48 『手紙あるいは大陰陽師』
王都少女歌劇団『春組』の五人は手紙を読み始めた。
頭を突き合わせつつも、お姉さんのサザエが音読してくれる。
手紙には、リラが姉と合流できたこと、姉といっしょにいたサツキという少年のことが書かれていた。また、サツキからの文章だけの手紙も同封されていた。
アサリが手紙からわかったことをまとめてゆく。
「なるほど。リラがアルブレア王国の王女だって、オレたちはあとから知った。その姉といえば、第一王女だ。つまり、サツキくんは、第一王女といっしょに旅をしていたということになる。かなり大きな目的を持った旅のようだね。そして、リラとサツキくんは、互いにリョウメイさんとオレたち歌劇団と知り合いだってわかって、こうして手紙を同封した、と」
納得するアサリに、コヤスは難しそうに腕組みしている。
「それはわかったけど、このマンガってなに?」
スダレが絵を指を差して、
「この女の子の絵がリラちゃんで、こっちがサツキくん。二人が出会ったところと、リラちゃんがお姉さんと再会したところを描いたんだよ」
「正解や、スダレ。なかなか粋なことしてくれるで。これはますます楽しみやなあ」
その言葉に、アサリが引っかかる。
――ますます……てことは。
アサリは言った。
「それで、リョウメイさん。お知らせっていうと、近々サツキくんに会おうとでも?」
「ほんま鋭いなあ、アサリは。せやねん。スサノオはんがイストリア王国に行く言うねんか。ついて行くのが軍監の務めってことで、ゲンザブロウはんといっしょにちょっとな」
くつくつとリョウメイは笑っている。
「アタシも行きたかったなぁ……」
ぽつりと本音を漏らし、スダレは口を押さえる。
「すまんなあ。連れて行けへんねや。土産話はしたるけど」
「ボクは観光がしたかったよ。イストリア王国の景観はきれいだって言うしさ」
「そうね~」
ホツキとサザエが話しているところに、コヤスが笑いながら言う。
「でもさ、スサノオさんもいっしょだと観光する余裕なさそうじゃない?」
「あはは。スサノオさん、おもしろい人だよね」
おかしそうに笑ってホツキがうなずく。
スダレはやや困ったような顔で、
「アタシは、なんだか苦手かな……。怖い」
「オレは嫌いじゃないよ。素でオレより目立つ人は、あの人の他にあまりいないからね。そしてあの美しさ。人気もわかる」
と、アサリは冷静でありながら敬意も込めて言った。
「本物のカリスマよね~」
「ちょっと、みんな。ウチらは歌劇団。一応、アイドルなんだよ? そのウチらがアイドルの話するみたいになってどうするの。まあ、カリスマかつ変な人ってのは間違ってないんだけど」
コヤスは笑っていいのか呆れなのか、自分でもわからない調子である。
しかし、アサリは平然と言う。
「
「アサリはストイックやな。どこまでも天才やからな、スサノオはんは。だからこそ仕える価値がある。もう一人の『
リョウメイの言葉に、コヤスが疑問を向ける。
「ヴァレンさんっていうと、あの『
「せや」
「『
驚くコヤスに、リョウメイは笑いながら答える。
「知り合いって言っていいんかな。けど、関わっても別に死なんで。敵対しなければな。『
「そこですか」
と、ホツキがつっこむ。
「まあ、あの『トリックスター』二人と仲良うなって、丸くなったことは確かや。むしろ、死を意味するどころか、『トリックスター』のおかげで死は泡沫となり、現実だった悪夢は奪われ、悪夢を夢幻にしなはった。ヴァレンはんが『トリックスター』と仕掛けたマジックを、『千の魔法を持つ者』が実現したわけや。救われた貴公子の登場は、物語の最終盤まではとっておくことになるんやろけど……本来の形に秩序を戻しかけてるわ。さすがやで」
「さすがと言われても、『トリックスター』のところからなんの話だかさっぱり」
とスダレは眉を下げた。
『トリックスター』と呼ばれる二人組、
「アキさんとエミさん。お二人は、どうなりましたか?」
真剣な顔でアサリが問いかけると、リョウメイは微笑を浮かべる。
「怖い顔せんでええで、アサリ。今ゆうた通りや。やっと物語に追いついた。自分らの大好きな者たちを幸せにするためにな」
「『いたずら
ついアサリもほっとしつつも笑みがこぼれてしまう。
「そこがええところや。あの二人にも会えるやろし、楽しみは増えるばかりやな。うちは一度建海ノ国に戻るわ」
「はい」
「またな」
リョウメイは『喫茶あいの』をあとにする。
外に出てしばらく歩き、足を止めた。
「迎えに来てくれたんか、ゲンザブロウはん。おおきに」
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