。
「あ、これお土産です」
「すみません。ありがたくいただきます」
「チョコたまごちゃんってお菓子で、
田留木は国主・
この里を束ねるのは
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