29 『古代の生態系あるいはファンタジー』
足下には見たこともない大きな花が咲いていて、かぐわしい香りが鼻孔をくすぐる。
「可愛いお花ですね」
「はい」
クコとリラは花々も楽しそうに見ている。
サツキも物珍しい花に目を向ける。
――ラフレシアとも違った、毒々しさのない鮮やかな花だ。『
高く林立する木々は、宙を覆うほどの葉が茂り、木漏れ日が降り注ぐ。川の音が近づけば、鳥と見紛うくらいに大きなトンボのような昆虫もいた。
木の枝には、細い枝でつくった鳥の巣があり、大きな卵が三つ四つ眠っている。
トカゲのような地を這う小型恐竜は、木の幹を登って、その卵を食べようとするが、親鳥が来て追い払われると、枝からグライダーみたいに滑空して木々を渡って逃げる。
そんな生物たちの動きを見て、サツキは考える。
――生物たちは、食べたり食べられたりしながら生き残りを賭けて生活してる。ここは、種の保存のための作為的な島ではないんだ。もしかしたら、進化競争だってあるのかもしれない。
つまり、だれかがつくって管理している島ではなく、自然界にガラパゴス化しながら存在する島であり、海老川博士はそんな生物たちの観察をして研究しているのだ。
ヘビやモグラ、カメなどもみんなどこか恐竜っぽく、耳のあるカメのような特徴をしたグリプトドンが昔にもいたのと同じく、それら生物が特殊な進化を辿ったと思われる。もっとも、グリプトドンはカメよりアルマジロに近いのだが。
逆に、川沿いを歩いていると、綺麗な水中にはアンモナイトがいた。
イカのような細長く鋭い生物も実はアンモナイトの一種であり、ウミサソリといった古生代の生物もいるし、ワニに似た水棲恐竜も悠々と泳いでいる。川なのにイソギンチャクやウミユリもおり、シーラカンスがそれを華麗にすり抜ける。川底には古生代の三葉虫まで見つけられる。
「当然だけど、アンモナイトは化石でしか見たことがなかったんだ。泳いでいるのを見られるなんて、感動だな」
「変わったカエルもいるねえ。オオサンショウウオに似てるや。結構可愛いじゃないか。いなせだなァ」
サツキとミナトは、この島独自の生物を見ているだけで楽しい。
バンジョーなんかは、楽しいのか怖がっているのか、
「なんだこの島はぁぁぁ!」
と叫んでいたほどである。
「お、こいつは普通のトカゲっぽいか?」
小さな黄色いトカゲに炎を吐きかけられ、顔を黒焦げにされた。
「あちいいいい!」
「満喫するのはいいが、ちっとは落ち着け。その
玄内が魔法で、黒焦げになったバンジョーの顔と髪の毛を元に戻した。バンジョーは治ると笑顔でトカゲに声をかける。
「そうだったのか。おう、オレはバンジョー。よろしくな」
「ひゅう」
トカゲが鳴いて、バンジョーがビッと親指を立て、また陽気に歩き出す。
ミナトがバンジョーを振り返り、
「あのムカデは空を飛んでますよ、バンジョーさん」
「うおお! マジか! 足が百本で
やや身体の短いムカデが羽を生やしたような生物は、さっきの巨大なトンボよりは随分と小さいが、鱗のように硬い身体を持つ。ただ、植物のミツを吸っているだけなので、人間には危害を加えないらしい。
「ほら、サツキ」
「なにかね」
「あれだよ」
「ペンギンか」
サツキとミナトが駆けていき、よく見てみると、ちょっとだけペンギンとは違う。この子も恐竜の仲間のようだった。
ぺんぎんぼうやというキャラクターが好きでペンギン好きなチナミは、その恐竜ともふれあっている。
「久しぶりだね」
きゅうと鳴く恐竜に、チナミは「ふふ」と楽しげに笑いかける。
茂みの密度が下がって空が開けると――
上空を、大きな翼竜が横切る姿も見えた。
風と共に、影が通り抜ける。
クコは目をキラキラさせて、
「サツキ様! なんだかファンタジー世界みたいです」
「俺にとっては、魔法が存在する時点で、ここはもうファンタジー世界だよ」
と、サツキは苦笑してみせた。
それからも、海老川博士の家に行くまでに、さらに何匹かの恐竜に出会うことができた。
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