31 『管理者権限あるいは新たな魔法』

 玄内の《魔法管理者マジックキーパー》は、鍵によって魔法の没収と付与が行われる。鍵を首の後ろに差し込み、ひねるのが発動条件になる。

 後ろを向けと言われ、ミナトは素直に玄内に背を向けた。


「はい」


 ミナトの首の後ろに鍵を差し込み、ガチャリと回す。

 サツキは少し、ドキリとした。


 ――まさか、ミナトから魔法を没収するのか?


 つい最近、仲間だったれんどうけいが裏切り者だと知り、粛正したばかりである。もしかしたら……とその可能性を考えてしまった。今まで一度もミナトのことをそんなふうに思ったこともなかった。それどころか、今いる仲間を疑ったこともないから、それだけにサツキの緊張は大きい。

 しかし、玄内は落ち着いている。


 ――いや、その逆……与えるのか。


 やっとそれに気づいて、サツキは息を呑む。

 ミナトがスパイや裏切り者だとしたら、玄内に後ろを向けと言われても、素直に応じるわけがない。ミナトの実力なら、あの素早さで逃げ出すことくらいはできるだろう。

 ただ、なぜ今なのか。そもそも、ミナトはどのような魔法を使えるのか。サツキには気になることがいくつもあったが、玄内がミナトに説明するのを待つ。

 玄内はダンディーな顔をニヤリとさせた。


「おまえの魔法と相性がいい。試すには、物足りないだろうがな」


 やはり、玄内はミナトに魔法を与えたようだった。《かんしゃけんげん》によって、玄内はこれまでも士衛組の隊士たちに魔法を与えてきた。まだなのは、再会したばかりのリラ、元々魔法を使えないバンジョー、魔法以外にあまたの忍術を有するフウサイ、そしてミナトだけだった。しかも、魔法などなくともミナトは恐ろしいほど強い。相性のいい魔法を手に入れてこれ以上強くなるのか思うと、サツキにはミナトの剣が到達する先が想像もつかない。


「へえ。こんな魔法が……。どうもありがとうございます」


 ミナトは魔法を与えられるとすぐ、どんな魔法をもらったのか理解したようだった。サツキが《とうフィルター》をもらったときもそうだったが、魔法の情報が記憶を植え付けられたように備わるのである。


「礼ならサツキに言え。サツキのおかげで手に入った魔法だからな」

「感謝するよ、サツキ。じゃあ」


 そう告げて、ミナトはひらりと姿を消す。

 サツキのおかげで手に入った魔法と聞き、俄然興味がわいた。サツキは玄内に問うた。


「先生、ミナトに魔法をあげたのはわかりました。どんな魔法をあげたんですか?」

「前に、おまえが戦った相手だ」

「俺が……」


 それ以上、玄内は教えてくれなかった。あとでわかる、とだけ言った。言い換えれば、サツキの知っている魔法でもあるのだが、玄内があとでと言うからにはまだ知ることはできないのだろう。

 すぐ横では、バンジョーが腕まくりをしている。


海老川博士えびかわはかせ、キッチン借りていいっすか? 夕飯の下ごしらえも今のうちからやっておきたいんす!」

「夕飯の用意までありがとうございます。どうぞご自由にお使いください」


 海老川博士から許可をもらって「へい!」と威勢よく返事をするバンジョーである。


「あと、お願いがあるんすけど!」

「なんだい?」


 バンジョーは手を合わせて頭を下げた。


「さっきの魔法、オレにも教えてください! オレは料理バカだから戦闘ではあんま役に立てねえけど、あれならみんなの魔力を回復させたりとか役に立てると思うんです!」

「簡単な魔法ですが、コツがいるので少しだけ練習が必要ですよ」

「はい!」

「うん」


 と、海老川博士はにっこり微笑んだ。

 一応、バンジョーは玄内にも魔法を学んでいいかうかがっておこうとした。弐番隊では隊長として指導してくれているし、普段からバンジョーにとっては無二の先生だからである。

 その玄内は腕組みしながらうなずいた。


「いいんじゃねえか。せっかく海老川博士が教えてくださるんだ、いい機会だと思うぜ」

「はいっす!」


 玄内の許可もちゃんともらって、バンジョーが海老川博士から《魔力菓子》を教わるのは夕食後ということになった。新しい魔法を覚えられるとあって、バンジョーはるんるん気分で料理をつくる。

 みんながそれぞれおしゃべりしているところで、ナズナがサツキの服の袖をくいっと引いた。


 ――なんだ?


 サツキは頭に疑問符を浮かべる。リビングルームの端に連れて行かれると、ナズナは声をひそめて、


「あの。サツキさん」

「なにかね」


 ほかのだれかには聞かれたくない相談であろう。サツキも静かに、優しく耳を傾ける。


「ええと、参番隊、です」

「ふむ」

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