23 『同門の懐古あるいは久しぶりの勝負』
オウシとミナト、久しぶりの再会。
丁寧な挨拶のミナトに、オウシは笑いながら言った。
「いらんいらん。他人行儀は嫌いじゃ。わしらは家族であろうが!」
「そうでしたね。いやあ、なつかしいなァ。オウシさんは相変わらずいなせだねえ」
柄にもなく照れている様子のミナトを見て、これはいよいよ本当に家族みたいな間柄なのか、とサツキは勘ぐってしまう。
「ミナトくん、大きくなったねえ」
「あ、スモモさん。お久しぶりです」
スモモとしては、自分よりも一センチだけでも背が高くなっているミナトを見ると、時間の流れを感じないわけにはいかなかった。自分の肩よりも小さかった可愛い男の子が、今では目線が変わらなくなっているのだから、懐かしさだけでない感動もあった。
「立派になっちゃって」
「いいえ」
謙遜するミナトに、今度はチカマルが挨拶する。
「お久しぶりですね、ミナト様」
「チカマルくんもいたんだねえ。久しぶり」
にこりと微笑み合うミナトとチカマル。
胸の奥ではずっと望んでいた出会いに、ミナトは笑顔がこぼれる。
――オウシさんの飾らぬ友情に、僕はなにもかもが輝いて見えた頃を思い出してしまう。……いや、今も世界は輝いてる。サツキの隣で見る世界は、この上なく鮮やかだ。
ミナトからすればスモモとチカマルも相変わらずで、懐かしい三人が目の前にいるのがうれしかった。
「家族ってなんです? 大将」
参謀・ミツキに聞かれて、オウシはどんと胸を張って、
「だから大将じゃのうて隊長じゃ」
「どっちでも同じです」
「普段は細かいのに、こんなときだけ大雑把なヤツじゃ」
「こういうときだけ細かいのは隊長です」
とんとんと餅をつくように小気味好い会話をしている二人だが、ミツキはオウシの過去が気になって仕方ないらしく、ミナトを見る目が鋭い。
「で、隊長。家族とは?」
オウシが昔を思い出すように腕組みして、
「兄弟って言うたほうがいいかのう。同じ道場で励んだ仲じゃ。同門である」
やはりそうでしたか、とミツキは納得した。
「オウシさんは強くて、道場の塾頭にまでなったお方です」
と、ミナトが教えるように言った。
「なにを言うか。だれもが言うぞ、ミナトは天才じゃ、天才剣士じゃ、と」
「いいえ。剣の天才などこの世にいませんよ。みなが学ぶ中にある。いずれ何者かが到達しうる高みを目指して。ときにオウシさん、みなさんはお元気でしょうか?」
「りゃりゃ。うちにいるのはトウリとコジロウ。二人は元気じゃ。コジロウは元気すぎて困るくらいじゃ」
「へえ。では……」
「一応、こっそり聞いたところでは、サルも元気らしいぞ」
本名なのかあだ名なのかわからないので、リラは「サル……?」と小首をかしげていた。まさか本物のサルが剣を振っていたわけではないだろう。
ふふ、とミナトは少女のように笑った。
「せっかくオウシさんを慕ってるんです、声をかけてあげれば喜ぶのに」
「やつにはやつの考えがあるゆえな。泳がせているところじゃ」
「泳がせる?」
「カッパといっしょにいるとそれがよく泳ぐ泳ぐ。泳ぎ方からなにから智恵をつけ、いずれ帰巣本能により戻るまで待つのじゃ。そうしたら、人の何倍も使ってやるぞ。あのサルめを」
「オウシさんは人が悪いようで良い人ですねえ」
「で、あるか。りゃりゃ」
「なに言ってんだか」
と、スモモがオウシとミナトの会話を聞いて笑う。
そもそも、ミナトやオウシがいた道場というのは、江戸時代における道場と赴きが近いようでいて、寺子屋のような側面もあった。剣などの武道を学ぶ場所だが、学も身につく。今でいえば学校である。西欧でいう学院とそう変わらないが、西欧では中流階級や上流階級の中でも裕福な家庭からでないと学院に通えないのに対して、
そして、ミナトやオウシがいた道場は人数が少なかった。中でも仲が良かった五人が家族のようだったらしい。
オウシがその看板塾生に当たり、ミナトはその中でも年少であった。みんなから弟のように可愛がられており、しかし剣の腕は随一で若くしてその才能は光っていた。ちなみに、チカマルが同じ道場に入るのは、兄・コジロウやオウシたちと入れ違いだった。
「あの頃は楽しかったなァ」
ミナトがぽつりとつぶやくと、オウシはクコの持っている竹刀を見て言った。
「その竹刀、貸してくれんか」
「は、はい」
クコが差し出した竹刀を受け取ると、オウシはミナトに剣先を向けた。
「どうじゃミナト! 一本やらんか」
急な勝負の申し入れに、ミナトは快く微笑した。
「ええ。構いませんよ。胸をお借りします」
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