32 『相談あるいは結束力』
ナズナからの相談は、参番隊についてだった。
「三人……そろったので、これから、みんなになかよく……なってもらいたいです」
「なるほど。チームワークの面でも、大事なことだ」
「わたし、だけ……だから。どっちとも、仲いいのは……だから、二人をつなげる、役割が、できたらなって」
「うむ。そうだな」
「そのために、どうすれば、いいでしょう?」
正直なところ、サツキはアドバイスなど必要ないと思っていた。
昨日。船でバンジョー特製のジュースを飲んだとき、ナズナに白いひげがついてしまったことがあった。その際、リラがそれを言って、チナミが口元を拭いてあげて、三人で和やかな優しい空気ができていた。
リラもチナミも、二人共ナズナが好きで、ナズナを妹のようにも思っていて、そんなナズナを守りたいという共通認識があるように見受けられる。すでにナズナは二人の接着剤になってくれている。
だから、ナズナが特別なことをせずとも、すぐに結束力が高まるように感じるのだ。
しかし、それはナズナに言うべきことではない。同時に、せっかくのナズナの気持ちが二人に届いたほうが、より早くよい循環を生む気もする。そして、ナズナを応援したい気持ちもあった。
少しだけ考えて、サツキは提案した。
「それなら三人でなにかをやって、達成感を得られるといいんじゃないか?」
「なにか?」
とナズナはサツキを見上げ、小動物のように首を傾ける。
「たとえば、ナズナが率先して動けること……ナズナの得意なお菓子作りとかどうだろうか」
「は、はいっ。それだったら、できそう、な気がします」
ナズナの瞳にやる気が灯ったのを見て、サツキは「うむ」とうなずいた。
サツキとナズナがリビングルームの元の場所に戻ってきて、少しすると――。
チナミがみんなに言った。
「ここには温泉があります。みなさん入りますか?」
「うん! 入る入るっ!」
ヒナがうれしそうに手をあげる。ほかのみんなも賛成だった。この士衛組という組織は、
ナズナも目を輝かせる。
「おっきいお風呂……みんなで入りたい」
「そうですね。わたし、晴和王国風の温泉はナズナさんといっしょに入ったとき以来です」
と、クコはなつかしむ。アルブレア王国にも温泉はあるのだが、母ヒナギクの好みで用意された小さなものをたまに使う程度で、普段使われるのは言ってみれば古代ローマの温泉のような趣きのものであり、晴和王国風の温泉には久しく浸かっていなかった。
海老川博士から説明がある。
「ある程度の掃除はしてますが、入る前にみんなで洗ってもらえますか? ここ二週間ほどは港町マリノフにいて、お手入れできていませんでしたから」
「うん、わかったよ博士!」
温泉掃除も楽しいイベントのような調子のヒナだが、まさかここで温泉に入れるとなってみんなもやる気だった。
「リラもお掃除がんばります。みなさんにも、温泉で疲れを取っていただきたいですし」
「あんまり濡れないようにね、リラ」
ルカがリラを気遣うが、本人は清楚な顔つきながら気合が入っているみたいで、
「大丈夫です」
と元気さをアピールするかのようだった。
チナミはみんなに呼びかける。
「先に言っておきますが、温泉は一つしかありません」
「当然よね。こういう家にあるだけで立派だもの。サツキ、私が一生懸命掃除して、サツキに一番風呂をあげるわ。いえ、普段からのねぎらいもかねて、背中も流させてもらうわ」
表情の変化は乏しいが一人で楽しそうに滔々と述べるルカ。
クコは笑顔で、
「わたしもサツキ様に一番風呂で感謝を示したいです! 背中を流すというのは、お背中にお湯をかけて差し上げるんですか?」
純粋に尋ねる。
これにはヒナが二人の前に立って、サツキとの視界を防ぐようにし、顔をやや赤らめながら怒ったように腰に手を当てた。
「あんたたち馬っ鹿じゃないの!? サツキに一番風呂をあげるのはいいとして、せ、背中まで流すとかっ、やりすぎよっ!」
「わ、わたしも……はずかしぃ……」
と、ナズナも赤面してヒナの背中に隠れる。
リラも、
「サツキ様がどうしてもと言うなら、がんばりますが……」
と照れている。
チナミはそんな彼女たちの様子をじっとりした目で見て言った。
「大丈夫です。そんなことはさせません。いつまでもふざけていると、サツキさんにも呆れられてしまいますよ」
「え?」
クコがどうして呆れられるのかわからないという顔でチナミを振り返る。チナミはくるりと背を向けて言った。
「ではみなさん、行きましょう。案内します。サツキさんに一番風呂をあげるのでしょう?」
「そうね。今回は、背中を流すのは勘弁してあげる」
すたすたと歩き出すルカに、ヒナがニヒッとからかう視線を投げる。
「どうせそんな勇気なかったくせに」
「ふん」
ふいっと顔をそむけるルカ。
チナミはサツキを振り返って、
「それでは私たちで掃除してきます。サツキさん、玄内先生、おじいちゃん。くつろいでいてください」
「悪いな」
掃除を手伝おうと思っていたサツキだったが、ここは厚意に甘えることにする。玄内と話したいこともあるのだ。
「いいえ」
チナミはほんのりと微笑んで、士衛組女子メンバー五人を連れて温泉掃除に向かった。
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